第6話 起点は時に新たに起点を生む
星谷はそう言って刀を振りほどき、樹海へと入って行った。
「星谷のやつ、森に入って行きおったで!?あれええんか?」
「元部さんは五分の生存と回数制限を設けただけで、樹海を使ってはいけないなんて一言も言ってない。わざわざ体育館じゃなくて外で試験を始めた時点で気付けたわけね。」
「そういうこと。ハンターに求められるのは、生存能力、戦闘能力、判断能力、知識能力の四つ。星谷はZONEが無いからそれらの四つをZONE持ちに引けを取らないほどに高める必要がある。それの完成系とも呼べるのが、あの元部範行という男だ。」
「元部はんはZONE持ちやなかったんか…」
「それなのに技能系ZONE持ちと遜色ない日本刀の腕前…すごいわね。それを二刀流で対処してるアイツは何?変態なの?」
「キリエなんか当たり強ない?」
「とりあえず後を追うぞ。クリーチャーの介入が起きてもおかしくはないからな。」
木々を飛び移りながら背後を確認する。
まじか!?しっかり追いついてきやがるっ!?どんな身体能力してんだ?技能系のZONE…?日本刀を持ってるってことは技術向上能力か、何かしらのバフを刀に付与するやつだと思うんだが、現状はZONEを使ってるようには感じねぇ。ラストの一回、使ってくるとしたらそこしかない。刀を警戒しつつ後の二分を全力で生き延びてやらぁ!!!
ようやく意図を掴んだな。しかし、木の上では少し厄介。引きずり下ろすとしよう。
元部は星谷が飛び移るであろう木に先回りし、刀の一振りで木を切断して行く手を塞ぐ。星谷は異変に気付き木から降り、元部を見つけると構えの姿勢を取り待ち構える。
「来やがれ!」
言われるまでもなく元部による斬撃が襲い掛かる。
「首狙い!胴狙い!切り上げからの~…フェイントを含んだ腹回りへの二段突きっ!」
最小限の予備動作から立て続けに襲い掛かる刀による攻撃を見切り
「今度は俺から……一発ッ!!!」
隙を見て元部の腹に蹴りを入れる。ひるんで力が抜けたその一瞬を見逃さず、狩り獲るように刀を元部から引き離す。
「別に倒してしまっても構わなかっだろ?武士が刀を無くすのは致命的、背後を取られ凶器を向けられている。あんたのこの状況は、五分間の生存以前の問題じゃぁないか?」
「たしかに、一見すれば。私が君に負けた。そう見られるだろうな。だが、この状況で避けられないのは私だけじゃない。」
元部は咄嗟に懐から飛び道具を星谷に向けてノールックで投げつける。それを星谷はひらりと交わす。
「あっぶね!短刀……いや、投げナイフか。」
「生憎、今の手持ちではこれしか待ち合わせがなかったからね。使うとも思ってなかったが、ここまで追い詰められるとは…」
「ゲェッ!?」
避けたナイフの方を見ると木に穴が空いている。
「あれもしかして…」
「いつも私が愛用している投げナイフだ。君に飛ばされた刀と違って潰してなどいない本物だよ。」
ん?ちょっとまて。この人模造刀で木を切ってたよな?あれ、相当な手加減されてた?
「私も衰えたということか…」
「衰えたって、あんた何歳だ?」
「今年で53」
「えぇ!?」
53歳でこれって、全盛期は一体どんなバケモンなんだ…
「あと、いやもう時間か、星谷君おめでとう。試験合格だ。」
「よっしゃぁ!!」
「それで戦いの中で考えていたんだが、ZONE無しの状態で狩人階級:D+、いやC-と遜色ない戦闘センスに判断力。これらと後に芽生える可能性のあるZONEも踏まえて、訓練無しと狩人認定試験の生存、戦闘要素の免除までできる。」
「そんなにですか!?」
「私的にはこのぐらいでいいとは考えているが、現役狩人階級:EXの意見を聞こう。」
「私としては認定試験の免除は無しだな。あんたもだがZONE無しの肉弾戦なら星谷に軍配が上がるが、あくまでZONE無し。強力なクリーチャー相手に対人戦法は、ほぼ効きやしないからな。」
「えっ、また驚きなんだが。元部さん俺と同じでZONE持ちじゃないの!?てっきり技能系ZONEの保持者かと…」
「オレも昔はお前のようにZONEが現れないかとウズウズしながら待ってたさ。でも、運命ってのは残酷だ。ZONE研究者の発言ではZONE保持者は通常の人間にないものを持っている。星谷、なんだと思う?」
「えっと、なんだっけな。関節が増えるとかだっけ?」
「増えるという点では合っている。従来の天然で存在しうる髪の色というと、白・黄色、一般的には金・赤・茶・褐色・黒の範囲に収まる。その理由は従来の人間はユーメラニンとフェオメラニンの二つのメラニン色素しか持たないからだ。ユーメラニンが多いと黒、少ないと茶褐色の系統に。フェオメラニンが多いと赤、少ないと黄色の系統に。この配合で髪の色が決まる。だから天然で青や緑の髪は存在しえない。色の三原色で言うと、黄色と赤紫マゼンダはあるが、青緑シアンがない。だから青系統の色が発現するなどありえない。」
「でも、ガマやジョーカーはたぶん地毛であの色だぜ?」
「そういえばワイも地毛やな」
「確かに飛雷くんも地毛で青だった」
「そうでなのです。多くのZONE保持者の遺伝子情報にはユーメラニンとフェアメラニン以外の新たな色素であるゾーンメラニンと呼ばれる青や緑の髪となるゾーンメラニンというのを保持している。そのためガマ君やジョーカーのような緑、青髪などの地毛を持つそうです。」
「私は黒ですけどZONEはありますよ?」
「持つだけで髪色が変化しない場合もあります。しかし、ZONEの過剰使用や進化によってゾーンメラニンが活性化することもあるそうなので私もいくらか試しましたが、ZONEは現れませんでしたし。」
「俺ってZONEは発現できるのか?」
「あなたの髪色は私から見るに少しだけ青みがかっているようにも見えます。ZONE保持者の可能性は高いと思いますよ。それに君はまだ若い、それ故に希望に満ち溢れている。オレくらいの歳でZONEを発現させるやつは見たことない。でも、君の歳なら不可能を可能にすることもできるかもしれませんね。随分と話が逸れてしまいましたが、火野さんのこともありますし、三年分の訓練免除でいかがでしょう。」
「二年分じゃだめか?」
「おや、それはなぜ?」
「確かに俺はZONEを持たない割には頑張った方だと思うけど。火野さんが言った通り、あんたもZONE持ちじゃないんだろ?俺はもっとZONE持ちがいる環境で自分の力を試してみたい。それに……途中参加だけどハンターまでへのゴールテープはコイツらと一緒に切りたい。」
俺はガマとキリエの方を見る。二人は不思議そうな顔をしていた。
「君がそういうのなら、それもよかろう。では二年分の訓練期間をここに免除し、後の一年を全力を持って過ごすように。」
「やったぁーー!!!!」