第47話 楽園の夢語り
「避難誘導ありがとな、坊主。」
「狩高生として当然なことをしただけだぜ?」
「ハッハハ!こいつぁ良い後輩ハンターができそうだ!」
ハンターのおっさんに背中を思いっきりぶっ叩かれながら俺はフードコートでガマたちと再開した。
「これ誰がやったんだ?」
上下真っ二つ、ギロチンにでもかけたかのような切断面を見た後に後ろに立っているガマたちの方へと振り向く。
「えーっとな、ワイの新必殺技でこうなった。」
「ガマがやったのか!?すげぇな!」
硬そうな装甲もろとも真っ二つにするガマの新必殺技、一体どんな威力してんだ?今度検証がてら食らってみようかな?そんな事を思いつつキリエの方へと目を向けると何やらピクピクと震えている。
「怖かったのか?」
「違うわよ!」
コントみたいなことをしているとさっきのおっさんハンターが俺たちに近づいてきた。
「まあ、あとは俺らハンターに任せな。こいつはDr.カウザーのところに持っていく。検査をかけて今後の対策を立てる。さあ、ほら行った行った。」
「そうやな、ここにおっても邪魔になるだけやしな。買い物済ませてとっとと帰るのが吉や。」
「じゃ、荷物持ち頼んだわよ。二人とも。」
「「えー」」
「そんな顔しない。こういうのは男が率先してやるものよ?モテないわよ?」
「そういうなら、やるしかないか…まあ、俺性欲ないんだけど。」
「ワイも手伝ったるわ。ワイは彼女とか別にいらへんけどな。」
「説得力の無い顔してるぞ。」
「ホンマに要らへんからな!?」
その後、俺たちは買い物を済ませて無事に帰宅した。
「どうやら、志治矢ノエルも動き始めたみたいですね。」
休憩所のテーブルの上で角砂糖を一つ、また一つとコーヒに入れながら虚淵さんがぼやく。まあ、最近は研究と言っても経過観察のみ行っているため暇を持て余しているのだろう。虚淵さんが動くことと言えば研究成果とその商品を企業などへの売り込みと実験体として率先して自らに投与した薬や実験の経過観察。他にもまだまだあるのだろうが、俺らのような末端の下級職員には、そういった情報は流れてくる気配すらない。
「そうらしいですね。ただでさえA-Zの制作や改良は難しいのにA-Zをデータ化して無生物にウイルスとして流せばサヴィターとか言う人工クリーチャーを作るとか凄すぎますよ。そもそも俺らみたいな下級職員はA-Zなんて触らせてももらえないんだすけど…」
Artificial ZONE。通称A-Zは文字通りの人工的に開発されたZONEだ。製造方法の確立には上級職員の虚淵業さんと孔雀真白さん、そしてEDEN財団の社長さんが関わっている。これまでに数多くの実験が行われてきたEDEN財団の中で一番の発明と言っても過言でもない。
「彼の実験は私の研究があっての実験ですからね。」
「ですけど、いいんですか?一人であの七区に行くなんて、EDEN財団の職員にとって自殺行為にも等しいですよ。」
「私が帰れたのですから彼も大丈夫でしょう。まあ、邪魔さえしなければ私は誰がどう動こうとどうでもいいのですが。」
「派閥の話ですか?」
「…まあ、そういうことです。私は私が関わっている研究、実験以外に興味などありません。君もそうでしょう、静寂縁君。」
「俺は自分のやりたいことができれば、それでいいんです。」
「そうでしょうね、私たちはそういう集団ですから。各々が自由に研究に没頭する。EDEN財団というのは、研究者、科学者にとって、まさに楽園のような場所です。ここにいる殆どが私のように狩人育成機構に非人道的だと圧力をかけられた者たちばかりです。」
「俺は元々はお金目的だったんですけどね…」
「君のZONEは実験などの精密作業において非常に重宝する。それを買って出たのが私含めた上級職員ですからね。コーヒー飲みますか?」
「頂きます…これ、角砂糖何個入れたやつですか?」
「そうですね、ざっと10個は入れたと思います。」
「糖尿病にさせる気ですか?」
コントのようなことをしていると、休憩室の扉が開き、志治矢ノエルが入室してきた。
「サバ?ムッシュ虚淵。」
「もう帰って来たんですか!?」
志治矢さんは研究室から出て行ったのはほんの2時間前、ここから七区となると四時間はかかるのにもう帰ってきている。
「おや、あなたもいたんですね。ムッシュ静寂。」
「は、はい。それにしても随分とお早い帰宅で。」
「まあ、私のZONE空間転送はテレポートとほぼ同じZONEですからね。早いのは当然。」
片手に持ったピザを食べながら志治矢さんは話し続ける。
「七区での実験も成功。戦闘自体はボロ負けでしたが…まあ、度重なる試行回数によってサヴィターに搭載しているAIの戦闘データが増え、時間はかかりますが、より強くなるでしょう。」
「各々やりたいことをできてるんですね。俺も早く中級職員になりたいですよ。」
「あなたなら、中級にはすぐになれます。ですが、中級からは大学と同様なるだけでは意味をなさない。なってから何を成すのが重要ですよ。では私は失礼させてもらいます自分の研究室でやりたいことがあるので。ボンボヤージュ。」
そう言って志治矢さんは部屋を後にした。
「では、そろそろ実験の時間なので、私も失礼する。」
「あ、はい。」
「それと中級職員への昇進見込みを上に報告しておきます。成れるのは、早くても半年後になるかもしれませんが。」
「え、あ、ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げて退出する虚淵さんを見送る。何を成すかが重要か。現状、俺のやりたいことは凝り固まっている。強化外部装甲の開発。今はまだ自由にこの研究室で開発できるような権限は持っていないけど、スラム街で育った時に一目見たあの憧れをどんな手を使ってでも、俺の手で再現してみたい。
「夢に向かって、ゴーだ!」
廊下に出た虚淵は虚空に向かって話しかける。
「そんなに私の研究が気になりますか?」
「まあね、虚淵さんの研究はおもしろいし。見てて飽きないからね。」
「なら、姿の一つでも見せたらどうです?これでは私がただ虚空に向かって話しているだけの状態になるのですが。」
「わかったよ。」
そう言いながら、虚空に穴を開けて這い出てきたのは、黒髪褐色肌の胡散臭そうな雰囲気を醸し出した美女であった。
「猫裏羅兎娘さん、あなたの行動は私にはよく理解ができませんし、正直あまり関わりたくありません。中立派の私だからいいものの、下手に動いてこの楽園を内部からの崩壊に導きかねない。あなたも大人だというのなら、少しは分を弁えてください。」
「虚淵君は冷たくてムカついちゃった。どうする?ここで殺られたい?」
「軽率な行動は控えるようにしてください。それに、いくら複数の権能を持つZONEであれ、あなたでは私に勝てません。それは十分にご理解していただいているはず…」
「あーもうわかったよ。じゃあね、虚淵君。」
そう言って虚空に再び穴を開け、猫裏羅兎娘は去って行った。
「なぜ、この楽園にはユニークな方が集まるのでしょうか…?」