第20話 乙女の争奪戦
新学期、星谷世一は狩人高校、通称:狩高へと偏入学した。だが、入学したのは星谷のような三年だけじゃない。新一年生が高校へと入ってくる季節でもある。
「ふぁ~眠ぃ~」
「星谷はん、昨日の疲れがまだ残っとんのかいな?」
「いや、ちょっと武器改造しててさ。バトロワの時、機械剣に鎖つけて戦ってたじゃん?だから簡易的なポケットみたいなの鞘に作ってたんだよね。」
「あんた本当に手先が器用よね。昨日のイノシシの解体作業も教えたらすぐ覚えれれてたし。」
「それはキリエがイノシシ狩りすぎて数があったからだって。」
「何?私のせいだと言いたいの?」
「すんまへん」
「許す」
こうした日常?的な会話をする彼らを遠くから見守る、いやストーキングしている存在がいる。
「(何なの!?あの二人!男の方はいいとして、女の方!私の方が星谷お兄ちゃんと長く一緒に居たのにー!!!)」
「?」
「どうしたキリエ?急に後ろなんか向いて」
「いや、なんか見られているような気がして……」
「気のせいなんとちゃうか?それよりも今日はテスト返しや。何点取れてるんやろなー!」
「随分と自信ありげね。あんたそんなに勉強してたかしら?」
「ちゃうねん。勉強してないからこその空元気みたいな感じや。目指せ!赤点回避やで!」
「何て低いボーダーなんだ。」
「ほんなら点数勝負するか!買った方にジュース一本な」
増える増える嫉妬の感情。
何でそんなに楽しそうにしているの?羨ましい。でも、くじけるな私!あの人は確かに素敵な人だけど、あの人に彼女ができているだなんて確定している訳じゃない。お兄ちゃんが私の将来のために思って狩高に高校進学をさせてくれたんだから。この機を逃さず、粘り強く全力でアプローチをかける!
時刻は昼放課
「ちくしょう!こんなん勝たれへんやろ……」
買ってきたコーラを星谷に渡しながら悔しがる。
「悪いな、俺、頭いいんだわ」
うーむ。まるで勝利の美酒。ペットボトルでもなく缶であるのもまた良い。のど越しが違う。イノシシ肉の焼肉弁当とよく合う。肉を食らい、白米を食らい、コーラで流し込む。我幸無限大である。
「ここまで帰ってきた全教科すべて満点の俺にひれ伏すんだなダハハハ!」
愉悦まさに愉悦そう昼食を教室で楽しんでいると、タッタッタッ……と、こちらに向かう足音が聞こえる。
そして
「先輩ー!」
とこちらに声を掛けながら走ってくる一人の女子。ジャンプし、俺の胸へと飛び込む。
「お久しぶりです。先輩!」
「お、お前は……!」
黒髪のストレートに紫のインナーカラー、見覚えがある。バイト時代によく一緒に遊んだり、ご飯とか食わせてくれたガロウの妹
「冥じゃねーか!お前もこの学校に進学してたのか!」
「はい!お兄ちゃんから「星谷がいたぞ!」って教えてくれて、そしたら本当にいて……会えてよかったです!」
「ガロウの妹さんかいな。初めまして、ワイは蟇野錯牢やガマって呼んでな」
「あっそ」
「OH...まじかいな。ガン無視された」
黒条冥は人見知りが激しいというか、興味がない。兄であるガロウと仲良くしていれば話は別だが、基本的に他の異性には微塵の興味もない。そのためこれまで男友達など一人もいないのである。そう、星谷世一、ただ一人を除いて!
「そちらのお弁当はどうしたんですか?」
「ああ、これか?キリエに作ってもらったんだ。」
「キリ……エ?」
メイの瞳からハイライトが消える。そしてタイミング悪く席を離れていたキリエが戻ってくる。
「んなっ!?あ、あんた誰よ!」
「初めまして。私、ガロウの妹の黒条冥と言います。以後お見知り置きを」
「あんた、そこ離れなさいよ!ブートマグネ・SⅠ、NⅠ!」
「うおっ!引っ張られた。」
「星谷先輩が引っ張られて……きゃっ!」
キリエの体に星谷は全身で引っ張られ、メイは引き止めようとしたが、磁力に耐えられず星谷が座っていた椅子ごと倒れる。
「イテテテ」
「お、おい!大丈夫か!?」
「私なら何とも……(星谷先輩、私のことを思ってくれてる……///)」
「キリエ、幾ら何でもやり過ぎたちゃうか?」
「あんたはちょっと黙っててくれる?」
「お前らなんでそんなピリピリして……」
キーンコーンカーンコーン!
星谷が言及しようとした時昼放課が終わるチャイムが鳴る。
「もうこんな時間、私はこれで失礼します。じゃーね星谷先輩!」
「お、おう。」
そう言うとメイは教室を扉を開けて出て行った。そして星谷へとかかる磁力の強さが増し、キリエの胸に吸い込まれるように星谷は挟まれる。
「キ、キリエさん……あ、あのー、離してもらえると助かるのですが……ちょっと胸で苦しいと言いますか……」
「あんたは、もっとこの状態でいなさい。」
「あ、はい」
キリエの胸に挟まれ身動きが取れなくなっている星谷を横目にガマを含む諸々の男子や女子はヒソヒソと話す。
廊下に設置されたロッカー前では龍之介、石田、桃太郎が二人を観察していた。
「あれ、できてるのか?」
「龍之介君、できてるとは何のことだい?」
「だから、付き合ってるのか?ってことだよ頭悪りぃな」
「俺は龍之介君よりは成績がいいはずだけど。」
「石田の頭が固えってこと言ってんの。とにかくどう思うよ?」
「うーん、付き合ってるのか?俺にはそんな感じには見えない。どちらかと言ったら……」
「家族、それもガマみたいな兄妹的関係が近いな。」
「桃太郎君、俺もそう思うよ。」
「俺ちゃんが思うに、あっち系の関係だと思うね。女子の胸に挟まれても尚あの表情。あれはもう既に慣れている!そりゃもうズッコンバッコンお盛んだと……」
「アンディー君!下ネタは控えた方がいいと思うよ。苦手な人だっているんだから。」
「ズッコンバッコンで下ネタ断定しているのは、石田もこっち側ってことになるけど?」
「桃山君、痛いところを突いてくるね。」
「お前ら固まって何話しとるんや?」
「蟇野君、今俺たちは星谷君と衛守君が付き合っているのか、そうでないのか話していた。」
「ワイかて、あいつと長く過ごしとるやけん。そんなの分かりきっとるわ。」
「つまり?」
「5限目まであと一分しかあらへんし、簡潔に結論だけいうとな。」
「「ごくり……(固唾を飲む)」」
「キリエの一方的な片思いやけん、付き合っとらん。」
教室の端の方
「羨ましいですわ」
「それどっちに言ってるんですか?」
「双葉さん、キリエさんとあの謎の一年に決まってるでございましょう!?」
「会話のキャッチボールおかしくなってない?それはともかく、授業終わりとかに話しかけてみようか?」
「巴さんは抜け駆けですの?容赦しなくてよ?」
「いや、別に。ただの興味本位だけど?」
「そう言えば新しく入ってきた担任の火野先生って巴ちゃんのお姉さんだったね。それで、キリエさんと火野先生はガマと星谷くんと同棲しててって……巴ちゃんって火野先生と同棲してる?」
「してないわよ。そもそも、姉さんがハンターやってたってのも知らなかったから、それ諸々込み込みで聞いてみようかなって。それだったら妃奈ちゃんもヤキモチ焼かないでしょ?」
「それなら許さないこともなくてよ。姉妹の事情は知っておきたいですもの。それより、気になるのは星谷さんの恋愛感でしてよ!私の口付けを15ヒットさせたのに、あの反応でしてよ!?性別があるのか疑いますわ。」
「回答:性別は男性。」
「キリコちゃんが入ってくるって珍しいわね。」
「当機体は星谷さんとはよく話す方です。皆さんのお役に立てるかと考えたまでです。」
「それで、キリコさん。依頼した通り、彼の肉体にはちゃんと付いていますの?」
「回答:サーモグラフィーで調べた結果、存在は確認できました。」
「勝機はまだありますわ!」
「あんた、純真無垢なキリコちゃんまで使ったの??」
「ただの調査でしてよ?そうよね、キリコさん?」
「当機体としても、彼をじっくりと観察し、情報を収集するのは、やぶさかではない行為でした。」
「(まさか、あんなにも近くにライバルがいただなんて……)」
それも無理のない事であった。星谷世一という男子は普通の男子とは違う。それは分かりきっていることだ。
彼と初めて会ったのは中学一年の頃。兄が中学三年のときのバイト先の同期、それが彼だった。兄もそうだが、その容姿、年齢に見合わない知識の豊富さ、子供ながらにバイト尽くしの彼はまるで機械のような精密さ、冷たさを持った人だったと兄は言っていた。
仕事以外ではあまりコミュニケーションを取ることは少なかったが、ある日を境に徐々にコミュニケーションを取るようになっていった。
兄はその頃の彼を決して幼稚でもなければ機械のような無愛想のような感じでもない、ロボットから人間になりたての純真無垢な子供のようだが、言葉の端々に知性を感じると話した。その頃の彼と話す機会は何度か会ったが、会う度に表情が豊かになる彼に心が惹かれていった。
基本的に兄がバイトを掛け持ちしてギリギリの生活だったから塾に行くお金もないので、家庭教師代わりに勉強を教えてもらったり、弟の竜巳の面倒を見てもらっていた。
不思議な子でありながら、一般教養以上の頭脳を持ち、優しく面倒見が良いながらも、母性をくすぐるような純真無垢な少年のような性格。
モテる要素として抑えるべきところを無意識の内に備え付けた星谷世一という男は、無意識のうちに女をハベらせる。
言うならば、天性の女たらし。
しかも、本人は、恋愛に無頓着、昨日学校中でも噂になっていたが、狩高のミス・ビューティーと言われる松本妃奈からのディープキスで堕ちないどころか「戦闘中だろ?」とド正論をぶつけ、迷惑だとキッパリ言ったとか言ってないとか。
そのせいで今、ミス・ビューティーの陥落やら言われ、松本妃奈は彼をニャンニャン言わせようと堕とすので必死だとか。
石田君は真面目ポジションです。真面目にバカやれるタイプの真面目です。
桃山桃太郎はバトロワでは序盤に佐々木に挑まれて敗北しています。