第59話 上級職員は強キャラポジション
うーん、タイトルは何が一番伸びるのか…
「お前らのその服装、EDEN財団だな。」
「セッサ!その通りです。私たちはEDEN財団の上級職員。私は志治矢ノエル。そしてこちらは虚淵業。以後お見知りおきを。シルブプレ?」
「志治矢、無駄話は止めてください。最悪の場合、ここで死ぬかもしれませんので。」
「最悪の場合か、ならそれは間違いだ。最低でもだ!」
バハムートとトリシューラにはあの閻魔とかいうのを任せている。ここでこいつらを排除し、すぐにでも閻魔とかいうのを始末する!
火野は、目の前にいる二人に対して特大の火炎弾をぶっ放した。もちろん命中している。だが、二人は服が多少焦げ付くだけで、閻魔と同様に炎の中から姿を現した。
「いくら感情と痛みが失われても、流石にダメージは負いますか。」
「あらまぁ!なんともトレビアンな火力。ますます、閻魔の成長が楽しみです。」
効いている感じは少ないが、確実にダメージは入っている。閻魔のように耐性がある訳じゃない。それに、虚淵とか言ったやつの姿が変わってる。あれは、クリーチャーか!?
虚淵の姿は、頭部には銀色の仮面のような部分のあり、右片目が黄色く発光し、黒いボロボロのマントと白い軽鎧風の左右非対称な姿。体全体にひびが入ったかのような赤い線が入り、まるで王様っぽい雰囲気をしている。
「では、行きますよ。」
変身した虚淵が、火野に迫る。地面を蹴り、そのたった一歩の跳躍で距離を詰める。そして、ある一定範囲まで虚淵が近づくと、火野の体が急に重くなったのか、足が地面へと引きづり込まれる。
「重力操作か。」
「そのとおりです。」
虚淵は火野を殴りつけると、すさまじい勢いで火野は吹き飛ばされた。しかし、そこまで威力は無く、辺り一帯が無重力状態になった影響によるものだった。火野はそのカラクリに気づくと、地面へと魔王剣を突き刺し校舎にぶつからないように速度を殺す。
「破壊する!」
志治矢は、複数のコードを研究服の左袖の内から伸ばすとそれらを束ね、一本の巨大な鞭のようにしならせ、音速の一撃を火野の背中へと叩き込む。その一撃は火野の鎧を砕き、音速と同等の衝撃によって火野は、バトミントンの羽のように虚淵の方へと叩き返される。
何だ?この異様な強さは?これが、EDEN財団上級職員の実力だともいうのか?空を飛べる体でも無重力状態だと身動きも取りずらい。ならまずは、虚淵から叩く!
返された勢いを利用し、火野は大剣を振り翳し、虚淵を攻撃した。それを虚淵は片手で受け止めようとしたが、手から腕にかけて、受け止めたところから真っ二つに裂けた。虚淵は、それに狼狽えるわけでもなく、驚きもしなかった。
「おっと、裂けてしまいました。」
ただ、そのような事実を確認した。研究のレポートを見るような感覚で発したその言葉は、虚淵の狂気性を火野へと伝えた。
「化け物が…」
「心外ですね。化け物はそちらでしょう?」
虚淵の腕は、魔王剣を取り残すように、裂けていった肉と骨が再生していく。
「あなたの力。もらいますよ。」
虚淵が手のひらで火野へと触れる。そうすると、まるで静電気のようなバチッ!というような音が出ると、手のひらから煙が立つ。
「おや、すでに最終進化まで行っているのですか。通りで奪えないわけです。」
「奪うだと!?」
「どこかの社長とは違い、一時的なものですがね。」
そう言うと、虚淵は杖にナイフを付け足したかのような薙刀を生成すると、火野へと斬り付ける。その刃先からは青白い炎が迸り、斬りつけた個所にその炎は残り続けた。
「痛くは無いが、視界が遮られるな…」
「痛くはないのですか。やはり炎の耐性があるようですね。では、こちらはどうでしょう。」
虚淵が薙刀を上へと向けると、火野の体が火野の意識とは無関係に上昇を始め、身動きが取れなくなるほどの凄まじい圧迫感を火野は感じ始める。
「サイコキネシスというものです。どうですか?苦しいですか?その顔からして、結構効いている様子で…志治矢。」
「了解!」
志治矢は火野の両手足にツルのように鞭を伸ばして捕縛する。
「素材に耐熱性の高い物を使用してます。あなたの火力で焼き切れることは、まあないでしょう。さあ、フィナーレです!」
志治矢は右裾から剣を展開し、少しずつ鞭を引っ張り抵抗する火野との距離を詰めていく。
「待ちやがれ!」
「星谷!?」
焦ってえ。そう感じた時には体が動いていた。俺たちのこと思って戦いに行った火野さんの後ろ姿に感化されたと言ってもいい。目指す姿が目の前にあるのに、それに遅れをとるわけにはいかないと、体が叫んだような気もした。
「オルキス、なぜすぐに決着つけなかった?俺たちの身を案ずるくらいなら、もっと信頼してくれよな?これでもオルキスの体力を半分まで削ったのは俺たちだぞ?」
「そうだったな。」
「それに、特に、志治矢ノエル!お前ら、俺が死んだら困るんだってな?」
俺は自分の首元に機械剣を突き立てる。切先が当たり、痛みが走り、血が流れる。
「お前らがここから去らない限り、俺は、ここで首を断つ!」
俺自身を使った大胆な人質作戦。今までのEDEN財団の傾向からして、俺が死ぬことについては良く思っていないはず。あの、アド=ネトラムとかいうやつもそうだ。俺には、何かしらの謎がある。ずっと俺のどっかで引っ掛かり続けてるその謎をやつらが欲しているなら、何かしらの効果はあるはず……
覚悟を決めた顔で睨みつけると志治矢が声を上げた。
「おどしですか?その度胸は実に素晴らしい!ですが、無意味ですよ。あなたに惹かれている理由は職員によりけりですが、あらかた一緒です。」
その返答に驚く。
「何……?俺、自身を狙ってるんじゃないのか?」
「ノンノンノン!私たちが真に狙ってるのは器ではありません。あなたという器に宿らした、その魂です。」
「俺の中の魂…?」
「セッサ!あなた自身、認識も理解もしていないのでしょうが、あなたの器に宿る強大な魂は、我がマジェスティが痛く気にしておられます。」
「つまり、肉体を傷つけても人質としては無意味ってことか...…なら、より一層、無理してもいいな!」
「しまった!?」
機械剣を投げて火野さんに絡まり付いてる鞭を切り裂く。
「どうだ、ザマァみろ!このフランス野郎!今だ、みんな!」
「「しゃあーー!!!」」
「ひ…先生これを!」
「むぐっ!?」
キリエが火野さんの口にバクダンおにぎりをねじ込む。
「予備として残しておいた強化飯だ。後で腹が減ることになるが、効果は期待してくれ。」
火野さんは、口に含んだバクダンおにぎりを飲み込むと、火野さんの体からとんでもない威圧感を放つ。素の状態であそこまで強いのに、そこにドーピングを組み合わせたらもはや戦闘兵器だ。サイコキネシスで押さえ込む虚淵を、純粋なパワーだけでその拘束を解除させた。
「悪いが、うちの生徒は最強には届かなくとも、粒ぞろいだ。複数人でかかれば、お前らだって負けるかもよ?」
「計画に修正が必要なようです。」
「その通りですね、ムッシュ虚淵」
俺たちが虚淵、志治矢を追い詰めたその一方、閻魔は、四天王全員の連係プレーに苦戦しつつも、鎧を脱ぎ捨て、戦いを楽しんでいた。
「クフハハハハ!!!良いぞ!力の使い方が手に取るようにわかる。四天王とか言っておったか、貴様らとの戦いは、実に楽しい。その能力も、あの女の下にいるのももったいない。今なら余が新たな主人として飼ってやろうか?」
「くっ……まさか、俺たちよりも強いとは……」
「この強さ、我が魔王以上とまでは行かないものの、我ら以上の強さ。」
「あなたに使えるぐらいなら、私は死を選ぶ!」
「フェニックス、あなたは死なないでしょ?でも、その意見には同感よ!」
「ふん、その返答は面白くないな。やはり、ここで始末するか。」
閻魔は、地に這う虫を見るような目で一瞥する。片手を天へと向けたと思うと火野さんと同じか、それ以上の火球を生み出す。
「地獄を楽しむといい。」
閻魔が火球を振り下ろそうとすると、虚淵がそこに待ったをかけた。
「……みなさん、ここは引きますよ。閻魔も、いい加減遊ぶのを止めなさい。王の風格が台無しです。」
「待て虚淵。余は、まだ遊び足りん!」
「閻魔、あなたにはもっと強くなってもらわないと困ります。ここで失うのは惜しい、どうか戻ってきてください。静寂も、細かいデータは猫又に頼んでください。」
「は、はい!」
「ふん。まあ、よい。今日でなくとも、いつかオルキスを殺すのは余だ。先延ばされた死刑執行までの時間を悠々自適に過ごすがいい。クフハハハ!!!」
「では、皆さん。さようなら。」
そう言うと、志治矢たちの体が光り出し、ポリゴンとなって消えて行った。
虚淵、志治矢は、タイミングは完璧だったが、相手が悪すぎた。閻魔は、能力だけなら甘く見積もって火野と同等くらい、戦闘能力は、学習中なので機転を効かせた戦い方だったら星谷にも負けます。