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第30話 誰が為に

 濃密すぎる五日間が終わり、ようやく土曜日に差し掛かった今日の朝。俺は自然界で食料調達をしていた。


 自然界で過ごし始めて20日くらいすると食べれるやつと食べれないやつの区別が着くようになってくる。区で栽培されている野菜や果物は、完璧な人工栽培のお陰か、基本的にどれも形や味は一緒のが多い。つまりは、当たり外れの無いごくごく普通の味。

 逆に自然界の野菜や果物には当たり外れがある。基本的に樹海の中で育つ自然界の野菜や果物は区の中で育てるやつよりずっと早く、より大きく育つ傾向がある。昨日採取したら翌日には既に実が実り始めているなんてざらだ。

 そして最近わかったことで、太陽光を十分に浴びて成長したやつとそうじゃないやつで味に大きな差があることに気づいた。太陽光を十分に浴びて育ったやつらは、浴びてないやつらに比べて、その野菜や果物の味がより強い。具体的に言えば、より甘くなったり、歯応えとかもよくなる。

 

 じゃあ、何で今こんなことをしているのかって?


 ガロウたちが家へと帰った今日の朝、ふと思った。


「究極のサンドイッチが食べたい…」


 正に天啓が降りた。そう思った俺は気付いた時には既にリュック背負って機械剣(アダプター)を持って樹海で食材を探していたのだ。


 話をサンドイッチに戻そう。俺が作りたいと思っているサンドイッチに必要な食材は肉とパン以外の野菜たち。トマト、レタス、玉ねぎ、アボカドだ。こいつらを集めて、合体させて究極のサンドイッチ。サン・D・イッチを作る。


 七区から離れ森中を走り回り、目当ての食材をゲットしていった。材料をリュックの中に詰め込み、家に帰ろうとした時に事件が起きた。


 走り回って小腹が空いたので、リンゴ農園と化した廃公園で二、三個ほどリンゴをむしり、ツタで補強されているのか分からない、今にも壊れそうなブランコに乗ってむしったリンゴに齧り付いていると、茂みの奥からこちらに向かってくる足音が聞こえた。


「誰かいるのか?」


 口に中にリンゴを残した状態でモゴモゴと誰かいるのか話しかけてみる。


 足音は一度止まりはしたがこちらに再び足を進めた。


 なんだこの感じ?獣、いやクリーチャーとは違う…人か?足音からして襲ってくるような感じはしないが…何だろうこの不気味な気配は。DNAの奥底から湧き上がってくるような潜在的な恐怖というか、未知のモノに出くわした時の底知れない感じ…


 茂みから出てきたのは白い服に灰色のズボン、緑色の目と長髪を後ろで一本に纏めた、女性とも男性とも取れるような容姿端麗の同年代くらいの人間だった。 


 何だこいつ?そうとしか言えない。ハンターという訳じゃないんだろう、装備が軽装すぎるし、何より武器という武器も持っていない。ここにいるには、あまりにも不自然に見えるだろう。だが、こいつがこの自然の中に溶け込んでいることが、さも当たり前の光景にも見えた。



「何だ人か…モゴモゴ…」


 警戒して損した。そう思った。口の中のリンゴを飲み込み、出てきたやつに話しかけてみる。


「あんた、名前は…?」


「…アド」

 

「アド?変わった名前だな。俺の名前は星谷与一。これも何かの縁だ、これ食うか?」


 片方のまだ手を付けてないリンゴを目の前に差し出す。


「うめえぞ?」


 戸惑っているのか分からないが、ピクリとも動かない。


「どうした?要らないのか?」


 そう尋ねると


「ありがたき幸セ」


 そう言って礼をしてリンゴを手に取って、隣のブランコに腰かけて、口へと運んで行った。


 初対面の相手に、王にでも謁見しているような立ち振る舞いするとか、変わったやつだな。それにやたらと距離が近いような気もする。こう何て言うんだ?逆にこちらが接待でも受けているかのような…


「お前ってどこの区の出身?」


「ここでございまス。」


「ここ?自然界ってことか?」


 ありえない話ではない。区というのはバリケードや地形を利用した言うならば町だ。だから区程に大きな規模ではないにしろ自然界で生きていけるような場所はある。


「近くにあるのか?」


「いや、ここでス。」


「ってことは拠点とか持たずにバリケードとか無しにそのままで!?」


 アドはコクりと頷く。


「大変じゃないのか?守ってくれるやつがいないってことだろ?」


「ぼくが守ル」


「お前が?」


「そウ、わたしが守ル。この美しい自然ヲ。人間の手が及ばないようニ」


「まさかお前!」


 俺は咄嗟にブランコから降り、アドとの距離を取りつつ左腰の鞘に手を当てる。


「クリーチャーだな…!!!」


 警戒態勢を取り、クリーチャーを睨む


「あーア、バレちゃっタ。ついカっとなってしまっタ。そうだとモ、俺はクリーチャー。君たちを真似るト、そうだア、名前ハ、アド=ネトラム。」


「アド=ネトラム…何で俺に近づいた!理由は何だ!」


「朕ハ、君とただ会ってみたかっタ」


「あ?俺に会いたかっただぁ?クリーチャーのくせに何で俺に用がある!?」


「君、この前、大柄の人型のクリーチャーと戦ったでしョ?あレ、我の分身なんダ。」


「詰まる所、俺に復讐しに来たってことか?じゃあ、何で俺と会った時すぐに俺のことを殺さなかった!?」


「勝手に勘違いしテ、早とちりしては困ル。ワシは最初から言っているとおリ、君に会いに来たんだヨ。」


「さっきからコロコロと一人称変えやがって、気持ち悪いったらありゃしねえ。せめて話すなら一人称を固定しやがれ!」


「何故?僕ハ、私デ、俺ハ、自分、朕ハ、我ダ。」


「もっと意味が分からねえ。もっと分かりやすく言いやがれ。」


「僕ハ、みんなが集まってできていル。」


「みんな…?」


「人間たちニ、焼かレ、侵さレ、踏まレ、壊さレ、殺された自然の嘆きの結晶体。それが僕、アド=ネトラム。だかラ、僕は復讐しなければならなイ。愚かな人類に制裁ヲ、そしテ、星をあるべき姿へと戻ス。それが星に与えられシ、僕の使命…」


「ふざっけんじゃねえぞ!お前たちクリーチャーのせいで何人もの人間が死んだと思ってる!?」


「君たち人類のせいデ、一体何億もの生命が殺さレ、自然が破壊されたと思っていル?」


「だが、それは人類が発展するための尊い犠牲だ!決して無駄にはならない!」


「じゃア、人類が滅びるのモ、決して無駄ではないよネ?」


「…」


「何故君はそんなにモ、人類の側に立ツ?星の未来のために滅ぶべき存在は人類ただそれだけダ。そうすればこの星は真っ当に寿命を迎えることができル。人類にとって老衰とは誇らしい死に方なのだろウ?何故それを阻害すル?」


「違う!!滅んでいいものなんて…この星には、一つたりともありはしない!!」


「…君はまだ自分が何者なのか分かっていないみたいダ。今日のところはここまデ、僕は帰らせてもらうヨ。またネ、星谷世一。」


「てめえ!待ちやがれ…」


 アド=ネトラムはその場の草木に溶け込むように姿を消していった。


「アド=ネトラム…今度会った時、ぶん殴ってやる…」


 俺はあの後警戒しながら家へと向かった。アド=ネトラムとか言うやつはクリーチャーというには明らかに違った。あれの正体が本当に集合体だとするのなら、一体何時の時代から存在だろうか。

 

 そんなことを思いながら家近くまで来ると何かと何かがぶつかり合うような戦闘音が聞こえる。クリーチャー同士の縄張り争いでもしているのかと思い、音のする方へと行くと


「ガマ!そっち行ったわよ!」


「わかっとる…危なッ!?」


 ガマとキリエが戦っている姿を目撃した。俺は急いで飛び出し、二人と合流する。


「キリエ!何があった!?」


「見た方が早いわよ。」


 ガマの方を見ると巨大なカマキリが鎌を振り回しながらガマを追いかけている。


「まずいぞあのデカさ!カマキリってのは昆虫界でもトップのハンターだってのに、それが成人男性、いや、それよりも大きいなんて、俺たちじゃ太刀打ちできないぞ!どうにかして逃げないと!」


「でも、アレを残しておくのは、それこそダメじゃない?」


「それは言えてる。火野さんは何してる!?もう連絡入れたか?」


「とっくに入れてる!でも、時間かかるって!」


「何で!?」


「あんたが朝すぐに出てった後に火野さん呼び出し食らったみたいで、今、一区にいる!」


「一区っていうと東京辺りか、この前の火野さんの速さからして到着は早くても四十分弱ってとこか。ガマ!後どれくらい耐えれそう?」


「もう無茶苦茶やで!(ワシがこっそり打ち込んだ毒の影響で)さっきに比べて弱っとるにしても、普通のカマキリくらいのスペック持っとるでこいつ!ワイは耐えれても、体力的に五分が限界や!」


「いいか!このまま住宅街の方に連れて行く!俺について来い!」


「わかった!ええ感じに誘導したる!!」


「行くぞ!」

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