第39話 最強の妹
正直言って火野さんという最強の火属性ZONEを見ているから巴さんの戦闘センス、ZONEを舐めていた。火野魔利亜に一泡吹かすとグループで宣言した俺よりも、「一泡吹かそう」そう思っていたのは巴さんだった。
「オラァ!!」
時は四月七日、ちょっとした喫茶店で話をすることにしていた。主婦たちの雑談などの雑音がカモフラージュとなり、重要な話は聞かれてはいけない人たちには聞こえもしないだろう。
「久しぶり、巴。」
手を振り場所を伝える彼女は火野魔利亜。十年前の七区襲撃事件で行方不明となり、亡くなったと思っていた実の姉だ。こうしてまた会えるのは正直言って嬉しかった。姉の座る席に移動しコーヒーを頼み、落ち着いたところで話し始めた。
「真理お姉ちゃん。何で今まで連絡とかくれなかったの?私たちすごく心配したんだよ?偽名まで使ってさ、何で私たちから離れたの?」
聞くことは至極当たり前のことだ、姉は何故、魔利亜という偽名まで作って私たちと距離を置いたのか、知りたかった。寂しかったし、帰ってくることを心から望んでいた。
「離れたのは私の意思だ。」
「え......」
「私はあの日、七区でZONEが覚醒した。とても強力で尚且つ危険な力だ。だから離れた。」
「わからないよ、何でそれだけで私たちと離れられるの......?」
「家族を危険に晒したくなかったんだ......」
姉は震えた声で言った。目には多少の涙を浮かべていた。姉はその涙と震えた声をコーヒーを口に流して黙らせ、再び話し出した。
「私は常にある組織に狙われている。それはEDEN財団。表向きにはクリーチャーからの脅威を排除し、かつての世界に戻そうと狩人育成機構と同じ理念を持つ西日本を中心に拠点を置く巨大財閥だ。だが、やつらの真の目的は世界征服。嘘みたいな話ではあるが事実だ。そのために非道な実験を繰り返している。やつらは強大な力を欲している。私の遺伝子情報、ZONEがやつらの下で複製でもされれば人間、クリーチャーを問わず、全てがあいつらの意のままになる。直接的に私のZONEを入手できなくても、やつらは私たち家族を誘拐して人工的にZONEを作るだろう。だから、繋がりを知られては不味いんだ。」
「そんなことが......」
「幸いにも、本名を知ってるのは私たち家族と狩人育成機構の社長あとは飛雷君だけ。偽名だけならクラスの子たちだけだ。だから現状は上手くいってる。私だってもっと巴と家族と話したいけど、我慢してるんだ。家族を守れてるっと思うと我慢できるんだ。」
「今の私が力不足だっていうの!?」
「そういう訳じゃ......」
「会計済ませておいて。私、帰る。」
「巴......!」
「お前は弱い」そう姉から言われたにも等しかった。この時、私は強く望んだ。姉のように強くなりたい。家族を守れるほど強くなりたい。
「舐めてたぜ巴さんの火力。あんなに強いのか!」
急遽始まった、火野先生戦のデモンストレーションってことで機械剣:大剣モードを巴に貸してやったんだが、すぐに使いこなしてやがる。それに炎の操作も火野さんに比べ粗削りだが徐々に上達している気さえする。
「バトルロワイヤルの時よりも火力が上がっているように見えます。ヒヒン!」
巴、馬場、俺の三つ巴の戦いはいつしかギャラリーというか参戦者も増えていた。
「どうだ!」
ガロウは闇を纏った拳で肉薄し、がら空きになった巴の腹脇を捉える。
「もらった!!」
拳が見事入り、巴は大きく飛ばされるも、その隙を利用して足から炎を噴射し、一気に空中へと上昇する。
「だったら、ここまで来れるかな?」
巴はちょっとしたドヤ顔で見下す。それを仰ぎ見たガロウは俺に提案を持ちかける。
「ちぃ......空中浮遊されたら流石に俺も手が出せんな。星谷、お前踏み台になれるか?」
「アホかガロウ、回避されるのがオチだろ。」
「ほなワイが行くわ。」
ガマは弾け飛ぶ衝撃で空中を駆け上がり、巴に接近する。
「弾け飛ぶ衝撃:空気砲!」
押し出された空気が巴の身体を覆う炎に当たるとさらにその炎は燃え盛る。
「空気やから酸素を与えて火力が増すだけやったか!?せやったら、弾け飛ぶ衝撃:散弾銃!」
「フッ、甘いわ!ファイヤボルト!」
続けて発射されたガマの散弾銃は、|機械剣《アダプターにいとも容易く防がれ、機械剣を握っていない左手から発射された巴の火炎弾を食らい地面に落ちる。
「大丈夫かガマ?」
「威力が上がっとる。相当やる気に満ち溢れてるっぽいで。」
「体感的にどうだ?火野さんが修行してくれてる時の強さぐらいか?」
「そうやな、大体そんくらいや。」
「ダメだ、まだ足りないな......ならこっちを試してみるか!天野!俺の周囲に雷雲を作れないか?」
「あなたが丸焦げになってしまうけど?」
「むしろそれで良い!それくらい良い!」
「もしかしてドMに目覚めたんじゃ......??」
「違うわ!チャージだよチャージ!こいつで一発かますんだよ!」
俺はマンティスガントレットを叩き、こいつがなんとかすると訴える。
「わかった。行くわよ!」
俺の周囲に黒い雲が浮かび始める。ビリビリと音を立てながら小規模の雷が線を描くとガントレットに向かって吸収されていく。俺はブレード部分をメタル化させ、溜めた電気をブレードへと流し込む。ブレードは青白く光が燈る。
「行くぜ!巴!ちょっとビリビリするから歯ァ食いしばれ!!!ガマ、弾け飛ぶ衝撃頼むぜ!!」
「あいよ!行くで!!弾け飛ぶ衝撃:二重衝撃!」
ガマの放った拳が俺の背中に当たる。そして弾け飛ぶ衝撃によって俺は巴のいる方向へと吹っ飛ばされる。
角度、速度共に十分、急ごしらえのチャージは70%だが、威力も十分!
「パージボルトッ!雷鳴鎌斬り!!」
電撃を纏ったブレードが巴に迫る。巴は自前の炎で、機械剣に炎を燈す、その炎の色は紅色。姉、火野真理によく似た炎だった。
「紅蓮燈す大剣の一撃!!!」
紅蓮に燃える大剣による一撃と青白い電気を放出するガントレットがぶつかり合う。
「「うぉぉぉ!!!!」」
互いに一歩も譲らない必殺技のぶつかり合いは、意外な決着で終わった。
「う、動けねえ......」
「わ、私が融かせないなんて......」
両者の攻撃の間に割って入って聳え立ったのは巨大な氷山。その半透明の氷の山を形成した本人は舌打ちをして校舎へと戻って行った。
「(時間だそうです。)」
そして網玉の声が脳内に響く。
「時間だと?」
校舎の昇降口の上に設置された時計は授業終了の五分前を指し示していた。六時間目で学校の授業は終わり、掃除の時間に入るのだ。
「本当は面倒見が良い性格なのかもな......」
教えるという行為は冷たい態度とは真逆。ここ全員に聞こえるように言うとなると今まで冷たい態度を取った苦労が水の泡になる。その意図に気付いた俺はまだ残ってるクラスメイトに掃除が近いからもう片付けに入るように指示を出した。
「(私もちょっと混じりたかった......)」
「んあ?網玉、なんか言ったか?」
「別に?」