第56話 感謝とぶっ倒す宣誓
「火野さんと本気でやりあえるの初めてだぜ。ずっと待ってたんだ。あの時、助けてくれなかったなら、今の俺はなかった。だから、見て欲しい。成長した俺を!」
「俺も同じだ。あんたがこのバカを救ってくれなきゃ、この学校のやつらと上手くつるむ事ができなかったし、生活だって今までよりもよくしてくれた。だから、恩を返すために全力であんたをぶっ倒す!」
「私は、もっと姉さんと、家族の時間を過ごしたい。今まで失ってた分を取り返すために!だから、ここで倒して、姉さんを倒して認めさせてやる!」
火野さんへ各々の気持ちをぶつける。これは宣誓とぶっ倒す宣誓である。
「巴さん、機械剣いるか?」
「いらない。素手で行く。(タイミング見計らって渡して。)」
「了解。(合図くらいしてな?)」
「星谷、あと何分だ?」
「あと五分くらいだ。(巴さん、ガロウ、基本はローテーション。一人がヤバそうだったらヘイトを自分に向け引き受ける感じでよろしく。)」
「(わかった)」
「(やってやるぜ)」
「すぅーはぁー」
深く息を吸い込む。カフェインは等に回り切っている。視界良好、頭の回転絶好調。世界がスローに見える。今、集中とかいう領域を超えて、オーバーゾーンに入った。
「着火……炎描く居合軌道!」
機械剣を引き抜く。火野さんに教わった技をぶつけ先制攻撃する。
「炎描く居合軌道!」
火野さんはそれに本家炎描く居合軌道をぶつけてくる。その威力の差は絶大。俺のをいとも簡単に飲み込みながら、火野さんの放った炎描く居合軌道が向かってくる。
「オラッ!」
機械剣でそれを叩き斬り、火野さんへと接近する。だが、火野さんも攻撃の手を緩めない。向かってくる俺に対し、牽制、撃墜しようと無数の火炎弾で応戦する。
完全に無効化はされていなくとも、頬をかすめる程度の火炎弾で体に痛みが走る。だが、この痛みがさらに体内のアドレナリンを増加させる。そして、オーバーゾーンに入った俺にとって、火野さんのグミ撃ち攻撃は、完璧とまでは行かなくとも避けるこた自体はそう難しく無い。
機械剣の間合いに火野さんが入る。そして、火野さんが大剣を振りかざす。熱く、重たい一撃を、俺は機械剣で受け止めると、その衝撃から地面に窪みができる。
「ほう、まだZONEも完全に発現してないのに耐えれるか。」
「重いが、耐えれないほどじゃねえ!」
大剣を振り払い、少しだけ距離を取る。
「なら、これはどうかな?」
トンッと地面を蹴り、俺を間合いへと入れ、火野さんが大剣を振り回す。一撃一撃が必殺の如き威力と重さの攻撃を、反射神経と経験頼りに何とか捌く。しかし、パワーの差で押され始める。フェイントを織り込んだ斬撃も交わされ
「うっ!?」
腹に火野さんの斬撃食らう。HPがミリまで削られる。腹が裂かれるような痛みが走り、嗚咽する。
「どうやら、これで終わりのようだ。」
大剣が振り降ろされる。それを俺は全力で機械剣の凹凸部分で受け止め、ガッチリと火野さんの大剣を固定する。
「捕らえたぜ!今だ、ガロウ!」
「闇影纏う餓狼の拳――何っ!?」
火野さんは大剣から手を離し、反対側から向かってくるガロウの拳を受け止め、遥か空中へと投げ飛ばす。俺は、その隙を見計らい機械剣の凹凸部分で挟み込んだ大剣を巴のいる方へと投げ飛ばし、火野さんからの追撃を避けながら一度距離を離し、体勢を立て直す。
「(使え!)」
「(え、ちょっ!えっ!?)」
巴は焦りながらも火野さんの大剣をキャッチし、構える。
「(どうだ持ち心地は?)」
「(最高に重いし、結構偏重心ね。普通の時に振り回したら遠心力で肩もげそう。)」
「(なら、火力には期待できそうだな。)」
剣を持たない魔王など、カツが乗っていないカツカレーと同義だが、そうまだ、カレーという火野さんのトンデモミックスされた能力と肉体、さらには武術まで残っている。現状で手一杯、いやお腹いっぱいのこの状況下で、さらに新たな能力を増やされるのは避けたい。キリエたちの火力で押し切れるようように、全力で叩く!
星谷が火野先生を抑えているのを見て、俺は星谷からの指示があることを予感して走り出す。今のあいつらは真っ正面からやりあっている。だから、火野先生の死角、逆方向から攻め立てる!
手に闇が灯す。俺自身、闇を灯すという表現が合っているか分からない。だが、体が訴えている。こうしろと、そうすればこの状況を打開できるかもしれないと吠えている。その声に従うように、任せるように、委ねるように力を込める。
腹が減った、食いたい、食いたい、食らいたい。
渇き、餓え、そして欲する。
何を欲する?その体は何を求めてきた?
力だ。
そうだ、もっと求め、喰らいつけ。
「今だ、ガロウ!」
予想通り来た!瞬間影移動の範囲内に火野さんの影を入れ、瞬時に背後を取る。
「闇影纏う餓狼の直拳!」
右拳を前へと突き挙げ、火野先生の後頭部を狙う。いくら火野先生であれ、後頭部に大きな衝撃が加われば立つことも儘ならなくなる。そしてこれでスタンを取り、最後の一撃をあいつらに託す!
だが、ガロウの拳が、火野の後頭部に当たる寸前、星谷からガロウへと標的を変え、一瞬にして振り向くと同時に拳を掴む。
「――何っ!?」
その直後、体に浮遊感を覚えた。俺は火野先生によって空中へと投げ飛ばされていた。正確な高さこそ分からないが、学校の屋上が下にあった。この高さまで飛ばされちまったら戻さんのZONEでの救助も無理か……いや、待てよ?これならいけるか?
ガロウ君が上空に投げ飛ばされた後、星谷君が奪取した姉の大剣を握りしめて姉に斬りかかる。
「はぁー!」
姉は振り向き、胴で受ける。
「無駄だ――うっ!?」
攻撃が入った!?
不思議な感触が手に響いた。手ごたえを感じた。今までいろんな攻撃を食らってきた姉が、初めて怯んだ。振り回すのが困難だと思っていた大剣も、何故だか手に馴染む。星谷君のとは違った馴染み方だ。彼のは扱いやすいというが第一印象だった。でも、この大剣は自ら寄り添ってくるような安心感がある。姉は斬撃を受けた腹部分をさすりながら言った。その顔は、驚きと期待に満ちているかのようだった。
「まさか、お前にも使えたとは。驚きだ。」
「私だって、やればできる!」
「そうか、私が知らないうちに、立派になったんだな。」
姉は少し笑みを浮かべると、両手に炎の塊のような剣と盾を作り出した。まだ防御手段があるのかと内心呆れながら姉を見る。
「魔王剣には劣るが、これで十分かな?」
「いいや、不十分よ。」
私は星谷君とガロウからメッセージを受け取った。
「「(次で決めるぞ!)」」