第36話 十人十ZONE
「あっ!」
「どうしたのキリエちゃん?」
「タオル教室の机の上に忘れてきた…ごめん、取ってきてくれる?」
「えー、今着替えてるくらいのタイミングでしょ?嫌なんだけど。」
「今度アイス奢るから、お願いします!」
「しょうがないなー。150円以上のやつね」
体育前の五時間目の放課。
体育の授業の前は、俺ら男子は教室で着替えるのだが、女子は体育館の下にある一階の更衣室まで渡り廊下を経由して移動するのだが、ここは三階の渡り廊下からも一番遠く、一番端の教室。ここからの移動には歩いて最低三分かかる。だから忘れ物を教室に忘れたとなると着替え時間含め、ダッシュしても間に合わないことがあるという。
そして男子のみが集まるということは、それすなわち、下世話が増えるのである。
「星谷って何だかんだ言ってモテてるよな。羨ましいわ。」
「だれがモテてるかよ。いいか龍之介、こっちにとってはいい迷惑だっつうの。冰鞠さんのあのプレイは二度とごめんだな、今でちょっと指先というか全身が悴んでるわ!」
「キリコの方はどうなんだよ。編入学当初からよく喋ってんじゃん。」
「あれはまあ、友達の部類だろ。恋愛的な対象者ねえよ。」
「では、松本妃奈殿はどうなのですかな。向こうからは強烈な好意を持っているようですが。ヒヒン!」
「俺を思ってくれる気持ちは嬉しいけど、わざわざ付き合うとはならないかな…」
「じゃ、キリエさんはどうなんだよ?一番距離近いじゃん?というか一緒に住んでるんだろ?」
「うーん、家族って感じだからな、手を出そうにも出せないし、その気力さえ沸かないな。まず俺、性欲が無いし。」
「不全ってことか?それとも鬱か?」
「生々しい事言うな。不全かどうかは知らんが鬱ではないな。ガマとかキリエとか火野さんと会ってから毎日が楽しいんだ。」
「コイツ本当に付いてるのか?」
ゾロゾロと男子の足がこちらに向く
「おいおい、待て待て待て!こっち来るな!!」
ネタが佳境に入り、龍之介率いる男子がズボンを下げようと俺に迫ろうとした次の瞬間。
「え?」
「え?」
「「え?」」
俺と男子たちの間に割って入ってきたのは、まるで瞬間移動して現れた紫色のミディアムヘアの女子だった。体操服を既に着ている者、まだ制服の者、ズボンだけ脱いでいるなどなどの中途半端な状態の者たち。この状況の中現れた彼女はその恥ずかしさから顔を赤らめ、キリエの席の上に置いてあったタオルを回収し
「すいませんだしたー!」
そう一言いい残すと共に指を鳴らし、瞬時にこの場からテレポートした。
「何なんだ今のは?」
「今のは、宇佐美戻はんやな。」
「戻さん?もしかして今のZONEか?」
「そうや、彼女のZONE:逆転する運命は指を鳴らすことで自分が最大5分前にいた場所に瞬間移動することができるんや。」
「へー便利なZONEだな。普段使いとかよさそう。」
俺たちは着替えが終わり、運動場に出て準備体操をした後、みんなに自己紹介とZONEを見せてもらうことにした。
出席番号1番は茶髪のポニーテールの女子だ。何というか落ち着きのあって大人びている。
「出席番号:1番、天野文香です。誕生日は6/1。ZONEは空へと祈れ」
そう言って手から四つの雲のようなものを出し、一つ目は太陽のような球体上になり明るく発光し、二つ目は黒くなると思うと雨を滴り落ちらせ、三つ目は雪を降らせ、四つ目は雷のような電気がビリビリと発光した。
「ええ!すげえ!むっちゃ種類あるじゃん!」
「でも、私は父のように大規模で強力じゃないし、ジョーカーさんのような特化した能力でもないから威力は低いわ。」
「このグラウンド内くらいだったら天候操作はできる?」
「それくらいなら」
「じゃあ、一点集中とかはできるのか?そこだけ晴れてるとか雨降ってるみたいな。」
「たぶんできる」
出席番号2番は水色のツインお団子ヘアの女子だ。元気一杯って感じだ。
「ハーイ!出席番号2番の泡美愛水でーす!誕生日は11/8でーす!」
「ZONEの方は?」
「ZONEは弾けて混ざる泡!手のひらから吸い込んだ液状の物質を泡へと変えて発射することができるの!」
「やって見せて」
「ハーイ!」
愛水は先ほど文香さんが降らせた雨と土が混ざった泥水の水たまりに右手を入れると泥水は吸い込まれ、さらに右手を空中にかざすと、泥水のような濁った色のシャボン玉が発射された。
「これ凄いのがね、液状だったら何でもシャボン玉に変えられるの!ジュースだったりー、マグマだったり!」
「試したのか!?」
「うん!巴ちゃんに協力してもらって!」
「なあ、その出来たシャボン玉って能力とか引き継ぐのか?例えばマグマだったらすごい熱い表面でドロドロとしていながら、ぷかぷか浮かぶシャボン玉ができるのか?」
「うん!能力は引き継ぐけど、シャボン玉みたいにすぐに破裂するの!」
なんて凶悪で可愛い能力なんだ、その笑顔がサイコパスじみたものに見えてきた…
出席番号3番は灰色のデコ出しツンツン頭に真面目そうな眼鏡をかけた、石田学人だ。
「出席番号3番、石田学人です!誕生日は11/14。ZONEは刻む石の巨人。よろしく星谷君!」
真面目な容姿ながらに鍛え抜かれた体格、身体の大きさだけならガロウを超えているまでもある。そして石田はマッスルって感じのポーズをとると、身体全体が岩のような質感を帯びると共にゴツゴツになる。
「おお、バトロワの時の巨大化ってどうやってたんだ?」
「あれは近くの土や岩、アスファルトを取り込むことで大きくなるんだ。街中だし、ここは学校の敷地だから事前に用意しないとあの状態にはなれないんだ。」
「その状態でもなかなかのパワーはありそうだな」
出席番号4番は一式網玉か…
「4番、一式網玉。誕生日7/1。ZONEはサイコメトリー。」
網玉は俺の肩に手を触れ離れる。そうすると脳内に直接語り掛けてきた。
「(能力は主に手で触れた相手の頭の中に直接喋ることと思考を読み取ること。)」
「こいつ脳内に直接ッ!?」
「(それぞれ私が相手に直接触れないと効果は発動しないし、効果は一時間が限界。)」
「それって他人から他人に指示を出せたりできるのか?」
「(私を仲介すれば可能よ。あと私が許せばそっちからも話しかけられるわよ。)」
「(どうだ出来てるか?)」
「(そう、独り言を言うような感じ。)」
「(こいつは便利だ。騒音状態の戦闘でもこうやって直接やり取りができるなら指示も作戦伝達も思考が許す限り最速で行えるのか。)」
出席番号5番は、あの時教室に入ってきた…宇佐美戻さんか
「5番宇佐美戻、誕生日は9/18です。ZONEは逆転する運命」
そう言って指を鳴らすと宇佐美さんは校舎の入り口付近に瞬間移動した
「能力はこんな感じでーすー!!!」
「分かりやすくて助かるー!」
6番はキリエか
「まあ、知ってるでしょうけど。改めて自己紹介するわね。6番、衛守桐恵誕生日は10/1覚えておきなさいよ?」
「ZONEは魅かれ合う二極だろ?」
「よくわかってるじゃない。」
「流石にな」
7番の女子は白いマスクをつけた黒のストレートの女子だ。
「7番の小野田花音です…誕生日は12/6で、ZONEは擬音掃射」
「オノマトペ?」
「えーと今から見せますので」
そういってマスクを外し、花音さんは空を見上げ
「ダ―――――!!!!」
文字通り叫ぶと同時にその出した言葉がカタカナの物体として現れた。
「何だこれ!?!?文字が出てきた!?!?」
「そういう能力でして、あとは…」
そう言ったあと、「ジュウジュウ」と小声で足元にある小石に言うと、その文字が小石に赤く浮かび上がり、ジュウジュウと音を立てる。気になって指先で触ってみるとジュウジュウと焼けるような熱を感じた。
「すごく漫画チックなZONEだ…」
8番はガマか
「改めて自己紹介やな、8番の蟇野錯牢や。誕生日は2/23、ZONEは弾け飛ぶ衝撃や。」
「おう。」
9番は白色のマッシュの男子だった。
「9番の霧島昇也だ。誕生日は1/15。ZONEはミストボディ」
霧島はそう言うと身体を霧へと変える
「そのまんまの能力だ。わかりやすい。」
「この状態なら、物理無効で飛ぶことだってできる。やろうと思えば細い隙間に入り込んだり、空気を追加して大きさも自由自在だ。」
「意外と便利だな。」
「でもよ、急激に冷やされたりしたら解除されて、身体も小さくなっちまうってのが欠点だな。調節も難しいしな。」
10番はガロウか
「なあ、何でみんな自己紹介とかしてんだ?」
「あれガロウ、グループ入ってない?」
「グループ?なんだそりゃ?」
「省かれてんのか?スマホ持ってる?」
「持ってない。」
「なるほど。今度火野さんに頼んでみるか…とりあえずZONEの紹介をしてくれ。」
「俺のZONEはフェンリルだ。拳とかを闇で覆うことで威力上昇と相手のZONEの能力を多少無視して攻撃できる。目視できる影を移動する瞬間影移動。あと、最近知ったんだが、腹が減ってる状態の方が動きが良くなる。」
「そうなんだ。でも何で気付いたんだ?」
「支援とかで充実しているせいかもしれない。」
「支援も考え物だな。」
キャラ紹介だけで2~3話使いそう。主人公含めてあと18人もいるんですか!?