第26話 解き放たれし魔狼
ようやく本気になりやがったな。というか理性が無い感じもするが。
「今度はこっちから行くぜ!」
機械剣の峰の凹凸を同じ向き同士で嚙合わせ、大剣モードへと切り替え、反撃に出る。
出ようと思ったのだが、予想だにしていない行動を取られる。
「この状況下で、消えた…?」
瞬間影移動による移動であるということは分かる。しかし、何故このタイミングで瞬間影移動を使ったのか、その理由が分からない。一先ず影を警戒しながら周囲を見渡す。
「グルルルル」
唸るような声が周囲の木々の後ろから聞こえる。恐らくは、攻撃をするタイミングを窺いながら俺を中心にクルクルと回っているのだろう。
「かかって来いよ犬っころ!!」
うーん、返事というか何も返ってこない。ん?ちょっと待てよ?さっきから足音がなる感覚短くなってないか?二本足から四本足になって増えるのはわかるが、異様に数が多いような……
そう考えた次の瞬間。五匹の巨大なオオカミが四方から襲いかかってきた。
俺は機械剣の持ち手の先に鎖を連結させ、振り回してオオカミたちを近づけまいと威嚇する。
オオカミたちは機械剣の炎に怯えて後ろへと引き下がる。
双葉さんの二重を行く者とは違うっぽいな、全体的に透けて見えている。一度攻撃させ当たれば消滅するかもな、その証拠に奴らは近づこうとしない。実体があるならこの程度の炎と斬撃は奴らの巨体なら、火がついたマッチ棒を近づけられた程度のことだろう。実際、ガロウには炎描く居合軌道は効かなかったしな。それに火を恐れているという点でも、知能はガロウとは違って、本物のオオカミくらいか。
炎に怯えたオオカミたちは一度星谷との距離を取り、再度周囲を回る。
「そんなに来ないなら、こっちから行ってやる!」
機械剣をブレイカーモードに切り替え、二本の持ち手の端に鎖を繋げて鎖鎌の要領で振り回しながら目の前のオオカミへと突っ込む。
「手ごたえがねぇな!まあ、闇だから実態もクソもねぇか!」
予想通りに影は俺の機械剣に成す術もなく次々と霧散していく。
「お前で最後だぜ。」
囲っていた最後の一匹に切っ先を向け、煽り立てる。
「乗らないか。じゃあ、これで終いだ!」
遠心力によってスピードを増した機械剣の投擲は最後の一匹を貫く。
そのはずだった。
パリン!
弾かれた音が耳に入る。
「あ、ありえねぇ…こいつはさっきまで分身だったはず!!何故消滅しない!?」
そして攻撃を食らったオオカミが噛み付こうとこちらに迫る。それを紙一重で回避しながら、改めて目の前のオオカミをよく見てみると、先ほどの分身たちのような透明感が少なく、身体も一回りほど大きい。
さらに、今まで霧散して行ったと思っていた分身たちの霧はその場に僅かながらも残り続け、その霧の軌道を見ると先のオオカミへと向かっているように見える。
「なるほど、お前が本体ってことか。だったらこいつでどうだ!」
オオカミの攻撃をジャンプで回避し、木と木の間を交互に飛びながら上へ上へと駆け上がる。
「高さ約10mといった感じが。ここからならガロウをぶっ倒せる」
大剣モードに切り替え、登った大樹からオオカミ目掛けて一直線に機械剣を振り下ろしながら落下する。
10mの高さから1キロの物体を落とすと大体1.5トンの衝撃だと言われている。この機械剣の重さは一本約2kgってことは、これを食らったオオカミは、一体どうなると思う?
「落下式・炎燈す大剣の一撃ッ!!!!」
6トンの衝撃がオオカミへと入る。炎によって真っ二つとなった箇所は闇での再生が不可能なほどに燃え広がり、その体を切り裂いた機械剣と共に俺は地面へと着地する。
これくらいのダメージならガロウも死ぬことは無いだろう。常人なら死ぬだろうが、相手はガロウだから大丈夫という謎の自信があったが
その自信はへし折られる。
身体に衝撃が走る。着地と斬撃による反動とは違う別方向からの攻撃に俺は体育館の側まで吹き飛ばされる。
飛ばされた時に見えたのはもう一匹のオオカミだった。
「まさか…全部狙ってやがったのか……?」
俺が最後相手にしたのは分身だった。
引っかかったと不敵に笑みを浮かべるオオカミ。
「楽しんでやがったっていうのか…この状況を…!!」
星谷は頭から血を流し、右片目の視界が血の赤で染まる。
完全に人としての理性を失ってやがるのか?やっぱり怪しいのはあの腕輪!完全にガロウの心とリンク、いや、増幅させているようにしか見えない。本気にさせた俺にも原因はある。だが、ここまで理性を失うのは明らかにおかしい!!
「入影…」
「喋った!?」
ガロウの姿が闇に溶ける。そして巨大な球体のような影ができ、それがこちらに迫ってくる。
「下に居たら絶対不味い!!!」
俺は早急にその場を離れるが、影はどこまでも追尾してくる。
影の枠に一瞬入り込んでしまった時、巨大なオオカミの口が丸呑みする勢いの、まるで天にまで届くような攻撃が、影から垂直に飛び出した。
「影の牙!」
星谷は運良く木の根に躓き転んだことで攻撃から逃れる。
「あっぶね!!!」
あのデカい口に噛まれたら絶対死ぬ間違いなく死ぬ!!それにしたって、どうやってこいつを止めればいいんだ!?手足を覆う機械剣ともやり合える「闇」のバフ、影から影への瞬間移動の「瞬間影移動」、影となって自動追尾で追いかける「入影」から一定時間になったら影から飛び出す噛みつき攻撃の「影の牙」。挙句の果てに「影分身」まで使ってきやがる。
「能力がてんこ盛りすぎんだよ!!コラァ!!!」
オオカミは分身を入り交えた連続攻撃を仕掛けてきた。機械剣の炎でも照らせる範囲には限界がある。一体一体注意深く観察しなければ、どれが本物か分からないほどに辺りは既に暗くなっている。
回避に専念しながら複数匹のオオカミと肉薄する。メディアス体育館おおぶの中を駆け回り、戦闘は続く。
ガロウのやつ、いつになったら体力が切れやがるんだ!かれこれ一時間近く戦ってんのに全く減ってる気がしねえ!俺の体力もそろそろ限界が近い。このまま回避に専念し続けても有効打はないし、落下式・炎燈す大剣の一撃も登るまでの隙を与えてくれやしない。
「マジ…?」
走り回っているうちに敷地の端に追いやられていたことに気付く。後ろを振り返れば口からよだれを垂らしたオオカミが目の前に立っている。
「逃げ場は無い…万事休すか。」
どうする、星谷世一。どうやってこの状況を乗り越える?素早い動きに圧倒的なパワー。どちらかでいい、封じ込めれば逆転のチャンスはあるはずだろ!!
後ずさりしようと足を動かしたとき、ジャラジャラと鎖が鳴る。
そうだ鎖だ!あいつを動きを止めれる唯一の方法!
「うぉーー!!!」
俺は迫るオオカミの攻撃を避け、機械剣をオオカミの右前足に巻き付けてオオカミの下を潜り抜け、オオカミの後ろへと回り込む。
そして思いっきり鎖を引っ張る。前足から倒れるようにバランスを崩れさせる。さらにこの隙を見計らって左後ろ足にも鎖を巻き付けて引っ張り、オオカミは完全に動きを封じられる。
それにしてもあっけない。だが、これが唯一のガロウの弱点。
「お前のZONEについて色々考えたんだがな。ただのオオカミのZONEにしては大きすぎるし、闇を纏った攻撃と影を使った技の数々…」
立ち上がろうとするオオカミ、いやガロウに巻き付けた鎖を再度引っ張り体勢を崩させ、頭の上まで登る。
「そして鎖を巻き付けた時のこの大幅な弱体化…」
鎖同士を結び付け、オオカミの眼球を覗き込み、ドヤ顔で指差しながらガロウのZONEの正体を暴く。
「お前のZONEはフェンリルだろ!!」