第27話 カエルよ家に
「おお、やっとるな。」
ガマは星谷の後を尾けてメディアス体育館おおぶの体育館の屋上で戦況を眺めていた。
「星谷はんがガロウを捕らえおったか。ほな、そろそろメイはんを助けに行くか。」
ガマは屋上から体育館の中へと侵入していく。通路を歩き、メイがいる場所と職員がいる場所を把握する。
「あの鉄格子、ZONEでは開かれへんな。電子ロックも掛かっとるようやし、ちょちょいとここに来る職員ぶっ潰して安全確保だけしとくか。仮面も忘れずに着けとかなアカンな…」
ガマは懐から達磨の目元のような黒と白の蛙面を取り出して装着し、職員がいる放送室の扉を開ける。
「誰だお前は、ここは立ち入り禁止…」
「誰に向かってもの言っとるんや?」
ドス黒い声を上げる仮面の男に職員は腰を抜かし、イスから転げ落ちる。
「あ、あんたまさか…大蝦蟇か…!?」
「 ほう、気付いとったんかいな。あんさん随分と物知りやな。ワシら「モノノケ」を敵に回す意味わかっとるよなァ?」
「待ってくれ…こ、殺さないでくれ…」
「黙れや」
「ヒィ!?」
「今お前の生死は誰が握ってると思っとるんや?そうやなァ、ワシは優しいから選ばせたるわ。」
大蝦蟇は紫色の螺旋状の三叉槍を生み出し、職員に突き立てる
「え…?」
「正面からやり合って血流しながら無様に負けて殺されるか、子蜘蛛たちを使った包囲自爆特攻で熱と爆破で身体がバラバラになって死ぬか、ワイの速攻毒でやられるか。どれがええか言うてみいや。」
「さ、最後の速攻毒で…」
「理由聞いてもええか?」
「そ、速攻で効くんですよね?だ、だったら他のに比べて直ぐに逝けると思いまして……」
「ええで、お前の望み叶えたるわ。」
大蝦蟇はポケットからカプセルを取り出し、それを飲むように指示した。それを飲んだ職員は首を押さえながら床で悶え、苦しそうに這いずり回った。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!!!な、なんだ…これ…ぜ、全然死ぬ気配がない…大蝦蟇さん話が違…う…」
「アホか。ワシが言ったのは「速攻毒でやられる」。これのどこに殺すなんて言葉あるんや?それにな、ワシがあんさんに仕込んだその毒は、ワシが調合した特別品でなァ。気絶とかせえへん程にキツい再生と毒が永遠と続くしろもんや。」
「た…頼む…助け…れく…れ…!!まだ、死に…たく…な、い…」
「死にたいのか死にたくないのかどっちやねん。男なら筋通さんかい。」
激しい痛みと毒に体がボロボロになりながらのたうち回る職員に大蝦蟇は話しかける。
「計画は既に進んどるんやろ?あいつらをこれ以上戦わせる意味なんかあらへん。下級職員風情が調子乗んなや。最後にあの檻の解除方法を教えろや、そしたらこの薬もやるわ」
手に持つ瓶をチラつかせ、職員が答えるのを催促する
「パ、スワー…ドは、220…0524で…す」
「なんや、メイはんの誕生日やったんかいな。安直なパスワードやな。おおきに、ほれ、報酬の薬や」
床で悶える職員に瓶に入った薬を三粒渡し、大蝦蟇は部屋から出ていく。
「はぁ…はぁ…これで楽に…」
職員は薬を唾液と共に体の中へと送った。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!何で…!何で…!!痛みが…消えない…」
叫び助けを求める声は聞こえない。自らか設置した防音の放送室の中に反響もせずに消えていくだけだった。
大蝦蟇は仮面を外し、メイが捕らわれている体育館へと移動し、その中に設置された空気穴と電子ロックが掛かった扉以外は存在しない縦横3mほどの四角い鉄の箱の電子パネルにパスワードを打ち込む。
扉が開いた瞬間、メイが回し蹴りをし、ガマは片手でそれを受け止める
「あ、あんたは!?」
「助けてやったちゅうのに、何でワイが蹴られる必要があるんや?」
「あ、ごめんなさい。またあの男が来たのかと…」
「それもしゃあないか、急いで脱出するで。外で星谷はんとガロウはんが殺しあっとる。見た限りやとガロウはんは正気を失っとる。はよ側まで行ってやりや。」
「どうする?降参するか?」
こちらが圧倒的に有利を取っているのに、ガロウは相変わらず俺に対して唸り声を上げ、鋭い眼光を向けて殺意満々だ。犬っころなら犬っころらしく服従のポーズでも取れってなもんだ。
「なあ、ガロウ聞こえてるか?聞こえてるんなら遠吠えでもしてくれないか?」
反応は無い。まじでオオカミ、いやフェンリルになってる。もう決着はついているようなものだし、元に戻してやりたいんだが…デバイスを取れば何とかなるか?
俺はガロウの左前足に紫色に光るものを見た。恐らくあそこにデバイスが設置されているんだろう。鎖の影響のせいかガロウは相変わらずの殺意だが、暴れるような様子はない。慎重に左前足に取り着けられたデバイスを探す。
「おっ!あった!」
紫色に光る液晶端末、間違いないあの時のデバイスだ。近くにあった少し先が尖った石で液晶をぶん殴る。そうすると液晶から光は消え、固定されていたデバイスは外れた。
「ガロウ!!聞こえるか!!!」
「グルルルル」
ダメだガロウの殺意が納まる気がしない。何かガロウに強い衝撃を与えれば自ずと人間態に戻るだろうか?だったら妹を探すことが第一優先だ。ガロウも無事な妹さえ見れば気が楽になるだろう。だとしたら鬼門はあの職員とか言うやつだ。何らかの方法で俺らを監視しているはず。だからズルがバレでもしたら即刻メイが死ぬことになる…
「そうだ!止めを刺すために武器を探そう!機械剣はガロウの固定に使って止めを刺せないし、必要だよね!うん!」
多少の猿芝居を打って俺は体育館の中へと入って行く。
中は酷い有様だ。灯りなんて一つも点いていないし、夜のせいで入り口付近以外は闇で覆われている。
「うーん、あれ?これ無理じゃね?あーあ!電気とかついてたら武器とか探しやすいんだけどな!!!」
こっちも返事が無い。あの男どこに居やがるんだ?目が暗闇に慣れているとはいえ、これ以上進んで下手に怪我とかはしたくない。
一度体育館を出て機械剣の火を頼りに元の場所へ戻る。
「え…?」
鎖が解けている。ガロウの姿がどこにもない。
「ガロウ!!どこだー!!!」
鎖の解け方として無理やりやった感じはしない。どちらかと言えば自然に外れた感じだ。
周囲を見渡す。すると人影のようなものが見える。
「ガロウ…?」
人影は無言でこちらに走ってくる。
「まさか、こいつまだ…!」
闇に覆われた拳が機械剣とぶつかり合う
「グルルルル!!」
「正気じゃねぇ!!」
こいつ、目がまだマジだ!だが、ガロウもかなり疲弊している。動きが最初に比べて鈍い!このまま攻め込んで取り押さえて正気に戻す!!
「オラオラァ!まだやれるだろ!」
「ガアァ!!!」
一歩も譲らない攻防戦。ガロウはスピードとパワーで攻め、星谷は対人経験と図書館流による高い戦闘センスでガロウの攻撃をいなし、カウンターを入れる。
ガロウはカウンターによろける。しかし、瞬間影移動で月明かりに照らされ生み出された星谷の影へと瞬間移動し、回し蹴りでの不意打ちを行う。
「ぐはっ…!?」
首元に直撃したガロウの回し蹴りは、機械剣が手から滑り落ち、星谷の意識を狩り取る寸前にまで追い込むものの、星谷はその場に踏ん張り、左足を軸に回転してガロウの頬に右ストレートを入れ、ガロウは転倒する。
「入った!!どうだガロウ!これで満足し…」
全身の力が抜けるような感覚に襲われる。その場に片膝をつく。体力の限界が来た。意識が朦朧とし、今まで出ていたアドレナリンが抑えていた、身体の痛みが全身を襲った。
「あと…少しだってのに…」
ガロウはこの隙を逃さず、膝が崩れ、その場に伏せた星谷に止めを刺そうと迫る。
「く、クソ…」
すまねえ、ガロウ…
やられると思ったその時、俺の目の前に誰かが割って入る。
「お兄ちゃん止めて!!!」
割り込んできたのはメイだった。メイはガロウの前へと立ち塞がり、ガロウはそれを見て不思議そうな顔をする。
「お兄ちゃん私ならもう大丈夫。だから戻ってきて…!」
メイはガロウに抱き着き、説得を試みる。
「あ…あ……」
ガロウの様子が変わる。その鼻に入り込んできた懐かしくも、落ち着く、兄妹の匂い。それが心の奥底に眠るガロウの意識を呼び覚ました。ハッとした顔でガロウは話しかける、
「め、メイなのか…?」
メイは泣きながら
「うん。お帰り、お兄ちゃん。」
ガロウに胸に顔をうずめ込む。
「よかった…お前らが無事で……」
まずい…意識が飛ぶ…
「なーにカッコつけて逝こうとしとんねん。」
誰かに肩を持ち上げられる。
「えっ!ガマ!何でここに!?」
俺の肩を持ち上げていたのはガマだった。
「なんや、元気そうやないか。」
「どこが元気に見える?こちとら意識飛びかけてんだぞ?」
「まあ、話は家に帰った後や。ガロウたちも今日はうちに泊まりいや。イノシシ肉のハンバーグとかやる予定やけど。」
「俺は…」
「お兄ちゃん?」
「わかったよ。ガマ、お前のご厚意に甘えさせてもらう。」
「決まりやな。ほな帰るで皆の衆。」
ガマの着けている仮面は、天ノ屋の黒達磨の蛙面を検索してもらうとわかりやすいと思います。
この時のガマのCVは速水奨さんみたいな感じです。