第28話 仕事×すれ違い×裏で動く者
前日の行きつけのバーまで時間は戻る。
「進化ってあんた本当に!?」
火野は驚きの声を上げる。ZONEの進化というものは一定の条件の下でZONEがより強力な能力へと変わる事。その条件というのは一般的には死に直面したり、それと同等の強い感情を抱くこと。つまりそれは飛雷の身に死と同等の何かあったということを示す。
「ああ、元々僕のZONEは電力操作っていう電気を操る操作系ZONEってのは覚えているよね?」
「うん、でも何で肉体系のZONEが発現したのさ?」
「ZONEの進化というのは、収斂進化なんだよね。」
「えーっと、なんだっけそれ?」
「起源の異なる生物に由来する器官や形態が進化の結果互いに似てくる現象のことだよ。例えばカマキリなんかがいい例だね。昆虫界でトップクラスのハンターであるカマキリの見た目を擬態するだけで、天敵から身を守ったりする昆虫がいるように、ZONEにも同じことが当てはまるんだ。火野くんのZONEは操作系、肉体系、技能系、異能系、全ての系統を持つでしょ。それってこの収斂進化における言うならば到達点なんだよね。」
「つまり、ZONEの進化は最終的には私みたいな複数能力持ちになるの?それはちょっとやだな。」
「でも…」
「でも?」
「それはあくまで、全ての条件が一致した場合の話。全員が全員、火野くんみたいな感じになる訳じゃない。それぞれのZONEに合った進化をしていくんだ。進化元のZONEを純粋に強化したものや、それと相性がいい、進化元と全く接点の無い能力が発現したり様々さ。」
「じゃあ、飛雷くんは何のZONEはどう進化したのさ?」
「そうだな…」
飛雷は少し悩み、辺りに手頃そうなものが無いか探す。辺りも見渡しても手頃そうなものが無かったので飛雷は火野に頼む。
「僕の身体、ちょっと触ってみて。」
「えっ?ど、どこを触ればいいの??」
「どこでもいいよ。触ってみればわかる。」
火野は少しの理性と戦いながら、テーブルの上に置かれた飛雷の手に触れた。そうすると飛雷の手を貫通してテーブルの木目に触れた。
「なにこれ!?すごーい!!」
火野は何度も飛雷の手をツンツンする。
「やっぱり、火野くんには平気なんだね。僕の進化したZONE:迅雷の伸暢は身体を雷に変化させることができる「雷人間」になれるんだ。」
「なるほど、だから指が貫通したのか。ねえ、それって常時発動してるの?」
「頑張って入るんだけどね、今はせいぜい一分が限界かな。」
飛雷はウイスキーを口に運び、飲み終えた後に深刻そうな顔で口を開く。
「話を仕事のことに移すけど、最近、クリーチャーの数が増加傾向にあるのは耳にしているよね?」
「ああ、私も今日授業中だってのに救援要請入ったから実感しているよ。十年前の七区襲撃事件で多くのハンターが亡くなった。英雄と言われた「レッドエックス」を始めとした優秀なハンターさえ戦死しちゃって人手不足もいいところなのに。これじゃあね。」
「その十年前の七区襲撃事件で現れたグリードを覚えているかい?」
「確か人型のやつでしょ…まさか!?」
「そう、七区周辺の自然界を警備をしているハンターが接触したらしいんだよね。」
七区襲撃事件を引き起こしたのはグリードという恐らくネオクリーチャーが進化したとされる上位存在。グリードはただのネオクリーチャーとは決定的に違う点がある。それは人語を話し、意思疎通が可能である。現在までに三種類の存在が確認されている。
「交渉はできたのか?」
「ある一言を残して姿を消したらしいんだよね。」
「それは…?」
「それが、「いずれ、会いに行く」って言ったらしいよ。」
「誰にとかはないのか?」
「それがさっぱり」
「本格的に教育に専念する必要が出てきたな。こんどクラス全員で私と戦わせてみるか…」
「火野くん、君は鬼かい?」
「魔王だけど?」
「そうだったね。君のオリジンって、確かそこからだったよね?」
「懐かしいこと言うね、子供ながらに馬鹿馬鹿しい夢だったけど、それが今じゃ現実になってるんだから本当に驚きだよ。」
「ほんと、火野くんにはいつも驚かせられっぱなしだよ。」
二人は席を立ち、会計を済ませ店を出る。
「今日はありがとね、誘ってくれて。」
「いいんだよ、互いに疲れているんだしさ。ちょっとした世間話の場とか欲しかったでしょ?」
「あ、あのさ…」
「なんだい?」
火野は何か言いたげな顔をしていたが、ぐっと堪えてしまってうまく言い出せない。
「身体、気を付けてね。」
必死に気持ちを押し殺し、火野は心配の声を掛ける。
「うん、それじゃあ。」
二人は店の前で別れた。そのお互いの心境は
「「(もっと一緒に居たかった!!!)」」
火野は一人家に帰り、今日のことを反省した。
「もっとぐいぐい行けば良かった~!!!」
枕に顔を埋め、触っていいよって言ったときに胸筋とか触ればよかった!!という後悔に叫ぶ。
飛雷は家に帰り、シャワーを浴びているとき
「場所指定すればよかったかな」
と、あの時のノリノリ顔の火野を思い浮かべながら自分の胸筋に手を置いた。
「虚淵!!これはどういう事だ!?」
蛇の鱗のような濃い青緑の長髪に黄色い眼を持つ、ライダースジャケットにジーンズを着た長身の男が虚淵の胸ぐらを掴み、上へと体を持ち上げて研究室の白い壁に打ち付ける。
「何故、ガロウに感情増幅装置を使わせた!答えろ!」
虚淵は顔色一つ変えず、冷徹に答える。
「大蛇、君が突き掛かる事ですか?それに、君としても喜ばしい事ではないのですか?彼が強くなることが…」
「その方法が気に食わないって言ってんだよ!わざわざ暴走させて殺し合うなんてよ。」
「気に食わない…?」
虚淵は左手に持っていた研究資料を床に落とす。その一瞬に気を取られた大蛇の手を退けて、虚淵は右手で大蛇の首元を掴む
「心外ですね。君も同じようなものでしょう。こちらとしても手荒な真似はしたくありません、これ以上口出しをするのならば、直ぐにこちらで処分してあげましょうか?」
虚淵は大蛇に睨みを利かせ、首元をさらに強く掴み、上へと持ち上げる。
「すまなかった…」
「それでいいんです。」
虚淵は大蛇を反対側の壁まで投げ飛ばし、落とした資料を拾い集めながら大蛇に話しかける。
「君はまだあの黒条牙狼に比べ若い。君のZONEも、まだまだ発展途上、更なる成長可能なのですから無駄な死になどはしないことです。」
「ちっ…」
大蛇は舌打ちをしながら、自動ドアから部屋を出る。
「クソがッ…!」
大蛇は部屋を出てすぐの廊下の壁に拳を叩きつける。
「あーあ、壁に凹み付けちゃって。珍しいな兄弟、お前がここを出入りするなんてな。」
黒い帽子とオーバーコート、赤渕の眼鏡に赤い瞳、髪型はグレーのサンタ―分けウルフカット。日本刀をぶら下げ、近くの壁にもたれかかった男がオロチに話しかける。
「何かあったのか?」
「しらばっくれんじゃねえ土蜘蛛!テメエの子蜘蛛がメイを誘拐したんだってな…死にてぇのか?」
「おいおい、怒るのはお門違いだぜ兄弟。俺はあくまでも人員が欲しいからって虚淵に頼まれて子蜘蛛を派遣しただけで、命令とかは財団の上の人間が出してたんだぜ?俺だって可愛い子蜘蛛ちゃんたち死なせてるんだからさ?」
「俺はお前らとは違う、本物の兄弟じゃない。次また兄弟呼びしてみろ。殺すぞ。」
「へいへい」
土蜘蛛は適当に返事を返して研究室の中へと入って行く。
「ちっ、どいつもこいつも気に食わねえ…」
火野×飛雷。こいつら幼馴染両想いなのにどちらも奥手なんですよ。可愛いですね。