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第22話 互いの過去

 色々と授業が終わり、下駄箱で靴を履き替えていると、背中をトントンと叩かれる。今日は昨日の疲れも取れてないしダルいからガン無視を決め込もうと思いつつも、良心が傷つくので、振り返って確認すると、メイが後ろに立っていた。何やらニヤニヤしている


「星谷先輩は今日は一人で帰るんですか?」


 実際一人で帰るのもアリだとは思うが、今日も今日とてガマたちと帰りたい。まだ正確に道が覚えれていないのと、普通に一緒に帰る約束をしている。


「もちろん、わ…」


「友達と一緒に帰るから、先に昇降口で待ってるだけだよ。」


「…ふーん」


 その返答を聞いたメイは星谷の胸ポケットをチラッと見た後、少し頬を膨らませ、そっぽを向く。自分の下駄箱のところで靴を履き替え、スタスタと昇降口を出て行ってしまった。


「なんか言いたげな顔してたな…」


 後姿を見送りながら昇降口を出ようとすると、後ろからキリエの声がかかる。


「ごめん待った?」


「いや、そんな待っては無いな。」


 おかしい、ガマの姿が見えない。一応、一緒に帰る約束をしてたんだが。


「ガマは?」


「ああ、ガマなら赤点ギリギリすぎて、予備室とかで補修してる。」


 呆れた顔をしながらキリエは答える。まあ、赤点ギリギリなのは問題だと思うが、補修まで必要か?


「「せやかて先に二人で帰っててや」ってことか?」


「ガマの真似上手くなったわね。俳優目指したら?」


「俺は万年ハンター希望ですぅ。」


「冗談はここまでにして、とっとと帰るわよ。」


 靴を履き替え終えたキリエに帰るのを急かされるように肩を右片手でトンと叩かれて、共に昇降口をくぐり、帰路に着く。

 片道20分程度、いつもなら三人いるから会話は途切れず、話題という話題も尽きることなどなかった。しかし、今は二人っきり。軽々とした話題という話題は等に尽き始めている。


 だから、前々から気になっていることを聞いてみることにした。


「キリエって火野さんに引き取られる前ってどんな感じだったの?」


「えっ」


 キリエは急な自身へと質問に驚く。


「別に教えてあげてもいいけど。その代わりに私が話し終わったら、あんたも話しなさいよ?私だってあんたのこと、もっと知りたいし…」


「交換条件ってことな。いいぜ、別に減るもんじゃねえし。」


 キリエは星谷の隣を歩きながら話し始める。


「私の父はね、ハンターだったの。この七区周辺の自然界からの脅威を狩る仕事じゃなくて、この七区の中で起きた犯罪や事件、侵入してきたクリーチャーを狩る。言うならばそうね、こんな世界になる前の警察みたいな仕事をしていたわ。」


 ハンターは第三次世界大戦前の世界における公務員のような仕事だ。第三次世界大戦後、自然が報復とばかりに世界を飲み込み、かつて存在した国という国はその機能の大部分が役割を保てなくなった。そんな世界で実権を握ったのが、早期にZONEに目覚めた者たちや、企業だった。そして、今の狩人育成機構の前身となったのが嘗ての日本で存在した巨大財団「ミカドファウンデーション」だったはず。



「父は優秀なハンターだった。火野さんみたいなパワーだとかスピードとかは持ってなかったけど、正義感が強くて、仕事熱心で周りからも尊敬されていたわ。」


「だった…?」


 キリエの表情が少し暗くなる。


「私の父は亡くなってた。私たちが大体7か8歳ぐらいの時。今から十年前に起きた、七区襲撃事件でね。」


 知っている。確か、大量のクリーチャーが七区に侵入し、多くの死者と建物に甚大な損害を与えた七区の大事件の一つとして記事で見たことがある。


「父は最後まで、区を守るために戦い続けたそうよ。」


「でも何で、そこから火野さんがキリエを引き取ることになったんだ?」


「私の父の最後を看取ったのが火野さんだったの。父は私を頼むって火野さんに言ったらしいのよね。当時15歳の火野さんにだよ!?」


「ってことは今の火野さんって25歳か…」


「私の過去というか、引き取られた理由は話したわ。あんたの話も聞かせなさいよ?」


 話すことと言っても特段話すような内容はないと思うが、向こうも話したし、俺にも話す義務があるよな


「俺、そんなに自分について記憶とかあんまりないんだよね。親はいないし、持ち家もない。義務教育も受けてない。生きるために、ひたすらにバイトと図書館と野宿を繰り返してきたからさ。今まで自分の人生を生きていた心地がしないんだよね…」


 比喩でもない紛うことない事実だ。俺と言う星谷世一の人生は今まで始まっていなかった。


「自分の人生が動き始めた時って言えるかわからないけど、ガロウと会ったくらいからかな。ハンター試験のためにお金を稼いで、自然界にパスポートも無しにハシゴ作って降りてった。調子に乗ってイノシシクリーチャーに殺されそうになって、火野さんに助けられた。大きく動き始めたなって思った。キリエたちに出会って、こうやって話してる今が一番人生してるって思えるんだ。」


 実際のところ俺にはさっきキリエが話していた10年前の事件についての記憶が無い。覚えていないとかじゃなくて、無かった。俺は既に17歳、その事件を経験してるはずなんだ…だが、それ以前の記憶は無く、覚えているのは自身の名前、星谷世一と名付けられたこの身体の生年月日や血液型…()()()()()()()()()()()()


「今日は疲れてるだろうし、腕によりをかけた料理でも作ってあげるか…」


「なんで?」


「気分よ、き、ぶ、ん。それと、あんたの顔すごく疲れてるから、美味しいもの食べて早く元気になりなさいよ?」


「味の保証は?」


「何?不味いとでも言いたいの?」


「いえ!毎日美味しく頂いております!」


「じゃあ、仕込みくらいは手伝ってね。」


「了解しました!精一杯努めさせてもらいます!」


 ピコン!


 キリエのカバンの中から音が鳴る。


「通知?」


 キリエはカバンの中からスマホを取り出し、内容を確認する。


[火野 今日友達と飲みに行ってくるから、ご飯お前たちで食べててくれ。]


「火野さん今日いないのか。」 


「そうみたいね。」


「飲みに行く相手って誰だ?」


「気になること?」











 時刻は午後7時を回る。多くの社会人たちの仕事が終わり、居酒屋などで乾杯をしている頃合い。光る街灯が駅前を照らす。その光景は嘗て栄えた時代の名残を残しはするものの、ここを行き交う者たちのほとんどは、その光景を知ることは無い。


 周りの視線はある男に向かっていた。駅前にある彼だ。青く逆立った髪に白く入ったメッシュと襟足を靡かせる、塩顔のイケメン。


「ねえ、あれって、ジョーカーさんだよね?話しかけてみる?」


「でも、あれオフだよ。話しかけない方がいいんじゃ…」


 メイクの取れたジョーカーは、周りの目を気にも留めずにスマホで「まだ?」とメッセージを打ち込んだ画面をじっと見つめながら、誘った相手が来るのを駅前の広場で一人待つ。

 

「おまたせー!」


 元気よくかけてくる一人の女性。


「待ってたよ、火野くん。」


 スーツ姿の火野の姿を見て少し笑いながら飛雷は話す。


「そのスーツ姿、様になってるじゃないか。」


「どう?可愛い?」


「可愛いって言うより、クールビューティの方が勝っちゃうよ。」


 むすっとした顔をする火野の頭をポンポンとさすり


「じゃあ、早速飲みに行こうか。」


 そう言いながら店の方に足を進める。二人は行きつけのカフェバーに入り、酒を交わした。


「「乾杯」」


 火野はハイボールをぐびっと一気飲みする。対照的に飛雷はウイスキーをロックでチビチビと楽しみながら飲む。


「プハァ~、やっぱりここのお酒は美味しいね。飛雷くん、何でまた一緒に飲もうだなんて言いだしたのさ。」


「まあ、近況報告と仕事の相談、そして君の顔が久しぶりに見たくなってね。」


 この二人の中の会話にはいつも嘘や偽りなどは無い。心からの本音で話し合える仲だ。素直に自分に合いたかったと言われた火野は少し頬を赤らめる。


「じゃあ、近況報告っていうのは?」


「あのナイフ使ったんだよね?」


「ん?まあ、そうだけど。」


「何で?」


「別に危機に陥ったりしたのは私じゃないんだ。新しく迎え入れた子の最終的な自衛手段のために持たせたんだけど、すぐに使っちゃうだ何てねー。まあ、その子ZONEは持ってなかったし、自然界だったら飛雷くんがくれたナイフを持たせるのぴったりだと思ったのよ。」


「そうだったの…」


 飛雷は少し残念そうな顔をする。


「どうしたの?」


「いや、何にも。ZONE無しの子で思い出した。この前、本多くんのところで修理してもらってた武器の回収をしに行った時に元気な高校生くらいのZONE無しの男の子に火野くんのことを紹介したんだけど、それらしい子来た?」


 火野は飛雷の発言にギクッとなる


「?」


「あー、あの時のその子供、星谷世一っていうんだけどさ、今私の弟子やってるよ。」


「???」


「おーい、宇宙ネコみたいになってるぞー思考を手放すなー」


 火野に肩を揺さぶられ飛雷は思考を取り戻し、疑問を投げかける。


「そ、それであの子、どこまで強くなった?」


「何でそんなこと気にするんだ?」


「その星谷くんに占いをしてあげたんだよ。才能アリの占いが出たからね。将来、優秀なハンターになるだろう彼の実力ぐらい知りたくなるだろう?」


「まあ、そうだな。星谷は、はっきりと言って凄いよ。物覚えはいいし、どんどんと技術を習得していってる。ZONEの発現が楽しみだ。」


「ZONEね…実は僕、ZONEを()()させたんだよね。」


「え!?」


 火野はその唐突なカミングアウトに驚く


「場所の詳細は教えれないんだけどね、裏格闘技場「アングライト」ってところでちょくちょく修行してるんだよね。」


「どんなのところなの?」


「言えない」


「じゃあ、訓練の内容は?」


「言えなーい」


「余計気になるじゃんか。」


「これ言っちゃうと出禁食らっちゃうんだよね。向こうではジョーカーとしてやってるからさ。自分で調べてくれると助かる。でも、進化した内容は言っておこう。」


 火野は固唾を飲む。


「進化した僕のZONEは、肉体系と操作系その両方の性質を併せ持つ。」

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