第40話 喧嘩上等
「これありがとね、すごく使いやすかった!」
「そりゃどうも。」
巴さんに貸していた機械剣を返してもらい。巴さんからあったかいコンポタを奢ってもらった。「ありがてえ、ありがてえ」とお礼を言って教室へと戻り着替えを済ませ、掃除を終え、帰りのSTが始まった。
「とりあえず、今日中に球技大会のメンバー決めを行いたい!」
話を切り出したのはこのクラスの級長の石田だった。
「改めて、球技大会の内容を説明する。球技大会はこの学校の1年から3年生の全校生徒で行われる、球技を用いたスポーツ大会だ。だが、僕たち狩人科は他の狩人高校、つまりは狩北と南高の両校の狩人科と球技大会を行う。」
そうなのだ、狩人科の球技大会は七区に存在する三校の狩人高校のメンツをかけた戦場である。
「人数分けは、サッカー12人、バレー7人、ドッヂボール9人だ。今日中だからね。集まって話してもいいから決まり次第、前の黒板に名前を書いてくれ。」
石田の発言と共にガヤガヤとクラスの中で誰がどこに入れるかの話し合いが開始された。
「なあ、キリコ。」
「なんでしょう?」
「狩高って何番目に強いんだ?」
「三番目です。」
「最下位じゃねぇか!」
二人で話しているところにガマとキリエも来た。
「これには訳があってな......」
ガマは淡々と話し始める。
「まず、このクラスにはチームワークが足りなかったんや。ガロウはんに氷道はんとかな。練習ちゅう練習もできへんかった。せやけど、星谷はんが来てくれたことで長年の溝が埋まったような気がするんや、せやからここは多少問題あらへん。そして、一番の問題は他校があまりにも強すぎることや。」
「強すぎる?」
「南高は城ケ崎が率いるブラックアウトの連携力と城ケ崎自身の圧倒的スピードでドッチボールはボロ負けや。」
「じゃあ、狩北はどうなんだよ?」
「狩北はここ七区の中で最強の集団や。未だに謎に包まれとる青薔薇の麗人、神楽坂音色がトップを張っとる。」
「神楽坂音色?」
「あんた知らないの?」
「北部ってどちらかって言えば富裕層の多い地域じゃん。俺、あっち側だけは行ったことないんだ。」
「ここ一応北部よ、微妙なラインだけど。」
「え?そうなの?」
「話がずれてきとるから軌道修正するで。ほんでな、神楽坂の強さは今だ未知数や。なんせ、気づいた時にはもう負けてるんや。」
「それマジか?」
「そうや、ゴールに入ったことも気付かへん。」
「つまり、サッカーは狩北が強いってわけか......じゃあ、バレーはどうなんだよ?」
「バレーは狩北、南高、双方強いな。」
「終わりじゃねえか」
「でも言うたやろ?こっちにはお前という切り札がおる。向こうの連中にもさほど知られてへん、チームの要がな。」
そうやってガマは俺の背中を強くたたく。これをどうしろと?無理にもほどがあるぞ
話し合いと熾烈なじゃんけん争いが続くこと約20分。ついにチーム分けが完了した。組み分けは
サッカー(12名)石田、網玉、小野田、ガマ、ガロウ、東雲、冰鞠、巴、星谷、社、宮本、アンディー
バレー(7名)愛水、遊斗、キリコ、馬場、双葉、松本、恵
ドッチボール(9名)天野、宇佐美、キリエ、霧島、佐々木、蓬、三上、桃太郎、夢原
という組み合わせになった。こんなので勝てるんだろうか?その一抹の不安を抱えながら、俺たちは帰路に着こうとするとキリエが待ったをかけた
「ねえ、映画とか見に行かない?」
「今から行くんか?」
「そりゃそうだろ。」
「ワイは別に構へんけど、星谷はんも行くか?」
「当たり前だろ!」
「じゃあ、トナリエで映画見るわよ。」
キリエに誘われ映画をひとしきり楽しんだ。時間は午後6時を回り、とっくに日は落ちていた。俺たちはトナリエで夕食を済ませ、火野さんにお見上げだけ買って映画の感想を言い合いながら帰路を歩く。
「ペンギンズ面白かったな。リコの身体の仕組みどうなってんだ?恵のZONEと似てるよな。口の中から色んな物を吐き出すし、逆に腹の中にしまうことができるとか」
「あー新人可愛かったわ。隊長たちの方がちょくちょく抜けてるのがまた可愛かったわ。」
「ホンマ、キリエはんはペンギンが好きやな。目がハートになっとる。」
「可愛いは正義だと私は思うわよ。」
「ペンギン好きなのか意外だな。もっと猫とか犬とか好きだと思ってた。」
「犬猫も好きだけど、一番はペンギンよ。私の部屋にあるぬいぐるみ、あれ全部ペンギンだけど。」
「へー」
「あんたはどうなのよ?好きな動物とかいるの?」
「うーん、恐竜とか?」
「いや、それ動物やないんとちゃうか?」
「恐竜も立派な動物だろ?とうの昔に滅んでるけど」
談笑し、今度キリエの部屋に入ってやろうかなとか考えながら歩いていると、けたたましい音を鳴らしながらヘルメットを付けずにバイクを走らせる集団が俺たちの目を引き、ガマが口を溢す。
「あれは......ブラックアウト......!?」
道路を爆走するバイク集団は俺たちを見るや否や、バイクで俺たちを取り囲んできた。肉体系動物ZONE持ちであろう族が二人とヤンキー五人。おそらく、こっちはZONE持ちじゃないだろう。
「何の用だよ。」
「ウッホホ!何の用って、カツアゲだよ。か、つ、あ、げ。君たち狩高生だろ?金持ってんだろ?」
「大人しくおけば痛い目に合わずに済ましてやるから、金目の物だけ置いてけZOI!」
「女の方はどうします?」
「ウッホホ!楽しむに決まってるよなあ~?」
好きかって言いやがるな、金目の物を置いてけだと?
「そんなに俺たちに喧嘩を売りてえのか三下......俺は、あのガロウを倒した男だぞ?」
向こうが向こうだから事実を述べて、邪悪な笑みを浮かべて力の差を語ってやる。売られた喧嘩は買う。そのスタンスなら舐められることもないだろう。俺はガントレットを起動し、ブレードを構える。こきが人通りの少ない場所で助かった。
「ガマ、後頼めるか?」
「星谷はん、正気かいな!?」
「そうよ、ここは素直に撒いて逃げるが吉だと思うけど。」
「いや、今後対戦する相手かも知れないんだろ?だったら、実力を知れるいい機会じゃね?それにこいつら程度余裕だっつうの。」
「わかった、気を付けるんやで、相手は武闘派集団や。気抜いたら一発アウトや。」
ガマはキリエを抱えて空中を駆け上がり離脱する。
「て、テメエ、待てZOI!」
「付いては行かせねえぜ?かかって来いよ三下ども!全員病院送りにしてやる。」
まず、小手試しかのように、ZONE無しのヤンキーたちがバットやナイフを持って俺に襲い掛かってきた。俺はカマキリのポーズを取り、それを迎え撃つ。
「死に晒せぇ!狩高風情が!!!」
多少頑丈な一般人相手にブレードを使うのはさすがに可哀そうだったので、俺の間合いに入った一人のヤンキーを一瞬にして捉え、ブレードを使わず、首の付け根辺りに手刀を放って気絶させる。
「まずは一人。」
「何をしやがった!?」
「手刀だよ、ZONE関係なしのお前らなんざこれでお釈迦だ。」
「じゃあ、俺たちとはどうやって遊んでくれるんだZOI?」
ヤンキーを下がらせ歩いてきたのは、サイとゴリラだ。人間の体にそのままくっつけたような容姿ではあるが、体格がすごい。身長は大体2mはありそうな巨体だ。
「おいおい、ブラックアウトってのは動物園だったのか?獣臭くていやだねえ。早く檻か自然界に帰ったらどうだ?」
「ウッホホ!口は達者みたいだな。ならこれは受け止められるかあ??」
その瞬間、ゴリラ顔のパンチが俺の肘を打つ。あまりのパワーに俺は近くの電柱に背中から叩きつけられる。
何てパワーしてやがるんだこいつ、イノシシクリーチャーとため張れるほどにパワーが高い!?
そしてさらに追撃が来る。俺が電柱にもたれかかっているのを見て、サイ頭の方が物凄い速さで突進してくる。俺はそれを見て機械剣を抜き
「炎描く居合軌道!」
炎描く居合軌道で応戦するがサイ頭の方はそれを諸共せずに突進を続けるので、俺はジャンプしてその場を回避する。サイ頭が突っ込んだ電柱はバラバラと崩れていった。電線はバチバチと音を立てて途切れ、電気を放出している。
「パワーは一人前あるみたいだが、俺には届かねえな。ガロウ以下だ。」
「ウッホ!武器を使っておいて、よくそんなこと言えるな?」
「貴様もZONEを使って戦えば、少しはマシになるかもしれないZOI?」
「おや?何か勘違いしてねぇか?」
「ウホ?」
「俺はZONE持ちじゃぁない。俺がガロウに勝てたのは、知恵と戦闘センスでだ。動物のお前らじゃあ頭が足りねぇようだし。さっさと降参したらどうだ?」
「ZONE無しだと?はったりだな、ZONEも無しであのガロウに勝てるはずがないZOI!」
「そうだウホッ!それに今の俺たちにも手が出せてねえ、お前がガロウなんかに勝てるかよ?お前、嘘をついていたな?」
「嘘だと思うなら、その身に刻んでやるよ。ZONE無しが持つ力をなあ......」
そう言って俺は機械剣を鞘にしまい、地面に落ちている途切れた二本の電線を両手でつかむ。
「こいつ電線を掴みやがったZOI!?」
「ウッホホ!!!バカめ、感電して死ぬだけだぜ。」
「そいつはどうかな?」
俺は不敵に笑い、二人を睨みつける。途切れた電線か漏れ出す電気が俺の身体を通ることなく、両腕のガントレットへと吸収されていく。人間は電圧差によって感電するが、これなら感電することは無い。
「さあ、充電完了だ。100%の威力見せてやる。感電死するなよ?手加減とかできねえからなあ!!!」
邪悪な笑みを浮かべ、声が裏返りケタケタと笑いながら、二人へと迫る。ブレードはあの時よりもさらに青白く光り輝く。その光に照らされた俺の顔面はまさに悪魔のように見えたのだろう。
「す、すまなかったZOI!」
「ウホッ!待て、待ってくれ!」
二人はカツアゲをしようとしたことを謝罪するが、俺は止まらない。
「パージボルト......雷落とし。」
刃先が腰を抜かし、怖さに抱き合う二人に当たる。二人はひとしきり悶えた後、白目をむいて倒れた。その光景を見てわなわなと震えていたヤンキー共は「し、失礼しましたー!!」と言いながら倒れた二人とヤンキーを抱えてその場から去って行った。
「ちょっとやりすぎたか?」
『tonarie』
刈谷市の池田町三丁目に2025年の9月オープン予定の複合商業施設。まあ小規模のイオンモールみたいなものだと思ってください。
星谷たちが見た映画は「ペンギンズ FROM マダガスカル ザ・ムービー」ペンギンズ知らなくても楽しめる作品です。個人的おすすめ。