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第44話 兆し

 この星谷世一という男を俺は舐めていた。


「なっ…!?コイツ、戦いの中で成長してやがるのか…!?」


 俺は速い、この七区の中で1番の速さを持っている。それは事実だ。だが、こいつは俺の速さに付いて来ている。いや、正確に言えば、反応速度と対応速度が桁違いに速くなっている。俺のZONE:紅く轟く炉心(レッドアクセル)は自身と触れている物の速度を強化する。純粋な脚力強化だけでなく思考加速も行える、だからある意味ゆっくりと相手を観察ことができるが、この星谷世一という男、戦いの中で成長してやがる…


 星谷は城ヶ崎の攻撃を全て避けるか、受け流していた。それはまるで命令を組み込まれた機械のような正確さと可能なまでの速さを持っていた。


「ドライブ・スラッシュ!!」


 城ヶ崎は再びドライブ・スラッシュによる連続攻撃を叩き込む。


「ぐはっ…何ッ!?」


 それら全ての攻撃も星谷は避け、受け流し、さらには機械剣(アダプター)によるカウンターを決める。その状況に城ヶ崎は違和感を感じていた。


 こいつ…目の色が変色してから反応速度も対応速度も格段に上がっていやがる。まるでゾーンに入ったみてえに何も言葉を発しねえ…これがこいつのZONEなのか…?


「最高にヒリつくぜ、星谷世一!」


 城ヶ崎はさらにスピード上げ、星谷の周りを旋回しホイールガンブレイドの銃撃を浴びせる。一般人であればハチの巣になるであろう連続射撃を星谷は機械剣(アダプター)に鎖を取り着けて振り回す。エネルギー弾の一発一発を間合いの伸びた鎖付き機械剣(アダプター)で正確に撃ち落とす。


 化け物かよ…だが、いくら反応速度を強化しても人間のスペックには限界がある、そこをぶち抜く!


 スピードを増した城ヶ崎の攻撃は激しさを増していく、その攻撃を対処しようと動く星谷の身体は、徐々にその速度に追いつけなくなっていく。しかし、城ヶ崎もこれ以上スピードが上がらなくなっていた。


 どうやら、身体の限界がそこまでのようだな…しかし、俺も速度強化も限界が近いレッドゾーンの域に達している。これ以上の戦闘は俺の身体も持たない…それにあの時の電撃が相当足に響いてやがる。


「これで終わりにするぞ、星谷世一!」


「……!」


紅く轟く炉心(レッドアクセル)ッ!フルスピード…レッドゾーン!!!」


 城ヶ崎は紅く轟く炉心(レッドアクセル)で自身のスピードを限界値まで引き上げる。その瞬間時速500㎞、火野魔利亜の最大時速を優に超えた速度は、今の星谷の反応速度をもってしても到底追いつくことができなかった。


最速領域(レッドゾーン)・ドライブ・スラッシュ!!!」


 紅い彗星の如き連続攻撃が星谷をノックアウトさせた。大きく吹き飛ばされた星谷は廃校舎の壁へと打ち付けられる。城ヶ崎も危険な状態と言うには変わりなかった、最後の一撃によりレッドエックスの装甲は、バラバラと外れていき、城ヶ崎は蒸気機関車のような湯気を身体から出していた。


「はぁはぁ…互いに限界、引き分けか…」


 辛うじて立っていた城ヶ崎が倒れそうになった瞬間、城ヶ崎をかげながら見守っていた蒼樹錬時(あおきれんじ)が飛び出し、城ヶ崎の身体を支える。


「すまねえ、引き分けた。それにレッドエックスもオーバーヒートしちまった。」


「いいんだ、ジン。レッドエックスの装甲はまた俺が治す。それにすごい熱だ、今すぐアジトに戻るぞ。レッドエックスの回収は俺に任せろ。星谷世一にも止めを刺しておく…」


 蒼樹が城ヶ崎を車に乗せ、星谷のいる方へと向かおうとした時、城ヶ崎は待ったをかける。


「レンジ、あいつのことは生かしておくことにする…」


「何故だ?芽は早めに摘んだ方が俺たちのためだろう?」


「あいつはまだ成長途中だ、そしてまだ俺もギアを上げれる気がする。あいつは俺をさらに強くさせるかもしれない。」


「わかった。こいつは病院にでも搬送させよう。俺たちが去った後に救急車を呼んでやろう。」


 蒼樹は城ケ崎の言葉に異を唱えず、レッドエックスの装甲を回収した後に車を運転し、廃校舎から走り出した。











「う、うーん…」


 俺が目が覚めた時に飛び込んできたのは病院の天井と心配そうに俺の顔を覗き込むガマとキリエの姿があった。


「あれ…生きてる?」


「バカ!心配したのよ!病院に運び込まれたってメールが来てすぐに駆け付けたんだから!」


 涙を流しながら俺に抱き着くキリエをそっとしながら起き上がると、ふと城ヶ崎との戦いの記憶が呼び起こされる。


「そうだ、城ヶ崎のやつは…!?」


「星谷はん、城ヶ崎とやりやっとたんか…」


「それなら、アイツから伝言を預かってる。」


 ベットの脇の方で壁にもたれかかっていたガロウが俺に手紙らしきものを渡す。蒼樹錬時と名乗る者からの手紙だった。


「えーっと、今回の勝負は引き分けだ。そして、迅はお前を生かす選択をした。次に会う時には高め合うライバルとしてお前と対峙する。だあ!?」


 俺は城ヶ崎と五分にあり合ったってことか?いやでも、俺が覚えている限り、城ヶ崎に一方的にボコられていたようにしか見えなかった、俺があいつと対等だなんて到底思えないんだが…


「ようやく目覚めたかい、どうだい?体調の方は?」


 病室の扉を開けて医者が入ってきた。


「ようやくって、俺はどんだけ寝てたんだ?」


「ここに運ばれてから約5時間だ。今は午後10時手前だよ。運ばれた君は重症の怪我と極度の疲労状態だった、体中の糖分が異常に減って低血圧にもなっていたよ。怪我の方は私の娘のZONEで完治とまでいかなくとも、あらかた治っている。低血圧の方は点滴で多めの糖分を入れているから今日は退院しても大丈夫だろう。」


「そ、そうですか。」


「それと、糖分が異常に減っていたから検査をして分かったことがあった。君の身体は病気の一つもない健康体そのものだった。だから、この異常な減りはZONEが影響していると考えた方がいい。君はここに運ばれる前、過度な戦闘をしたのだろうことは怪我を見てわかる。今後ZONEを使用するためにもブドウ糖の携帯を推奨しておくよ。」


 医者が告げた内容は俺にとってとても重要な事だった。ZONE使用による体内の糖分の減少、つまりは俺は知らぬ間にZONEを使用していたことを意味する。だが、一つ解せないことがある。ZONEは通常なら発現したら感覚的に名前と発現したことが分かるというが、俺にはそのような兆候が今一つとしてない。完全には目覚めていないということか...?


「良かったな星谷はん、ZONEが目覚めとるのかも知れへんやと!」


「よかったな星谷!」


 ガマとガロウは俺のことを祝ってくれている、そして相変わらずキリエは泣きじゃくっている。


「まだ完全には目覚めている感じゃないんだけどな、でも嬉しいわ。ようやっとお前らと同じ土俵に立てた気がするぜ!…それでキリエはいつまで泣いてんだ?」


「い、嫌だったりする?」


「嫌ではないけど…」


 キリエのやつ、なんか素直というか毒気が抜けたような気がする…

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