第46話 ボンジュール
ガマの財布を奪い取り、フードコートで昼飯を掻き込む。ハンバーガー、ラーメン、牛丼、デザートにアイスクリームとクレープをつまみながらコーラで一気に流し込む
「ああ、我、心安らかなり。」
「ようやく満足したかいな…よかった、まだ万札は三枚くらい残っとる…」
「何でそこまで蓄えがあるのよ。」
「バイトやバイト。」
「バイトって何のバイトしてんだ?」
「郵便配達やけど」
「そんなに稼げるの?」
「ノックバックでちょちょいのちょいや。」
楽しく雑談をしていた時、フードコートに変な人が来た。室内なのに白縁のサングラスをかけて開いたノートパソコンを片手にキョロキョロと周りを見渡していた。
「なあ、あの人変じゃないか?」
「変って?」
「あの仕草とか服装とかだよ。」
「星谷はん、いくら見た目が怪しいからって疑いの目をかけるのはどうかと思うで。」
「やーい戦闘狂」
「やーい不幸体質」
「うっせえーな。悪かったって。」
その会話を聞いていたのか、サングラスの男がこちらに歩み始める。そして俺たちが座っている席の近くに立ち
「ça va ?」
そう一言発して、挨拶をするように手を挙げた。
「鯖?」
「何を言うとるんやこいつ?」
「知らないのか二人とも。フランス語で「元気?」とか「調子どう?」って意味だぞ。話しかけてきた理由は知らんけど。えーっと、何か御用で?」
「ウィウィウィ。ムッシュ星谷。」
「何で俺の名前を…」
「席に座っても?」
「まあ、構わないけど」
「メルシー、マドモアゼル」
サングラスの男は席に座ったタイミングでガマが話しかける。
「お前は何者や?」
「ジュマペル。私の名前は志治矢ノエル。しがない研究者です。以後お見知りおきを、シルブプレ?」
「で?その研究者さんが私たちに何用?」
「ノンノンノン、用があるのは正確にはあなた達お二人ではありません。ムッシュ星谷、あなたはEDEN財団の職員と接触したそうですね。」
「何故それを!?」
「情報と言うのは知らず知らずのうちに広がるものですよ。それはそれとして、ムッシュ星谷、あなたは現在EDEN財団のとある一派に狙われている状態なのはご存知?」
「俺が狙われている?」
「「星谷が狙われてる(やと)!?」」
「セッサ!その通りです、あなたのZONEは未だ発現していないのでしょう?EDEN財団はおそらくそれを欲しがっています。」
「でも、何でそんなこと教えてくれるんだ?」
「それはこちらとしても非常に厄介なのですよ。」
そう言う志治矢ノエルを見た時に、胸元が少し光った気がした。よく見てみると白いリンゴのバッチが照明の反射で輝いていた。
「まさかお前、EDEN財団の研究者か!?」
俺たちは即座に席から離れ、志治矢ノエルを睨みつける。
「オップス!そんなにも早く気づいてしまうとは、子供だからと油断していました。」
「ハッ!変装する時はもっと身なりに気を付けるんだな。」
「EDEN財団の研究者が一体ワイらに何の用や!」
「話した通りですよ、ムッシュ蟇野。私の目的は我が愛しのマジェスティのため、星谷世一を…いや、言うのは止めておきましょう。今後の計画に支障が出るかもしれませんのでね。」
「三対一の状況で随分と余裕だな。ノエルさんよお!」
「ノンノンノン!私の研究の成果、ここでお見せしましょう。」
そう言って、志治矢ノエルはノートパソコンに先にシールのようなものが付いたコードを挿し、シールをテーブルにくっ付け
「A-Z:Robot、インストール。」
ノートパソコンのエンターキーを押す。そうすると、シールの張られた机がひとりでに動き始めると、宙に浮き、形を変形させ、人型へとなっていく。
「私はね、EDEN財団でA-Zをデータ化しウイルスとして日用品などに流し込むことで無生物から人工クリーチャー「サヴィター」生み出す研究をしています。さあ、この区で生まれた最初の実験体、テーブルサヴィターを徳と召し上がれ。アプリィシー?」
見た目がまるで甲冑のようで、それでいて装甲に当たる部分のデザインがメカメカしくもテーブルらしい、まさにテーブルの怪人化と言うに相応しかった。
「では、頼みますよ。テーブルサヴィター?」
志治矢ノエルがテーブルサヴィターの肩に手を置き話しかけると、あろうことか「…了解」と返事をし、テーブルの足のような棍棒とテーブルのような盾を持ち、俺らへと襲いかかる。俺は向かってくるサヴィターの攻撃を避けていると
「ハンターが来てしまうので、私はここで失礼させてもらいます。アデュー。」
志治矢ノエルはそう言って混乱する人混みの中へと消えていった。
「クッソ、逃げられた…!」
「星谷はんもすぐにここから逃げろや!」
「何で?俺だって戦える!」
「バカじゃないの?あんたZONEが完全に目覚めてもなければ攻撃できるようなもの持ってないでしょ!」
それもそうだ、今日は休日、ショッピングに出かけるのに機械剣とか持ってるはずがない。
「こいつはワイらが何とかする。その間に星谷はんは一般人の避難誘導を頼むで!」
「…わかった。」
俺は不甲斐無さを感じながらも一般人の避難誘導のためにそこから走り出した。
「ようやく行きおったな。キリエも行かんでよかったんか?」
「いいのよ、私のZONEだってうまく使えば攻撃にも使えるってことぐらいわかってるでしょ?」
「それもそうやな。ハンターが来る前に片付けて、火野さんに頼んで、ワイらも今度武器作ってもらうや!」
「それ賛成!」
「…排除しまス」
テーブルの足を模した棍棒が振り上げられる。ガマはそれを軽々と避けた後に弾け飛ぶ衝撃:空気砲で牽制しながら一定の距離感を保つ。距離を取られたテーブルサヴィターは標的をキリエへと変更し、接近する。
「させへん!弾け飛ぶ衝撃:二重衝撃!」
キリエを守りようにガマは弾け飛ぶ衝撃:二重衝撃で攻撃しキリエとの距離を取らせるも、テーブルサヴィターの右肩に備え付けられたテーブルを模したシールドで防御し衝撃を軽減する。それでも弾け飛ぶ衝撃による攻撃でテーブルサヴィターは一瞬だけ怯んだ。
「今や!」
その隙を見流さなかったガマが、キリエへと合図を送ると、キリエは引かれ合う二極でまとめたテーブルやイスを反発作用でテーブルサヴィターへと投げ飛ばす。それを受けたテーブルサヴィターは横転し、地に付した。
「ナイスやキリエ!」
「でも、まだ終わっていないみたい…」
テーブルサヴィターはサッと立ち上がり、一緒に投げ飛ばされて近くに落ちたテーブルの足をもぎ取り、まるでブーメランでも投げるかのようにテーブル板を投げると、テーブル板は綺麗な軌道を描きながらガマたちの方へと接近する。
「弾け飛ぶ衝撃:空気防壁!」
弾け飛ぶ衝撃によって弾き飛ばされた空気の壁がブーメランのようなテーブル板の軌道を変える。
「どうや!…ぐふぉ!?」
大振り状態のガマはブーメランによって死角となった角度から接近するテーブルサヴィターに気付かず、テーブルの足を模した棍棒が、ガマの腹へと直撃する。だが…
「…捕まえたで!」
根性でテーブルサヴィターの腕にしがみつき、動きを封じる。
「離セ!」
「離してたまるか!キリエ、今や!」
「グラントマグネ・NⅠ、SⅠ!」
近くで待機していたキリエがテーブルサヴィターの背中に触れ、そしてそのまま流れるようにキリエは地面に対してSⅠを付与する。そうするとテーブルサヴィターの背中は地面に付与された磁力によって体制を崩し、背中から地面に全身がくっ付き、完全に身動きが取れない状態となる。
「さあ、観念しなさい!」
「残念ですが、サヴィターには観念するや諦めるといった思考はありませんよ、マドモワゼル」
声がした方へと振り向いた先に居たのは、ピザを片手に観戦していた志治矢ノエルだった。
「調子どう?」
「志治矢ノエル、ノコノコ倒されに戻って来たんか?」
「ノンノンノン、戦力が足りないと思って増援に来たんですよ。既に手遅れですが…」
ノートパソコンを開き、近くのコンセントにコードを繋ぐとエンターキーを押す。そうすると、まるで転送されてきたように体が形成された10人もの兵士らしき人型の機械が現れる。
「量産型のレストサヴィターです。一体一体の戦闘力は低いですが、まあ、無いよりかマシでしょう。では、今度こそ失礼。アデュー。」
「待てや!」
ガマのその言葉に耳もくれず、志治矢ノエルはまるでデータのように体からポリゴン状となって消えていった。それと同時に、レストサヴィターがガマたちへと襲い掛かる。
「行きおったか…キリエ、テーブルサヴィターは動きそうか?」
「たぶん大丈夫。背中から磁力で固定されてるから起き上がろうにも上がれない。」
「なら、後はこいつら片付けるだけや!弾け飛ぶ衝撃:散弾空気銃!」
ガマは先の戦闘でバラバラとなったテーブルの残骸を弾け飛ぶ衝撃で吹き飛ばし、吹き飛んだ破片がレストサヴィターたちの身体を貫き一掃する。
「じゃあ、こっちはとどめを刺そうかしら。ブートマグネ・NⅡ、Ⅲ。」
キリエは動けない状態のテーブルサヴィターの腹に二回触れる。同じ極は反発作用により互いに離れようとする。その性質を生かした防御不能の磁力による裁断により、テーブルサヴィターの身体は腹から上下真っ二つにされる。
「キリエはん、中々にえぐいことしとるな…」
「人間相手じゃないし、これくらいいいかなって。」
「ワイは別にそれでもええと思うが、星谷はんが見たらギョッとするやろうな。」
「そ、そうかな?」
「星谷はんの前でやらんことを強く推奨するで。」