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第45話 ショッピングハプニング

 土曜日の朝、俺たちはキッチンに立っていた。一人は皮むき、一人は揚げ、一人は…


「星谷はん、まーた集中状態に入っとる。キャベツの千切り頼んだら、いつの間にキャベツの億切り作っとる。」


「億切りって何よ、億切りって。にしても、速すぎるでしょもう半玉仕上げたわよ…」


「見てみ、あのキャベツの細さ。フワフワ通り越してモサモサや。髪の毛やあれへんのにアフロみたいになっとる。」


「これ、終わるまで待った方がいいの?」


「包丁持っとるし、キャベツはあと四分の一玉やすぐ終わるやろ。」


「ふぅ…」


「お!終わったな。星谷はん、またゾーンに入っとったで。」


「え、マジで!?」


 昨日の城ヶ崎とのタイマンで、ZONEが不完全ながらも発現してから、俺の身体に変化が起こった。集中し始めるとアホみたいに脳が疲れるようになった。前まではこんな事は起きなかったし、ZONEの影響だろう。どんな些細な事でも集中状態になったら脳がフル稼働するようにでも体のプログラムが書き替えられたような気さえする。


「俺…何やってた?」


「キャベツの億切りやってた」


「キャベツの億切り!?」


 山々と皿に盛られた千切り…いや億切りキャベツは、まるでアフロのようにモサモサしていた。これ俺一人でやったという事実が怖い。


「朝食作るだけでこれやもんな。「俺はご機嫌な朝食作るんだ!」とか言うて始めたらこれや。まだ億切りキャベツしか作れてへん。ワイはデザートのリンゴの皮むきに入るし、キリエはんは、手が空きすぎて星谷はんのために朝から唐揚げまで作りおった。」


「うまそう…」


「冷めないうちに食べなさいよ?」


「はい!」


 そうキリエに背中を叩かれ、俺は席に着き、億切りキャベツとから揚げを口いっぱいに頬張りながら、キッチンに居る二人の会話に耳を傾けた。


「そろそろ買い出し行かんとあかんな。」


「それもそうね、今日買い出しに行く?」


「それええな。どっかの誰かは最近は戦闘ばっかで、ろくに休みも取れてへんしな。」


 キッチンに立つ二人から熱い視線を感じるのは気のせいか?こっちはZONEも発現してウキウキで、早く操れるように練習したいんだよ!


「どうせ、また星谷はんは一人で無茶とかするやろうしな。強制的に連れていくか。」


「どうやってあのフィジカルギフテットを連れて行くっていうのよ。」


「それはな、ごにょごにょ…」


 何か企んでやがる。そうとしか思えなくなった俺は、食べ終わった食器をサッとキッチンのテーブル上に置いてリビングから逃げ出す。その姿を見たガマが弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)でダイニングキッチンを飛び出し、俺の先に回り込む。


「うぉ!?」


「逃がさへんで~星谷は~ん!」


「まだだ!」


 俺は階段の方から目をそらし、玄関の方へと向かおうとするが、キリエに先回りされていた。


「キリエまで、なんか企んでんのか!?」


「そういうことよ。ブートマグネ・N(ノース)Ⅰ…!」


 キリエの魅かれ合う二極(デュアルマグネ)によって俺はキリエの右手に吸い寄せられ、磁力によってガッチリとホールドされ身動きが取れなくなる。その姿はまるで親猫に首元を噛まれた子猫のような様だろう。ガマが「猫みたいになっとる」と腹抱えて笑っている姿を見てそう確信する。


「ご飯食べたら皿洗いもしなさい。それと今日は遊ぶから準備しておきなさい。」


「は、はいー…そういえば火野さんは?昨日の夜から見てないけど…」


「わざわざ毒耐性解除して酔いつぶれとる。二日酔いや。」


「毒耐性まであるのかよ、まじで何でもありだな。」


「シジミの味噌汁作って持ってったら「最強は時に不便」とか言ってた。」


「最強の威厳もないな。」


「同感や。」






 トナリエに着いた俺は初めに遊ぶことになった。キリエに首根っこ掴まれた状態で半ば強制的にゲームセンターへと連れていかれた。


「初めてゲーセン来たな。」


「マジ?」


「おおマジだわ。というかそろそろ放してもらえません?」


「あ、ごめん。でも私たちの側から離れないこと。また面倒ごと起きたら嫌だし。」


「はい、ごもっともです…」


 初めてのゲーセンは、まあ楽しかった。レースにクレーン、リズムゲームと色々あったが一番のお気に入りは


「二人ともお金は入れた?行くわよ、レディーGO!」


 キリエの掛け声と共に、俺とガマは一斉にボールをゴールネットへと投げる。そうバスケのシュート争い。投げたバスケットボールをゴールネットに入れ、その数を競うゲームなんだが。これがまた面白い。

正確にシュートを入れないと得点は入らないし、かと言って時間をかけると時間が着てしまう。正確さとスピードを求められるゲーム。


「二人とも中々いいペースね…でも」


 キリエの目に映るのは最短最速でまるでそれ専用に作られた機械のようにボールをシュートしまくる星谷の姿だった。1点、また1点と点数を伸ばす星谷の周りには「とんでもないガキがいるな」「まるで機械みたいだ」と感嘆を漏らすギャラリーができていた。


「はぁはぁ、どうや、200点入れたで…」


 膝に手を突き息切れするガマにキリエは背中を叩き語った。


「星谷は350点行ってたわよ」


「350点やと!?」


「あー疲れた!なあ、飯食いに行こうぜ!俺腹減っちまった!」


「まあかれこれ、ゲーセンだけで2時間近く遊んでたからなあ。」


「あんたはひたすらにメダルゲームしてただけでしょ。店の人引いてたわよ」


「目押しとかは得意なんやで?それに二人で楽しそうなところに水を差すようなことはワイにはで着へんからな~」


「よしわかった。星谷、今日はガマがおごってくれるって。」


「え?マジで!?」


「ちょっと待てやキリエ!ワイはそんなことを一言も…」


「よし、フードコートのやつ食えるだけ食うぞー!」


「ガマ、もう遅いわよ。」


「ワ、ワイの財布が…」











「七区というのは何とも素晴らしい(トレビアン)な町なんでしょうか。他の区とは違い、かつての文明が色濃く残っている。」


 トナリエの人の立ち入ることができない屋上で、一人区を眺める男がいた。茶髪のオールバックパーマ、白縁の黒いサングラスをかけ、白いスーツの上に白衣。さらに胸には開いた金色の本の真ん中にリンゴを模ったような白いバッチを付けている。銀色の世界樹のような装飾が施されたノートパソコンを左手に持ち、四角いシルバーのリュックを背負っている。


「この格好では些か不便ですね。ハンターの方々に見つかる訳にもいけませんし」


 ノートパソコンを操作すると男の衣服がサングラスなどを残したまま今風のファッションへと切り替わる。


「さあ、これでおめかしは終了です。手始めにこのショッピングモールから始めましょう。祭り(フェスタ)の開催です…これも我が愛しのマジェスティのため」

マジェスティはメサイヤじゃないよ

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