第54話 カエルの恩返してきな?
「すげぇなガマのやつ、何だかんだで佐々木よりも時間稼いでる。」
「ガマの家で隠れてコソコソ練習してたからな。」
「そうなのか?」
「一人で家の体育館で空中を駆け回ったりとかリズムの練習とかな。」
外野がうるさいのお。ワシのこと舐めすぎやないか?まあ、そう見せかけとるのは事実やけん否定はできへんが、この勝負に勝つために練習して来たのは事実や。
「炎描く居合軌道!」
「弾け飛ぶ衝撃:空気防壁!」
ガマは、蝦蟇の三叉槍を前へと突き出し、弾け飛ぶ衝撃を発動させて炎描く居合軌道を相殺する。続け様に飛んでくる火炎弾をガマは弾け飛ぶ衝撃の反動を利用し、タイミングをずらして被弾を最小限に抑える。さらに火野の大剣に対しては、蝦蟇の三叉槍のリーチを生かし、一定の距離を保ちながら守りに徹する。
星谷はんには隠しとるが、この槍の先端部分には裁縫針ほどの大きさの針を飛ばす機構が備わっとる。せやから、こうやって矛先を火野はんに向けて……打ち出す!
「弾け飛ぶ衝撃:狙撃銃」
三本の針が三叉槍の矛先から発射し、火野は飛来する針に気付くことなく被弾する。そして攻撃を行ったことで弾け飛ぶ衝撃の発動条件が満たされ、着弾点にノックバックが三回連続して叩き込む。火野はノックバックの反動が来たことに一瞬だけ驚くも、笑みを浮かべる。
ワシを拾ってくれてここまで、育ててくれた感謝を伝えるのはそう簡単なことやない。言葉や物で表すのもワシらしくあらへん。せやから、ワシはこの勝負で勝つ。勝って安心させてやりたい。お前が育ててこいつは立派に成長したと、勝って伝える。そう言った面では巴はんと動機が似とるな?まあ、それはワシにとっても嬉しいことや。人間として成長したんは事実みたいで嬉しいわ。
「ガマのやつ一体何をしたんだ!?」
「針が飛んでた。」
「針だと?ワッツ!?」
「ああ、裁縫とかで使うような針が槍の矛先から出てやがった。ガマのやつ、ギミックがあっても使い難いとか言ってたくせに、一丁前に使いこなしてるじゃねぇか。」
バレてもうたか。まあ、これくらいの事なら別にバレても構わへんか。せやけど、どこまでこの戦闘を長引かせるか。今のところ稼げている時間は約10分。終わりまでワシが時間を稼いだとしてもこれやと全員の勝利とはならへんよな?火野はんと戦いたくてウズウズしとるやつが、まだおるっちゅうのに。ワシ一人が今回の主役をやなくてもええ、みんなで主役をやるんや。
ガマは火野がノックバックを食らっている間にアクロバットのように空中を駆け上がり、驚きによって動きが多少鈍った火野のへと急接近し、大剣を穿つ。
「弾け飛ぶ衝撃:二重衝撃!」
三叉槍を使うことで実質的な三回攻撃を行い、二重衝撃を合わせて、一突き12回の衝撃が火野を襲う。
「合計12回攻撃や!少しは怯んでくれはるか?」
しかし、火野の大剣によるガードは硬く、ノックバックの衝撃をもろともせずに火野は空中に留まる。
「いい攻撃だ。ここまで致命的な被弾を抑え、着実にダメージを与えてくるヒット&アウェイの戦法は、やっぱり慣れないな。結構時間を割いてしまった。」
「まるで美食屋みたいだ。」
「美食屋ってあれか。前から思ってたが似てるよな」
「(無駄話挟まんといてや!気が散ってしゃあない!)」
「(すまん)」
ほんま耳障りや。せやけどここまで時間を稼いだ。火野はんもそろそろ痺れを切らす頃合いや。いっちょ鎌をかけたる!
「どうや、この身のこなし。いくら最強の狩人や言うても結局は情に負けて全力も出せへんか。半人前やな!せやから、ジョーカーはんにも思いを伝えれんとちゃうか?このレジギガスが!」
「……ガマ、お前は、触れちゃいけない事に触れた。一線を超えた。」
「せやから何やねん?」
「ここで潰す。」
目がマジになりおった。煽りすぎたか?
火野の大剣に巻かれていた包帯がみるみるうちに解けていく。そしてそこから途方もないプレッシャーが放たれる。禍々しく、この場に居る者を全てを焼き尽くすような、まさしく炎魔王の如き重圧。
火野はん、本気を出し始め取るな……ワシも少しばかり本気を出すか。
全身に力を籠める。次に来るであろう一撃に備え、全神経を集中させる。体内で生成しとる毒をエネルギーへと変換し体中へと流し、全ての細胞を活性化。既に作る切っとる毒を体と槍の表面に粘液として展開し、向こうてくるエネルギーを少しでも外へと逃がさせる。それでも無理ならあの手を使うしかあらへんが。
火野の大剣の周りに煙のようなもやがかかり始める。そしてそれは赤黒く、まるで闘気の塊ともいえるような炎へと変わりゆく。
「まさか、ガマのやつ正面から受ける気か!?」
「バカやろう!一撃で倒れたら計画が台無しになるぞ!」
「うるさいねん。ワイは死なへん。星谷はん、みんなで勝つんやろ?ワイなら心配せんでもええ、耐え切って根性見せたる!」
「策はあるんだよな?」
「ふっ、アホか。なかったらこんな事してへんわボケ。」
「そうか、策があるなら、ちょっと本気で行くぞ。」
火野は大剣を左手に持ち替え、右手を天に向け、詠唱が行われる。
「燃え盛る深淵の王よ、汝が炎の鎖を解き放ち、紅蓮の息吹にて万物を焼き尽くせ。炎魔王の名の下に、地獄の門を開き、永遠の劫火を呼び覚まさん―――」
詠唱を行っているうちに、右手にとてつもないエネルギーが集約される。それは球の形をした炎。まさに、太陽と言っても過言ではない物体だ。
そしてそれは降り落とされた。
「―――炎魔王の獄炎」
太陽が迫ってくる。ガマはそれを迎え撃つように蝦蟇の三叉槍を突き出す。粘液によってコーティングされたその表面は、粘液を介していたためか、桃太郎の強化飯のバフを受けて温度による形状変化を防ぎながら、太陽をガマに近づけない。しかし、その質量はあまりにも大きすぎる。温度の壁を越えても、その推進力は越えることができない。ガマの体は徐々に空中から地上へと押し込まれていく。
アカン、持たへん。空中に留まる事も踏ん張ることもできへん。このままやといくらカウザーはんの技術と桃太郎はんの強化飯があったとて、この熱量は防ぎきれへん。暑いのもそろそろ我慢の限界が来とる
暑さが熱さへと変わるうちにここから離脱せんとあかん!使うか……奥の手!
地面へと振り落とされた太陽が爆ぜる。爆発によって起きた風圧がコロッセオを粉々にし、校舎を揺らす。二人の戦場には砂埃と黒い煙が立ち上った。おそらくなどの言葉を使わなくとも、その場にいるクラス全員が致命傷だと確信した。だが、その煙共の中に立つ影を星谷は見た。腕が少しばかり焼け爛れ、全身黒焦げアフロヘアで口から煙を上げながら、膝を地面に着き白目をむいたガマの姿だった。
「ワイは、一つ教訓を得たで……女の恋心を、踏み躙るべからず……がくっ……(めーでーめーでー救助頼むわ。疲れてまともな思考ができへん。)」
「(お前、よく生き残れたな!?)」
「(ええから早くしてくれめんす)」
「(ガマの知能レベルの低下を確認、体も黒焦げでダメージが大きいです!)」
「(了解、すぐに治療してやってくれ。)」
ガマを回収された後に火野さんの方を見る。
「なあ、あれって」
「琴線に触れたってやつだ。」
そこにいたのは、いつものように中途半端な着方をした鎧を身に纏った火野さんではなく、炎魔王がそこにいた。
詠唱自体にぶっちゃけ意味は無い。そうありたいと望むことが重要。
最初は三叉槍持たせて大丈夫か?と思ったんですけど、ノックバックの発動回数を増やせることを書いてる途中で思いついて結果オーライ。