第41話 カエルの相談所
「まーた巻き込まれとるな。星谷はん本当に不幸体質やな。」
ガマはキリエを抱えながら塀を駆け上がり、七区の絶壁を弾け飛ぶ衝撃で階段から降りるかの如く、器用に降りていく。
「ねえ、いつまでお姫様抱っこされないといけないわけ?」
「地面に着くまでや、ちょっとぐらい我慢せえ。」
キリエは少し不満げな顔をしながらガマの身体に腕を回し、反動で落ちないようにキープする。
「不満そうな顔やな、ワイよりも星谷はんの方が良かったかいな?」
「何?あんたここで殺されたいの?」
「そしたらお互い地面にぶつかって落下死やで?」
ド正論を言い渡されたキリエはさらに不満げな顔になる。
「あいつ、まだもZONE発現してないひよっこだってのに、ガマは心配にならないの?」
その質問にガマは多少の間を置いた後に答える。
「心配ではあるで、でもあいつなら負けへん。ガロウより弱い相手に負けるほど星谷はんは弱くあらへん。」
「そう……」
キリエはその返答を聞いて、少しの愚痴と弱音を吐いた。
「あいつが活躍してるところ見ると、ちょっと嫉妬しちゃうのよね。ZONE無しだってのに私より強いし、羨ましいたらありゃしないわ。あいつが仮にZONEを発現させて、もっと強くなったら。私なんか、足手纏いになっちゃうよね……」
「自分のZONEに自信が持てへんってことか?」
「だって、私のZONEって触れれなきゃ意味が無いし。運動はできる方でも、あいつには届かない。あの時のカマキリだって私が躊躇せずに触りに行っていたら、勝負はすぐに着いていた。」
「話を聞いてる限りやけど、それはお前のZONEが問題やあらへん。お前の心の問題とちゃうか?星谷はんはバトロワの時、ZONEも無しにワイらと戦った。ZONE持ちはみんな強かった。せやけど、あいつは折れへんかった。なぜだか分かるか?」
「わかんないわよ、そんなこと。」
「あいつには強靭な、強い意志があるんや。」
「意志……?」
「そうや、意志や。負けたくない、こうしたい。自分の中の負の感情に押し殺されない強い意志があったからや。お前は負の感情に押し殺されすぎなんや。自分の中身を曝け出せとは言わへんけどな、もっと自分に素直に、もっと自分らしく行こうや。今のキリエはんはそれができてへん、昔の方がよっぽどできとったで?」
「もっと自分らしく……?」
「人生ってのは長いもんや、せやから、自分らしく生きないとあかん。それをワイはここに来て、お前から学んだんやで?」
「あんたなかなか良い事言うじゃない。人生に二週目でもしてんの?」
「何言うとるんや?ワシは人生一週目や。」
そう言い終わると同時にガマの足が地面に着く。ガマはキリエを離し、先に家へと歩き始める。キリエはその後姿を見てぼーっと立ち止まる。
「わかった。」
「ん?」
「私、もっと素直になってみる。」
「フッ、ええ顔や。その顔で星谷はんのこと出迎えてやりや。」
「うん!」
七区南部にある廃墟と化した少年少女発明クラブの建物にブラックアウトのメンバーが集まっていた。古くなったパイプ椅子に腰をかけた男はツーブロックウルフのマゼンダ、横は白髪。第一ボタンを開けた白いカッターシャツの上に赤いライダースジャケット、ロケットペンダントを首に下げ、レンズが赤色の銀縁ヴィンテージゴーグルを頭に着け、赤色の棒付きキャンディを咥えている。
そして、その男の前の最前列にサイ頭とゴリラ頭、そして後ろにヤンキー5人。星谷たちに喧嘩を売って返り討ちにされたメンバーが土下座をして謝罪していた。
「す、すいまんZOI。城ヶ崎さん。偵察のはずがこちらから接触をしたのは我々の落ち度だZOI。次こそは……」
「次こそ……?」
城ヶ崎は、マゼンダの瞳で睨みつける。口に咥えていた棒付きキャンディーを噛み砕き、土下座をしているサイ頭のメンバーの後頭部を足で踏みつけ、地面に顔を叩きつける。
「ZOI……!?」
「貴様らには、狩高三年の偵察を頼んだんだぞ?なぜわざわざ手を出して、挙げ句の果てに返り討ちにあってんだ?」
「誠に申し訳ございませんZOI……グハッ!?」
男はさらに足の力を強くする。
「誰がお前らを返り討ちにした?」
「ウホッ!星谷という男です……やつはガロウを倒したとほざいていました……」
「あのガロウをか?」
「ウ、ウホッ!それもとんでもなく強いZONE無しで見たこともない武器を使って……」
「ZONE無しでガロウを倒したか…なるほどなあ。そいつは狩人学科の生徒か?」
「そ、そうウホッ。普段から武器を所持できるのは狩人学科の特権です、さらに蟇野錯牢と衛守桐恵と一緒にいたので確実かと……」
「ほう……犀牙一真 、黒石賢人立て。」
二人は顔を上げて立ち上がる。そして次の瞬間二人の腹に強烈な一撃が走り、二人は胃液を吐くのを抑える。ここで抑えなければ城ヶ崎にかかってしまう。かかれば最後、何をされるかわかったもんじゃないことを理解していたからだ。
「俺からの慈悲だ。次は無い。わかったな?」
「「き、肝に銘じます……ZOI、ウホ」」
「それでいい」
「では、失礼します。」
犀牙たちは部屋から出て行った。その光景を見ていたもう一人の男が部屋へと入る。左は刈り上げ、右はカールの青髪。オレンジ色の瞳、白いカッターシャツの上に青い襟立ちの作業着のような質感のロングコート。ロケットペンダントを首に下げ、レンズが青色の銀縁ヴィンテージゴーグルを頭に着け、耳掛けのイヤホンマイクかけている。
「ジン、いいのか?あいつらにチャンスなんか与えて。」
その言葉を聞いた城ケ崎は天井を仰ぎ見ながら答える。
「レンジ、俺たちのゴールを忘れた訳じゃねえだろ?いずれ、全て消す。今消す必要はない、それだけだ。」
「そうだな、ジン。俺たちはこんなことでは止まっちゃいけない。まだ第1ラップも通過してないんだ。まずは狩人認定試験、これを乗り越えなくてはな。それでどうする?俺たちに泥を塗った星谷と言う男は?」
「当たり前だ。速攻でぶっ潰す。」
「そう言うと思ったさ。それはそうと、今からバイクのチューニングするんだ、手伝ってくれないか?」
「いいぜ。」