第31話 三人共闘
軽トラック程の大きさのカマキリを誘導しながら、樹海の一部と化した住宅街の十字路へと移動した。互いに距離を取り、威嚇しあっている。
「この後どうするんや?あのカマキリむっちゃ威嚇のポーズしとるで。」
「まず、俺たちがあのカマキリをぶっ倒すにはどうすればいいと思う?」
「質問を質問で返すなや!」
「悪かった、で、こいつの攻略法だが。腹を狙う。」
「腹ってどこよ」
「あいつの下半身の膨らんでいるところだ。」
俺はわかりやすいように指を指して教える。
「昆虫界において、カマキリは確かに強い。だが、弱点が無いわけじゃない。カマキリの身体は全体的に脆い。鋭い食肢や毒針を持った節足動物が相手だと、どこに当たっても致命傷になるくらいはな。」
「そして一番脆いところが腹って訳やな。でもどないしたら、腹を攻撃できるんや?」
「これに関してはキリエがカギになってくる。」
「わ、わたし!?」
「ああ、お前のZONE:魅かれ合う二極でカマキリに触れて、適当な場所で固定すればいい。そうすればこいつに勝てる。」
「でも、あの前脚の速さは健在や。ワイかて距離取るのが精一杯、一発入れれたのはラッキーやった。」
「だが、こっからは三対一だ。俺とガマで隙を作るから、タイミングを見計らってキリエはカマキリに触る。作戦以上!」
「ちょっと待てや、星谷はん。怪我しとること忘れとる訳やないんやろ?」
「そうよ、機敏に動いてたけど、あんた一応怪我人でしょ?」
「だから何だってんだよ。俺は動けるし、リンゴ食べて、だいぶ回復できたから大丈夫だって。」
「それならええんやけどな。次怪我しても運んでやらへんで」
「怪我する気なんざねぇよ。こっちは丁度イラついてたんだ。暴れ倒してやラァ!」
腰の鞘の機械剣を高速で引き抜く
「炎描く居合軌道!」
飛ぶ炎斬を盾として、カマキリへと近づく。ガマは弾け飛ぶ衝撃で空中へと駆け上がり、カマキリの背後へと移動し、カマキリへの同時攻撃を行う
「炎燈す双剣の一撃!」
「弾け飛ぶ衝撃:螺旋二重衝撃!」
俺の攻撃は入らないにしても、背後からのガマの攻撃は入ると思っていた。俺はカマキリを舐めていたのかもしれない。
「なんやて!?」
「マジかこいつ…身体が鋼鉄になってるやがる!?」
視界に移ったのは全身が鋼鉄でコーティングされたかのような、銀白色のカマキリだ。俺たちの攻撃はカマキリの前脚に難なく受け止められる。
「まだや!ノックバックの効果は、まだ残っとる!星谷はん、そっちに飛ぶで全力で回避せえ!」
「わかった!」
その場から横へと緊急回避をしたと同時にガマの弾け飛ぶ衝撃が発動し、カマキリは近くの建物へぶっ飛ばされる。
だが、カマキリは後翅を羽ばたく、さらに鋼鉄と化した前脚の両鎌をアスファルトに突き刺して弾け飛ぶ衝撃を軽減した。
「劣化してるコンクリとはいえ、突き刺せるほどの切れ味…機械剣と同等、もしくはそれ以上ってところか。」
「ワイらこれ勝てるんか?ビジョンが見えへんのやけど…」
「キリエ、あの状態だったら触れてなくてもいけるよな?」
「え?」
「あいつがメタル化したのは嬉しい誤算だ。これなら引かれ合う二極の磁力で引っ張れるはずだろ?幸いにも今はガマの弾け飛ぶ衝撃で距離も取れてる。やるなら今だ。」
「わ、わかった。あんたら体貸しなさい。」
俺とガマの肩にキリエは順に左手を置く。
「グラントマグネ・SⅠ、Ⅱ、。これであんた達は引っ張られなくて済むわ。じゃあ、行くわよ。」
キリエは少し前に出て地面に触れる。
「グラントマグネ・SⅢ!出力最大!!!」
そう告げると共に俺とガマは反発作用で後方に仰反る。そしてカマキリの身体が地面に引きずられるように徐々にキリエが手置いた地点に近づいていく。
「よっしゃ!これでコイツをリンチにできる!キリエ、磁力を弱めるなよ、そのまま最大出力だ!」
価値を確信したその時。
「待って!様子がおかしい!」
「え?」
カマキリの身体から色が抜けていく。光沢は徐々に消え、元の黄緑色へと戻っていく。カマキリはキリエの引かれ合う二極の磁極によって引っ張られる力を逆手に取り、それを推進力として、羽を広げ空中へと飛び出し俺たちへと襲い掛かった。
「下がってろ!」
俺は向かってくる両鎌を機械剣で受け止め、バックステップで後退し、一度距離を離す。
カマキリは、その姿を見て、「拝み虫」と呼ぶほど、昔から親しまれてきた昆虫。カマキリの基本的な戦闘スタイルは、前脚を折り曲げて獲物を待ち伏せし、相手が動いた瞬間に、驚異的な速度で前脚の鎌で相手を捕まえる。つまりはカウンター型の戦闘スタイル。このデカさのカマキリの鎌で捕らえられようものなら、その腕力は3トンに相当する。全身骨折など容易いだろう。
「であるなら…」
「星谷はんのあの構えは…!」
「カマキリと同じ…?」
我慢比べだ!!!
俺は機械剣をカマキリの鎌のように逆手に持ち、構える。
「今なら…!」
「よせ、キリエ」
「何でよ!今がチャンスじゃん!」
「違う、あれは互いに待っとるんや。動き出すその瞬間を、狩るその時をじっとな。仮にあそこに飛び込んでみ、今のあいつらの間合いに入った時点で攻撃されるで。味方問わずな。」
「え?」
「見てみや、星谷はんの目を。あれは獲物を待つ、狩る者の目しとる。今ワイらができることは、あいつらの戦闘が開始した時、即座にサポートに回れるような状況を作る事や。」
「わかった。」
極限の集中状態の両者、先にしびれを切らして動き始めたのはカマキリだった。カマキリは一瞬で星谷との間合いを詰め、前脚の鎌を振り下ろす。
「今だ!」
星谷は機械剣の凹凸部分でカマキリの鎌を絡めとり、ガッチリと抑え込む。
「捕らえたぜ!」
必死になってメタル化しようとするカマキリに星谷は挑発する。
「どうしたカマキリ野郎!下手に動くと鎌が折れるぜ!!」
さらに点火状態の機械剣の火がカマキリの前脚を伝って燃え広がっていく。
「着火・メイク・ア・ファイヤー!!!今だキリエ!こいつに触れろ…何ッ!?」
突如として抑えていたものが軽くなる。
「こいつ…両前脚を捨てやがったのか!?」
視界に移ったのは機械剣にくっついたままのカマキリの両前脚と、両前脚を捨てたカマキリの姿。
考えついても、普通やるか!?だが、お生憎様だったな。自らの最大の武器をわざわざ捨ててまで生き残ろうとするとは。絶体絶命の状態には変わりない…絶体絶命?
「おいおい!なんかヤバい事なっとるで!?」
「進化しやがったのかコイツ!?」
カマキリの身体に変化が訪れた。身体は二回り以上大きくなり、元々あった前脚部分が再生されたかと思ったら、前脚の隣からさらに四本の前脚が生えてくる。
「こりゃ、まるで阿修羅だな…」
「どないすんねんこれ!?」
「私、聞いてないわよ!?」
「大丈夫だ。さっきのカウンター戦法で十分時間は稼いだ。後は、来るのを待つだけだ。」
「待つだけって、火野はんが来るまで、あと十分以上あるんやで!?誰を待つっちゅうんや!?」
まるで舌なめずりをするように鎌同士を擦り合わせ、力を誇示するカマキリを目の前にガマとキリエは途方に暮れていた。だが、俺には明らかな確信があった。火野さんがこの状況下で頼れる唯一の存在を…
突如として、雷の怒号が辺りに響く。そして目の前にスーパーヒーロー着地して現れたのは。
「待ってたぜ!」
この状況をひっくり返す
「ジョーカー!」
切り札だ!
偽鋼・蟷螂(ここから先は、俺のワガママ。試さないと気が済まないんだ。だって、思いついちゃったから!)
偽鋼・阿修羅蟷螂「ワガママはここで終わり、ここからが本番だ!(鎌で音を出しながら)」
ちなみに、火野さんの全力疾走は時速438kmなので東京からここまでを片道43分ほどです。