第3話 キックバックでノックバック
体育館に移動している最中、ガマが気軽に話しかけてきた。話しかけにくいとか、コミュ症って訳ではないんだが向こうから切り出してくるのはありがたい。
「星谷はんはどんなZONEを持っとるんや?」
「実は、まだ自分のZONEがわかってなくて」
「ほーん。ほな、今から見つけてみるか?」
「見つけてみる?どうやって?」
「んなもん、模擬戦しかないやろ。ZONEってのは、ワイらくらいの歳になると発現する特殊能力ってのはわかるな?」
「まあ、本で読んだことある。」
「じゃあ、どうやったら自分のZONEがわかるか知っとるか?」
「知らない」
「せやろ?でも、なんでやと思う?」
「さあ?色々な本を読んだけど正確なことは書いてなかった。」
「そうやねん、正確にはわかっとらん。なんらかの要因があって初めてわかるもんや。例えば、死に直面した時、あるいは感情が昂った時。一説によれば、他人のZONEを食らったときに連鎖的に開花する場合もあるんや。せやから、今からワイはお前に対してZONEを使って模擬戦する。ええな?」
「おう!」
体育館に着いて、軽く準備運動で体をほぐした後、俺たちは体育館の真ん中あたりで3mくらい距離を取ってスタンバイした。
「準備はええか?」
「ああ、バッチこいや!」
「ほな、行くで!」
指をポキポキと鳴らしてそう言ったと同時にガマは何もない場所に思いっきり蹴りを入れる。その蹴りは空を切ったかのように思えた。
「何してんだ……?」
しかし、次の瞬間。何かに押された感触が体の表目から現れると同時にほんの少しだけ押し飛ばされた。
「うわっ!?えっ!?押された??」
「これで終わってへん。まだまだ行くで!!」
ガマは続けて何もないところへ正拳突きと回し蹴りを繰り出す。それらは確かに空を切ってるように見えるのに、再び何かが押し寄せて来る感覚が体の表面に走ったかと思うと、また吹き飛ばされた。気づけば中央で戦ってたのに既に体育館の入り口付近まで押されていた。
何だ、このZONEは?風を操る操作系のZONEか?いや、だとしても操作系であんなに体を動かす意味なんてないはずだ。だとしたらもっと別の……
「どうや?ワイのZONEは?」
ガマが余裕と自信たっぷりな自慢げな表情で聞いてくる。
「すげぇぜ、これがガマ先輩のZONE。風を操るZONEってのが俺の中では出てきたんだが、そんなもんじゃねぇはずだ。」
「ほーう、結構鋭い考察やな。ほな今度はそっちから来てみいや。」
そう言うので俺は端から助走をつけて一直線に走り、速度を乗せて殴り掛かろうとするが
「んな!?浮きやがった!?」
俺が殴りかかる前にガマはジャンプした。そうすると人一人分、大体3メートルほど跳躍して回避する。そして何故か空中から落ちてこない。ジョギングするように空中で一定間隔で足を交互に動かしている。
「ホンマにええ反応するな星谷はんは、見てておもろいわ。」
「降りてきやがれ!攻撃できないだろーが!!」
「正直に降りる馬鹿が何処におんねん!でも武器も無しにこれやられたら対処できんのも無理ないか。ワイの慈悲や、降りてあげるわ。」
ガマが動きを止めて自由落下してきた。その隙を狙ってパンチを入れようとしたけど、片手で軽く受け止められる。
「見え見えやで。これでもくらえー」
ガマがゆっくり俺の腹にパンチを当ててきた。優しいタッチだったのに、次の瞬間に衝撃が走って、思いっきり吹き飛ばされた。そしてその一撃で、ガマ先輩のカラクリが読めた。
「やっぱり、痛くねぇ。わかったぜ!ガマ先輩のZONE。風を操るような操作系じゃなくて、肉体系のZONEだな?」
「おっ、正解や!そのとうり、ワイは肉体系のZONE。ZONE:吹き飛ぶ衝撃。攻撃した箇所を吹き飛ばすことができる。シンプルやろ?それ故に応用力も高くてな。さっきもやったけど、空気を殴ったり、蹴ったりすればその空気を押し出して、見えない空気砲、空中歩行も可能や。んで、どうやそっちは?ZONEが目覚めとる感じはあるか?」
「今のところ、それらしい感じはしないな。」
「そうか、ほな、呼ばれるまで続けようや!」
「おう!」
「ええ意気や、ますます気に入ったわ!」
再び戦闘が再開されるも状況は変わらなかった。遠距離は空気砲で押されて近づけさせず、運よく至近距離まで近づいてもノックバックの作用でヒット&アウェイの一方的なペースでどちらにせよ戦局は不利だった。
ダメだ!続けるにしても、三次元かつ、一定間隔を強制されるあのZONEとの戦闘は相当面倒くさい。遠距離武器でもなければ正面から太刀打ちするには到底不可能だ。あれ?無ければ、今ここにあるもので武器を作れば……これだ!
「ん?目つきが変わったな。なんか思いついたんか?」
俺は靴を脱ぎ、シューレースで靴同士を繋いで簡易的な飛び道具を作り。
「届けっ!!」
それをガマの顔の真っ正面に投げつけて、一気に走り出す。
「アホか!そんな弱っちい飛び道具、一発空気を殴って吹き飛ばしたるわ!」
言葉通りにガマは空中で飛んできた靴をノックバックを使って空気を殴り、吹き飛ばす。それにより、ガマ自身も空中により足の踏ん張りが効かないため、少し後ろへとノックバックされる。
「なんや?あいつが居らへん?どこに行きよった??」
「後ろや!ガマ先!!!」
「なんやとッ!?」
ガマは、背後から聞こえる星谷の声を聞き取り、振り向く。そして目の前には空中にジャンプし、拳を構える星谷の姿がある。
「(まさか、あの投擲はワザとノックバックを使わせる為のフェイク!?んでもって地上からの高度も下がっとる、なんでや!?あの間もワイは足を動かしとった、何故?)」
ガマは思考を巡らし、一つの答えを得る。
「(顔面……そうか!顔の真っ正面からやと腕を顔の位置まで上げる必要がある。せやから、弾け飛ぶ衝撃を顔の斜め下から発動することになる。斜め上方向からのノックバックで高度が下がったんや!それに顔の正面に投げたことで注意を完全に投擲先に向けて、自分から意識を外したんか……)」
「ようやるやんか、星谷はん……」
「頭フル回転させて思いついた秘策だ。ほんじゃ、さっきのお返し行くでガマ先輩、きばりーやー。」
俺はガマの頭をコツンと叩き、お互い床へと着地する。ちょうどそのタイミングで、オルキスから声がかかる。
「お、もう時間かいな。行くで星谷、飯の時間や。」
「っちょ!?抜け駆けで先行くなって!」
「飯は早いもん勝ちやで!!」
俺たちがリビングに戻ると中央のテーブルにデカデカとイノシシクリーチャーの丸焼きが置かれ、それを囲むようにクリーチャーの肉を使って作ったであろうビーフシチューとこんがりと焼かれたバケットが合計四人分並べられていた。
「うまそう。」
「同感や、ホンマにうまそうやな。」
「さぁ、お前たち座った座った。」
テーブルを囲んで椅子に座る。「いただきます」と、俺を襲って、見事に打ち取られ、料理として出されるクリーチャーに感謝の言葉を述べて肉を口にする。あったかい料理を囲んで仲良くなった人たちと食事を共にする。この一連の何の変哲のない行為のはずなのに目頭が熱くなって涙が溢れてくる。
「ちょっと……あんた、何泣いてんのよ?」
その光景に何かを動かされたのか、星谷に今まで話しかけてこなかったキリエが、少しばかり心配そうな表情を浮かべて話しかける。
「わ、わりい……俺、物心ついた時には両親がいなくて。家族って呼べるような人たちと、こうやって飯を囲んだことが無くて。なんでか知んないけど、心があったかくて、目頭が熱くなっちゃって。変ですかね、俺?」
「べ、別に変なことは、な、ないんじゃない?あんたが、これまでそういった当たり前の経験がなかったからじゃない?私たち二人もここに来るまでそうだったし…」
彼女なりに慰めさせてくれているのだろう、それが肌に伝わってくる。
「火野さんからも伝えられてたけど、私たちはあんたと同じ。親は見たことないし、物心ついた時には孤児院にいた。そんな私たちに火野さんは居場所をくれた。あんたが言う「あったかさ」を分けてくれた。だから、あんたがそんな感情を持ってくれるのは、なんて言うの……う、うれしいっていうか…」
「良かったじゃないか星谷。歓迎してくれるってさ。」
「ありがとな!えーっと……キリエ先輩?」
「う、うっさいわね、さっさと食べなさい。冷えるわよ。」
キリエは、照れを隠すようにご飯を食べるように星谷を促すその傍ら、ガマは少し泣いていた。
「あかん、わい、こういうのちょっと弱いねん。ウルウル……」
「ガマ先輩泣いてる!?」
「それと、あんたが来た時にナイフなんか突きつけっちゃって、詫びるわ。ごめんなさい。」
「ちょっと気になったんだが、なんであんなことしたんだ?」
「位置関係的に後を衝けた不審者に見えて……火野さんお客さんなんて呼んだことないから……」
「えっ、オルキス…違った、火野さん友達いないの?」
「キリエぇ!誤解を招くような言い方するなぁー!私にだって友達ぐらいいますぅーー!わかったかい、星谷?」
「は、はい…」
「おっかないな、火野はんは…」
「ん??誰がおっかないですってぇ!?」
「あっ、ホンマすんません。や…やめ…そのヘッドロック止めて!!!!」
ガマのZONE:吹き飛ぶ衝撃なんですが、どんな物体でも自分が攻撃したと認識すればZONEは発動します。さらに言えば吹き飛ばす対象の重さはZONEの発動には影響しない。