第34話 最強からの宣戦布告
キリエにお灸を据え、火野さんにスマホデビューをしたと報告などなど色々あった土日曜日が終わり、月曜日の朝がやって来た。教室に入り自分の席を見ると人だかりができていた。遠くの方で眺めている双葉さんに話を伺う。
「なんかあったのか?」
「星谷君の机の上に結構大きめの箱が…」
「箱?」
集まっているのは主に男子だ。よっぽど少年心がくすぐられるような逸品が、俺の机に置いてあるんだろう。まあ、察しがつくし、俺が頼んでいたものが届いたってこった。
「やあやあ皆の衆。そこの箱の持ち主の登場だ。道を開けい!!!」
自分の席の前に移動し目の前の箱を見る。宛先:星谷世一と書かれた箱の上部は薄い半透明で中に入っている物のシルエットが薄っすらと見える。
「なあ早く開けてみせてくれよ!」
「非常に気になります。ヒヒン!」
「三上、馬場、そう焦るな…早く見せてくれよ!」
「霧島君も相当焦っているように聞こえるけど。」
「お前らうるせえな、さっさと開封してやるから黙って見てろよ見てろよ?」
俺は箱を開けて中身を取り出す。中から取り出したのは肘くらいまで覆い隠すようなガントレットと説明書らしき紙だ。ガントレットはまるで鱗が付いた籠手のような見た目であの時に戦ったカマキリの鎌が折りたたまれて収納されているのか、腕周りが少し丸みを帯びていた。大きさ的には普段から装着しても違和感の無いくらいにはいい出来だ。
説明書:マンティスガントレット
腕に装着して使用する。装着者の意志でガントレットの側面の腕が肘辺りまで開き鎌状のブレードが展開する。このブレードは攻撃時逆手に構えることでナイフのように使用できる他、逆手に構えずとも展開状態であればカマキリのように腕を振ることでも攻撃、防御をすることができる。また攻撃、防御時に一瞬だけメタル化し威力、耐久力が増加することが可能であり、装着者の意思で自由に変更可能。
電気を溜め込む性質を持ったクリーチャーのバッテリザードの素材を使用し電気を溜め込み。メタル化状態のブレードから電流を流す必殺技「パージボルト」が使用可能
「なにこれ、クッソロマン武器じゃねえか!!」
俺は「そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので。」と満足し顔がにやける。早くコイツを使ってみたい。そうウズウズしているとキリコが話しかける。
「質問:満足いただけたでしょうか?」
「パーフェクトだ、カウザー。いい仕事してくれたぜ。」
「それカウザー先生が作ったのか!?」
「羨ましいか、三上?というか、これカウザー先生だけじゃなくて、本多さんとの合作なんだわ。」
「お前のツテは一体どうなってるんだ…金も火野先生から降りてるんだろ?」
「いや、今回は俺とガマとキリエ、あとはジョーカーが一緒に倒した人くらいのサイズのカマキリのネオクリーチャーを買い取ってもらってその金で作ってもらった。」
「ジョーカーと言いますと、あのプロハンターのジョーカーですかな?」
「お!鋭いな馬場、その通りだ。」
「ヒヒン!?」
「あー!早くこの武器使いてぇ!!!」
机でガヤガヤしているとガロウもやって来た。
「よお、星谷。どうだ体調の方は?」
「ばっちりだ。蓬さんに治してもらおうとしたが、その前に治ってるくらいにはな。」
「なら良かった。もう一度謝罪させてくれ、あの時はすまなかった。」
「いいんだって、もう気にしてないし。それよりも火野さんのツテで回ってきた仕事は上手くいってるか?」
「ああ、土木作業中心で結構な肉体労働だが、給料は他のバイトに比べて結構よくてな。生活にも多少だが余裕ができた。」
「おおマジか!よかったなガロウ!」
丁度いいところで朝のホームルーム開始のチャイムが鳴り、「みんな席着けー」と言いながら火野さんが教室へと入ってくる。
「えー、今日の連絡なんだが、来週の初めての体育の時間にお前たち全員で私と戦ってもらうことになった。」
「「はぁ!?!?」」
「おいおい、先生一人で大丈夫かよ。俺たち全員だったら5分も持たないと思うぜ?」
龍之介が挑発じみたことを言う。ステイ、ステイだ龍之介。お前というか、このクラスの大半は火野さんの実力を知らない。一応無名のハンターとしてこのクラスのやつらは認識しているだろう。違うのだ、このハンターは文字通りの規格外、存在が秘匿されていたくらいの最強のハンターなのだ…
「カウザー先生のRBGシステムを使った模擬戦で私のHPが半分以下になれば、今学期の宿題を半分に減らそう。」
「「うぉぉぉ!!!」」
クラス全体のはしゃぎ具合が凄い。宿題が多い事は多いのだが、それが半減になると思えば浮かれるのにも無理はないか…
「だが、これだけは言っておく、今回の評価点はチームワークだ。強力な敵相手に力を合わせてどこまで善戦できるかを測る。全員でかかってくるように。先生からのアドバイスとして、ある程度の交友関係を築けばスムーズに戦えるだろうな。朝のSTは以上だ。」
「起立、ありがとうございました。」
「「ありがとうございました」」
火野さんが教室を出て行った頃、俺はガマにこのクラスの交友関係について聞いてみることにした。
「なあ、このクラスの交友関係ってどんな感じなんだ?」
「まあ、普通科のやつらよりはええんとちゃうか?ワイら狩人科クラスって1クラスしかあらへんし。」
「それもそうだよなぁ」
狩人高校はハンター志望者以外も入ることができ、普通科、狩人科に別れている。狩人科は普通科とは違い、1クラスしかなく、メンバーも変わることもない。狩人認定試験の試験料免除や特別授業などがあるが、基本的に学費は高額。そのためガロウのようにバイト浸けになる生徒も多い。それによる留年はないが、実力や能力が伴わないなら留年、もしくは普通科堕ちなどもある。
つまり、このクラスは全体的に仲が良いのだ。三年間同じクラスってのは不思議と仲が深まるらしい。だが、今回の火野先生が考案したような全体での模擬戦は初めてだそうだ。
「でも、ガロウも今はあれだけど、最初は嫌われてたんだろ?」
「まあ、雰囲気は怖いし、滅多に顔も出さへんカツアゲを行っとるヤンキーとしか思ってへんかったしな。他にも話しにくいってやつはおるけどな。」
「男子にそんな感じのやついたか?」
「男子やない、女子や。」
「蓬さんとか?」
「あれはシャイなだけで話はできる部類や。優しいしな。ワイら男子が一番警戒しとるのはあいつやねん。」
ガマが指を指した先に居たのは楽しそうに話す女子二人。片方は黒髪ハイライトのメッシュでハイトーンカラーのレイヤーロングの少し小柄な女子、もう片方は白色のストレートのナイスなプロポーションのミス・ビューティーに退け劣らないほどの整った顔立ちの清楚系女子だ。
「どっち指してんのか分からんのだけど」
「白髪の方、氷道冰鞠や。」
「何で?結構おとなしそうな感じだけど?今すぐにでも話しかけに行こうか?」
俺は氷道冰鞠へと足を進める
「ま、待て!早まるんやない、星谷!そ、そいつはー!」
「こんにちは、冰鞠さん。本日はお日柄もよろしゅ…ヒエッ!?」
突如として首周りが冷たき氷のよう何かに覆われる感覚に襲われる。手で首元に触ると氷でできた首輪が俺の首にはめられていた。
「え?ナニコレ!?」
「新しいオモチャ、み、つ、け、た♡」
悪魔のような笑みを浮かべ、氷道冰鞠は星谷の耳元に顔を近づけてささやいた。
「そいつは超ド級のドエスやねん」
「やめとけ!やめとけ!あいつは超ド級のドSなんだ。「どこかに行こうぜ」って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか…『氷道冰鞠』17歳、JK。勉学はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない女子……なんかエリートっぽい気品ただよう顔と物腰をしているため男子にはモテるが、いざ告白しようとすると、そのドSっぷりで容赦なくメンタルをペシャンコにしてくる。悪いやつじゃあないんだが これといって近寄りがたい……ある意味完璧な女性さ。」
「アンディーの言う通りや。氷道冰鞠は側から見れば完璧な人物や、頭脳明晰、成績優秀、そして何より美しい。女性の中であそこまで完璧な存在はいないと思えるほどにな。しかし、美しいバラにはトゲがあるように、彼女は一つ欠点があるんや。それは超ド級のドSというとこや。それ故にある意味でガロウと同等レベルでクラスから恐れられとる。そんな彼女の唯一の友達が隣にいる一式網玉や」
「あんたら随分詳しいわね。どう思う松本さん?」
「キリエさんに同感ですわ。ちょっと引きますわ。」
「男子の中では有名な話や、最近はそれが浸透して男が近寄らへんから、大人しくしとったと思っとたのに、星谷はん、話も聞かへんから…」
いずれ、クワガタ、バッタも入れてさいきょーにしたい。増殖はしないけども。