第5話 仮試験の相手は取締役
結局持ち帰った野菜たちを使ってサラダだけ食べて家でゴロゴロしていると火野さんたちが帰ってきた。そして起きたことを包み隠さず全て話した。
「なるほど、そんなことが。狩人育成機構に調査の依頼を出しておこう。報告ありがとな、星谷。」
「ほんと大変だったんだぜ?直近で二度も死に直面するとか、何が何とかの正位置は喜びだよクソ!」
「一体何をキレとるんや、星谷は?」
「いや、今日の朝テレビ見てたらピエロみたいな強いハンターが紹介されてて、そいつのカード?みたいなやつで正位置は喜びかみたいなので、画面前の君たちかもとか言ってたから。あっ!それで思い出した!あのナイフ使ったら落雷?みたいなスゲェの出たんだけど、もしかしてあのジョーカーってやつのナイフ?」
「え、うーん。まぁーそうなのかなー」
何故か火野の反応が悪い。
「そうなのかなーって何さ勿体ぶらないで教えてよー」
「は、ははは」
火野がはぐらかしていると
「私もその話興味ある。」
キリエが食いついてくる
「だろー?ねーねーおしえてよー!あっ!わかった!」
「何がや?」
「もしもの話だが、あのジョーカーってやつ。もしかしたら、火野さんの元カれ……」
「断じて違う!そんな関係じゃなぁい!!」
火野がすごい勢いで否定する。
「じゃあどんな関係なんですか?火野さん。」
そこにキリエが追い打ちをかける。
「えーっと、そ、そのー。」
「「「どうなんですか?」」」
「た、ただの、おっ、おさ、なじみ、で、す。」
「え、それだけ?」
「何ていうのかな、しのぎを削り合った仲って言うか…腐れ縁というか…仲は良いんだが、ちょっと苦手なところがあって……ジョーカー、いや飛雷蒼華は私の……初恋、です。」
「「「えぇぇぇぇーーーー!!!!!!!」」」
火野は恥ずかしそうに頬を赤らめ、手で顔を覆っている。
「これ以上だとなんか可哀そうになってきた。」
「せやな、ホンマ申し訳なくなった来たわ。」
キリエが思い出したかのように火野に問いかける。
「火野さん、あのこと言わなくていいんですか?」
「あ、うん。それもそうだったな。星谷、お前をガマたちと同じ学校に入れることにした。」
「学校って言われても、俺、暇さえあれば図書館にずっといたから教養は無いにしても知識はあるぞ?」
「ハンターになるために一歩近づけると言ったら?」
「行きます!!!」
「素直でよろしい。ハンターになるためには、狩人育成機構に属する施設or団体もしくはAランクの以上の資格を持つハンターの下で最低三年間の訓練を必要とし、その後三年に一度開催される狩人認定試験に合格しなければハンターになることは出来ないってことは知ってるよな?」
「それは知ってる。でも試験は来年だぞ?少なくとも今の段階で訓練を二年分は受けてないと試験にだって間に合わない。」
「だから、ちょっとした裏技を使う。狩人育成機構は特例措置として、例えば非常に優秀かつ稀有なZONEを持つ人物、ハンターとしての優秀な素質がある人物が見つかった場合は、その人物を三年間の訓練のみで試験を行わない。または訓練を必要とせず、直接のハンター試験に望める場合がある。だが、この特例を満たせるのは上記に加えて、それぞれの区のにおける狩人育成機構の取締役にOKを貰う必要がある。今の星谷にはZONEはないが、私が見る限り優秀な素質があるとは思っている。」
「じゃあ!ワンチャン俺もガマ先たちに追いつけるかもしれないってこと!?」
「そうだな。さっき話してくれたことに加えて、ZONE無しでどこまで戦えるかによっては三年とまではいかないだろうが、良くて一年、最高で二年分は免除されるだろうな。」
「でもどうやってOK貰うんだよ?」
「それはだな……」
「私が直接試させてもらおう。」
リビングに現れたのはスーツ姿の腰に日本刀を携えた男。
「あんたは…?」
「彼は、七区の狩人育成機構の取締役。元部範行さんだ。」
「はじめまして、星谷君。」
「は、はじめまして。星谷と言います。」
「そんなに凝り固まらなくて大丈夫ですよ。私が君に試したいのはハンターとしての素質。態度を見たい訳ではありませんからね。」
「フーン、じゃあどうやってハンターとしての素質を見極めるんだ?まさか今からクリーチャーと戦えなんて言わないだろうな?」
「はっはは、私でもそんな酷なことはしません。見極めさせてもらう内容は生存能力です。君は既に二回、クリーチャーと相まみえたそうだね。」
「ああ、一回目はイノシシに追い回されボコボコにされ、二回目はサルに雷ナイフをぶっ刺して勝利。どっちにしても…」
「ZONE無しの君にとっては奇跡的だったろう。だが、奇跡は続くことは無い。運命というのは時に残酷に無情に私たちに襲い掛かるものだ。今から君に行う試験は私の攻撃を五分間耐え抜いてもらう。その間に合計十回攻撃を食らったら、そこで失格だ。君のその実力が果たして奇跡によるものか、必然によるものか試させてもらおう。表に出な。」
元部に連れられて外に出る。互いに武器を構えて開始の合図を待つ。元部は腰に携えた日本刀を抜いて構え、側や星谷は短剣の二刀流で待ち構える。
相手は日本刀の一刀流。下手に盾を構えても、日本刀相手には意味をなさない場合が多い。死角を作ってしまったり、盾に沿って身体を移動させられて一発もらうのがオチだ。だから俺は二刀流を選んだ。扱いは槍の方が馴れているが、懐に入られた時にはもうお終いだ。
「互いに準備はよろしゅうな?ほな、始めッ!」
「ふん!」
「危ねっ!?」
ガマの開始の合図と共に元部は間合いを詰め、星谷に切り払いを行い、星谷はそれを両手の短剣で間一髪防ぐ。元部は両手を使いガードをし、ガラ空きになっている星谷の胴に蹴りを入れる。その蹴りを入れられる瞬間に星谷は自ら後方へとジャンプし、威力を軽減させながら確実に距離を離す。
あっぶねぇー!!あの人確実に首元狙ってやがるぜ。もう少し反応が遅れて、あの光の線のような斬撃に当たってたら、今回使ってもらってる刃を潰してある模造刀であっても、一発アウトもんだぞあれ!
「ほう。受け止め、そして流すか…」
「ほんとヒヤヒヤしたんだぜ?正確に首を狙った一太刀。見事だったが、俺には届かないぜ?」
「それも今だけよ。」
「へっ!どうだかなぁ!」
煽り合いが終わると同時に今度は星谷の方から仕掛けに元部に切り掛かるが
「うっ!?」
高速で放たれた一閃によって二本の短剣をものともせずに星谷の体に一撃を当てた。
「まずは一撃…」
な、なんつー重い一撃。咄嗟にガードしたのに今度は防ぎきれなかった。それに近づいてわかった。これは無理ゲーだ。圧倒的に実力差が離れてやがる。堅実に耐え抜いたとしても二分が良いとこだぞ!?
あの少年。ZONEも無しに私の最初の一太刀を受け止めたか。流石は火野君がふっかけてきただけのことはあるようだ。
蹴りを入れた時に軽かったのはおそらく咄嗟に後方へと飛んで威力を軽減し殺したわけか。戦闘センスは平均以上と言った感じだが、しかしこの少年、私がなぜ表に出したのかまるで分かってないようだな。
「大丈夫かね少年、息が既に上がっているように見えるが?」
「なぁに、まだ一発貰っただけだ!」
その後も星谷は律儀に洞窟の前で刀に耐え続けた。しかし一発、また一発と当たり続けて、残り一発食らえばアウトの状態まで追い詰められていた。さらに時間は半分を切ったところ、星谷にか勝ち目のない状況だった。
一方の観戦組たち
「なあガマ、星谷ってあんな感じだったか?」
「いつもと違って煽り口調よね。」
「あいつ、戦いになると口調が変わんねん。それに動きも判断力もどんどん上がって早よなっとる。」
「まるで「ゾーン」に入ったアスリートみたい。でも、いくら集中力が上がってたとしても後一太刀で終わる。逆境になればなるほど戦闘スキルや能力が上昇するようなZONEじゃない限り…」
「正面からの戦いには勝てない。でもあいつも心の奥底では気付いてるはずだ。」
「「え?」」
「ZONE無しでもこの状況に耐え続ける方法に。」
「時間は半分を切り、あと一撃で君はアウト。万事休す、といった具合だろう。諦めるかね少年?今ならここまでの生存含めて半年分ぐらいなら認めてあげても構わんのだが…」
刀を交えながら元部は、星谷に問いかける。
「嫌だね。」
「なに?せっかくのチャンスをドブに流すと?」
星谷はにやりと笑みを浮かべて答える。
「違うね、今見えてんだよ。あんたに認めさせることができる、道すじってのがな。」
「勝算の低い方を取ると?あまりに運頼み。言った筈だ、奇跡は連続して起きるようなものではないと。奇跡ではなく…」
「……実力で示せと。わかってるってんなこと。それに何であんたが体育館を使わずに外を選んだのか、初めっから気づいてたが使っていいのかわからなかったんでな。今話してる時のあんたの顔見て確信した。使っていいんだな?」
「私はただ五分間生き延びろと言っただけ。使いたければ、使うがいい。」
「んじゃ、遠慮なく。」
星谷は「三年間の修行はバイトで何とかなる!」と思ってた。