第35話 ドSの真相
悲報:オレ氏、クラスのドS女子にペットにされる。
「なあ、何で首輪付けたんだ?結構冷たいんだが…」
「何か言った?」
「いえ何も!」
すごく目が怖い。あと尻に引くのを止めてもらいたい。休み時間常時四つん這い状態で手足が痛い。こういうのは人にとってはご褒美に移るのだろう。アンディーの顔を見るとわかる。羨ましそうにこちらを見ている。どこが羨ましいのか述べてもらいたい。
「なあ、これ何時まで続ければいいんだ?」
「私が良いと言うまでだ。」
「は、はい…」
こういう相手の対処法は何時か本で読んだことがある。喜ぶ、苦しむそぶりを見せず、基本的な会話のペースをこちらが握りながら従順に従う。こうすれば幾らドSとて面白くないと感じ、拘束、ドSプレイを解除するはずだと。
俺は早くこの状況を脱したいと心から願うが、火野さんとクラスで戦うためには彼女の存在は大きな戦力になる。バトロワの時の開始直後の水蒸気爆発は巴さんと冰鞠さんのZONEのぶつかり合いで発生したものだろう。であるのなら、火野さんの炎にもいくらか拮抗できるかもしれない。だから俺はこの状況を脱し、冰鞠さんと仲良くなる必要がある。あわよくば、クラスのみんなとも仲良くやってもらいたい。
二時間目放課
「ちょっと肩を揉みなさい」
「整体師の資格とか持ってない自己流になりますが…」
「いいから揉みなさい」
「はいはい」
俺は一時的に四つん這いの状態から解放され、冰鞠の肩を揉む。優越感に浸っているのか少し肩を震わせている。笑ってやがるのか?と思いながら肩を揉み続けると
「もういいわ」
震えた声で止めろの指示が出る。そんなに愉悦ってたのか?と心の中で思っていると網玉に態勢を四つん這いにさせられる。
ふと網玉の方を見ると「うわぁ」というような顔をしている。なんだその顔は!そっちの注文通りにやってんだぞ!
「すごい従順やな。普通の男子やったら首輪付けられてすぐに音を上げとるのに。」
「あれそんなに冷たいの?」
「アイスタイム食らったみたいな感じ。俺ちゃんはそんくらいなら平気だけど」
「アイスタイムって何ですの?」
三時間目放課
「ジュース買ってきなさい。」
「何を買ってくればよろしいので?」
「ジュースよジュース。早く行きなさい。」
冰鞠が俺に指を指すと俺の手足に霜が付き始める
「寒ッ!?」
「早く行かないと全身凍るわよ?」
俺は急いで教室から飛び出し、身体の震えを抑え込むようなぎこちない歩き方で自販機のある昇降口の隣まで急ぐ。
「ジュースってどれ買えばいいんだよ!?」
自販機にはオレンジジュース、コーラ、緑茶、水、コーヒー、そして季節外れに置かれている、あったかいおしるこ、コーンポタージュがラインナップされている。
「ここはコーラか?いやいや、このままだと寒さでやられるからおしるこか?でも冰鞠さんが言ってたのはジュースだよな…だったらオレンジジュースか!」
急いで財布から小銭を取り出し、オレンジジュースを買い、教室へと戻る。
「ジュース買ってきました!」
思い切り扉を開け、冰鞠にオレンジジュースを手渡す。
「どうぞ、お召し上がりください。」
「ふん、随分と速かったじゃない。」
「いえ、これもご主人様のためでございます。ささ、早めにお飲みになってください。自動販売機から取り出した飲料水は時間がたつにつれぬるくなってしまいます。」
「気が利くこと言うじゃない。でも私のZONEはわかってるでしょ?無駄なお節介だったわね。」
「いえいえ、これもご主人様のためでございます」
冰鞠の顔を見ると、妙に不貞腐れた顔をしている。計画通りだ。
「星谷はんもようやるな、ここまで粘っとるやつ見るの初めてや。」
「ひっかけジュース問題を過去最短の新記録2分で通過いたしました星谷選手。その後の執事的ロールプレイも見事なものです。おや、ミス・ビューティー何やら考えておられますね、お聞きしても?」
「ジュースと言ったら清涼飲料水のことではなくて?」
「ジュースってのは本来なら果汁100%の飲み物を指す言葉だ。常識的な問題で振り落とす、氷道冰鞠の常套手段だ。」
「桃色ハードパーマのクラスのコック、桃山桃太郎くん大正解です!」
「何でアンディーが司会役に回ってるのよ!?」
昼休みの時間に入り、俺は首輪に繋がれた状態で音楽室まで連れてこられた。音楽室はよく声が響く作りになっている、この場所で俺が高々と悲鳴を上げることを彼女は望んでいるのだろう。だが俺は屈しない!そう意気込んでいると
「はい」
冰鞠が突如として俺の目の前に手で総菜パンを差し出す。もちろん現在進行形で四つん這い状態にさせられている。上に乗っているのは冰鞠ではなく網玉なのだが、この状態で食えと?
「食えってか?」
「そうよ、早く食べなさい。」
「これじゃあ、飼い犬だな。尊厳の尊重ってもんはないのか?」
「面白い事言うわね。ペットなのに。」
「力づくでこの拘束を解いで、お前に襲い掛かることだってできるんだぜ?わざわざ人が来ないような場所に連れてきて、追い詰められているのが自分だってことまだ気付いていねえのか?雪の女王様よお!?」
「ダウト」
「はあ?」
俺の上に乗っかている網玉が急に口を開く。
「ダウトだと?ハッタリにでも聞こえてんのか?」
「だから、あなたは嘘をついている。これは事実。この拘束状態は抜け出せても、冰鞠ちゃんに襲い掛かる事なんてできっこない。あなたの心がそう言ってる。」
「なるほどな、心を読むサイコメトリー系のZONEか。だか、一つ解釈違いしてるぜ一式網玉さんよ。」
「解釈違い?」
「お前らみたいな、戦いに身を置いたことが無い奴らが思い込むような、厭らしい襲い掛かるじゃねえっつてんだよ。俺が言ってるのは殴り掛かるって意味なんだがな。その証拠にお顔が少し赤くなってるぜ?あーやだやだ、厭らしったらありゃしないわ。」
「何を言って…」
「じゃあそのお得意のZONEで俺の心を覗いてみろよ。俺は決して厭らしい気持ちでお前らに近づいてないってのがすぐにわかると思うぜ?」
網玉が俺の背中に手を置く。なるほど、手で触れることが条件のZONEらしい。
「ほんとだ…」
恥をかき、早とちりの解釈違いをした網玉と冰鞠の頬がさらに赤く染まる。俺は氷の拘束を解いて立ち上がり首輪を両手で破壊する。
「まあ、大方こんなことをしている、予想は付いてる。上に乗ってたこいつがあんたの事情を読み取ってくれる唯一の理解者ってところか。」
「何を言って…」
「強がっているところ悪いが、あんたの氷のZONEには、あるデメリットでもあるんじゃないかって思うんだ。今までのあんたの行動を見る限りだが、周りにはドSに見えているんだろうが、俺にはあんたは本当は根が優しいってのが丸わかりだ。本当にドSなら蹴ったり殴ったり、鞭で打ったりするような場面で、あんたはそれをしなかった。」
「ッ…!?でも、それだけじゃ私がドSである理由付けにはならないでしょ?」
「他人に冷たくすればするほど、比例的に能力が強力になるZONEってのが俺の中で挙がってる。それならあんたが無理にでもドSを気取ってんのが分かる。成績優秀なのは、それをキープできているのは、いや頑張ってキープしているのは、ドSになって周りに冷たくして能力を強力な状態にしているから。違うか?」
「…」
「答えは沈黙ってことは図星だな。まあ難儀な能力だよな、俺は別にあんたの努力を否定したくて話しかけたんじゃねえ。今度のチーム戦で火野さんをギャフンと言わせてやるためにちょっとばかり協力してもらいたいんだ。」
「そのためにわざわざ話しかけて、SMプレイしてたの?バカじゃないの?変態なの?」
「一応言っとくが、俺は頑丈ではあるがドMじゃねえ。お前のSMプレイをどうにか止めてみんなと仲良くとか最初は考えてたが、あんたの事情が事情だって気付いたからな。一対一まで話せる場所まで我慢したってわけよ。」
「やっぱり変態じゃない。」
「まあ、そういわれても無理はないやり方だったしな。で、協力してくれるか?」
「ふん…誰がやるもんですか…」
冰鞠はスタスタと音楽室から出ていった。俺は網玉へと視線を向ける。
「オッケーってことだよな?」
「そうだと思う。」
俺が教室に戻るとキリエが出迎えた。
「あ、お帰り。って何で総菜パン口に咥えてるのよ。」
「もらったモゴモゴ」
「誰に?なんとなく察しがつくけど」
「冰鞠さんだよ。犬食いするよりかマシだと思って食いながら来た。」
「犬食いさせられそうだったの!?」
「まあ、そのおかげか協力はしてもらえそう。」
「何が何だか分からないけど、協力って?」
「チーム戦、火野さんをギャフンと言わせよう大作戦。」
「私も火野さんを驚かせたいとは思うけど、第一に火野さん相手に1時間戦えるかって話よね。だってあの人最強だし。というか、その事実を知らない人の方が多いし。」
「グループで聞いてみるか。アンケートの取り方教えてくれ。」
狩高3-A(28)
[2215年 4月8日(月)]
[13:10
[投票]火野先生の実力を知っているか YES/NO]
星谷世一
「アンケートよろしくね!」
早苗
「実際どれくらいの強さなの?」
星谷世一
「直接聞いた話だが、火を操り、鬼のような身体能力の向上。状態異常を引き起こすようなZONE無効や、武器も変化するらしい。もちろん飛行能力もある。」
ひな
「化け物ですわ!?」
夢原
「それZONEの種類全部当てはまってない?」
アンディー
「全てのZONEの性質を併せ持つ♡...ってコト!?」
ひのとも
「私の完全上位互換じゃん…」
ひな
「それ私たち、何分持ちこたえれますの…?」
キリコ
「推測:基本的戦闘力だけなら開始100秒以内に全滅です。ガロウさんでも持って20秒ほどです。」
デュエリスト
「無理ゲーDA☆ZE☆」
キリコ
「しかし、ZONEの組み合わせ、有効な作戦を立案することで戦闘可能時間を大幅に伸ばすことは可能です。具体例は桃山桃太郎さんのZONE:きび団子による強化など」
星谷世一
「引き伸ばすことができるなら削り切ることもできるな。」
カエル
「アホか?」
星谷世一
「このクラスでトップの成績ですが?」
アンディー
「ブーメラン食らってやんのwww」
星谷世一
「組み合わせ次第でほぼ無限の勝ち筋があるんだ。目標は火野さんのHPを削り切る!」
未来
「そこまで言うなら具体的な作戦はもう決まってるのか?」
星谷世一
「俺まだ全員と顔見合わせてないし、喋ったことないし、ZONEも知らないから、今度どっかで見せてほしい。そっから作戦を練る。」
天野
「六時間目の体育でいいんじゃない?今日先生出張で自由だったはず。」
ひなとも
「いいじゃん」
星谷世一
「助かる。」
弁当を掻き込みながら予定が立った。
「あんた、フリック操作うまいわね。」
「慣れれば楽だぞ?」
「ちょっと羨ましい。」
氷責めと言葉責めだけで決して暴力は振るわない優しい子です。ツンデレ度で言ったらキリエの遥か遠くだろう。