第18話 絶技というか模技
俺がガロウに言われたところへと走っていくと双葉三久が建物内へ入って行くのが見えた。
「待てオラァ!」
俺は急いで追いかけ建物の中に入る。建物の中に入ると双葉三久は二重を行く者を使用し、二人に分裂する。こうなってしまっては両方を追うのは不可能。二手に分かれたうちの上へと逃げていく片方を追いかける。
「クソッ!待ちやがれ!」
「二重を行く者・過重存在の証明」
「何ィ!?」
双葉三久の身体から薄い靄のようなものが五つそれぞれ別方向に飛び出す
「さらに六人に分裂だと!?」
その形が徐々に双葉三久と同様の形をとり、双葉三久が六人に増える。
「ダメだ!すべて追いきれない!」
数分のチェイスのうちに双葉三久を見失う。
「クッソ……あんなのありかよ!!」
最悪だ。三久を見失ったのもそうだが、ガロウたちの状況は依然不利だろう。何故なら、俺が今頃倒しているはずの双葉三久が生み出した分身含めた五対三の戦いをしているんだからな。仮にあいつらが負けた場合、次に落ちるのは俺で確定だろうし。
息抜きに観覧車を間近で見てみたいと思い、観覧車乗り場があるオアシスステージというところの手前まで歩く。
観覧車付近にたどり着くと人影が見えた。誰かと思い、急いで階段を駆け上り確認すると双葉三久だった。しかも分身を含めた全員がそこにいた。
「ッシャ!見つけたぞ、双葉三久!覚悟しやがれぇ!!」
声を上げるが反応が無い。
「おーい!どうしたー?」
再び声をかけるが反応が無い。階段から一歩踏み出そうとした次の瞬間、双葉三久の分身たちが次々と黒い煙となって霧散し始める。そして、残った一人。本体である双葉三久は力が抜けたように地面に膝を着き、脱力している。
ここにまだ生き残ってるやつがいたのか……?
シャリ……
草鞋のようなものが地面と擦れるような音が聞こえる。俺は右手に持つ機械剣に鎖を付け、音が聞こえた店近くの壁へと投げつけると機械剣が壁へと突き刺さる。
「誰かいるんだろ?」
「ねずみ一匹迷い込んで来たと思っていたが、猫をも引き連れていたか……」
姿を現したのは、黒髪ポニーテールの美男子。その背には刀身がとても長い日本刀を背負っている。容姿を一通り確認すると同時に鎖を引き、機械剣を回収する。
「太刀にしては、また随分と長いもんを背負ってんな、お侍さんよ。」
「拙者を侍と申すか。太刀というのは本来腰に吊り下げるものではあるが、これは些か長すぎるのでな。これでは拙者が侍と名乗るには不格好であろうよ。」
「それじゃあ、知ってると思うが名乗らせてもらおう。俺の名前は星谷世一」
「拙者の名前は佐々木以蔵。普段ならば、軽く談笑でもしたいところではあるが、其方が言うようにここは戦場ときた。ここで鉢合わせたのが運の尽き。その首をここで置いて行ってもらう。」
正直、今ここであの戦場に戻ったところで二重を行く者で作られた分身は消え、戦況はこちら側に傾き、戦闘が終わるだろう頃合い。今度は残った味方サイド同士の戦闘が開始するだろう。バトルロワイヤルはあくまで、生存を重点に置いた試験。ハンターとしての重要な要素の成長を図る機会。つまりは、無理に戦闘参加する必要もない。
「いいぜ、佐々木。お前との勝負、受けて立つ!」
そう宣言した瞬間。
ドカーン!!!
「!?」
幼児用複合遊具の方でバトルロワイヤル開始と同規模、下手したらさらに規模が大きい爆発が起こる。そしてアナウンスが流れる。
Dr.カウザー「残り人数が3人となりました。残っている三人は課題なしだからと言って戦闘を放棄せず、最後の一人になるまで争い続けてください。」
もうそんなに減ってたのか、となるとあの爆発は一体なんだ?
「あと一人いるのか……まあ、お前をぶっ倒して見つけてシバくだけだ。まずは挨拶代わりだ、受け取れやオラァ!」
鎖付き機械剣を佐々木の顔面に向かって投擲する。佐々木はそれを軽々と日本刀で弾く。そうそれでいい。あのクソ長い日本刀のリーチの前で接近することは不可能に近い。そのための投擲。ブラフとなる攻撃を挟んで日本刀の位置をずらし、一気に間合いを詰める!
間合いを詰める星谷に動揺せず、佐々木は平然とした顔で居合の構えを取る。
「模倣剣「居合一閃」」
その一言の後、超高速の居合が俺の首を狙う。俺は咄嗟に首を残った機械剣で受け止めるが、バックステップで距離を離される。
「ほう、よく躱したな。初見の相手でこれを躱されたのは初めてだ。」
「確かに速かったが、避けられないほどでもない。」
「ならば、これはどう受け止める?」
刀身が青白く光る。刀身の周りを白い風が渦を巻き始め、佐々木は刀を振り下ろす。
斬撃が飛ぶ
「模倣剣「飛翔斬」」
飛ぶ斬撃だと!?だが、その攻略法知ってんだよね。
「機械剣……点火ッ!」
機械剣を一度鞘に納め、納刀口の金具に刀身を当てながら高速で居合を抜く。火花が起こる。そして刀身に着火する。その勢いは止まることをせずに空中を舞い、後から斬撃の軌道を描いたかのような炎の弧を描く。
「炎描く居合軌道!」
描かれた炎の弧は飛ぶ斬撃とぶつかり合い、互いに相殺し合った。
「ほう、相殺し合ったか。星谷殿はZONE無しと言っていたが、この戦いで目覚め始めたのかな?」
「言ってろ、俺はまだZONEは発現してない。今のは俺の技術だよ。」
「技術であるか……ならば、模倣はできるか。」
佐々木は妙な独り言を呟く。そして今度は佐々木の方から迫ってくる。
初撃、首狙い。一度受け止めたであろう攻撃。避け切れたであろう攻撃。一度対処できたのなら再度対処できるであろう攻撃。
しかし
「ッ……!?」
首筋に痛みが走る。浅いものではあるが、確かに被弾した。
「拙者の剣の腕、まだまだこんなものではござらん!」
さらに佐々木の猛攻が続く繰り出される剣撃は全て鋭い。防ぐのがやっと、精一杯。元部範行と互角、またはそれ以上の剣の腕。攻撃も、離脱も許さない。さらに、攻撃のチャンスが来ても踏むこむことができない間合いのデカさ。俺が今まで出会ってきたやつらとは一線を画す程の技量の高さ。その結果、階段の中段くらいまで押されてしまっている。
「まだまだ!」
スピードもパワーもこちらが上のはずなのに、何とも言えない違和感がある。数分も撃ち合っているはずなのに、佐々木以蔵、あいつの剣の太刀筋が全く読めなくなっている。
どんなやつでも、長い時間戦っていれば何かしら戦いの中で癖ってもんが見えてくる。例えば最初から首を狙ったり、攻撃前に決まった動きを行う。つまりは、パターンがあるはずなんだ。でも、見えない。ずっと戦ってるはずなのに、こいつからはそれが見切れない。それどころか、常に初見と同じ戦いを強いられているような……
「いや、お見事。その首、六度は落としたと思っていたが、まだ着いていようとは。流石はZONE無しで元部師匠とやり合っただけあるのだな」
「元部さんのこと知っているのか?」
「応さ。元部殿は拙者の師匠でな。拙者が幼い頃から剣の稽古を付けて頂いている」
「なるほど。どうりで似てるわけだ。」
「ところで星谷殿。其方の剣の腕前、どこで鍛えたものだ?」
「生憎、俺には流派らしい流派はないんでな。図書館とか、ネットに転がってる情報を糧に積み上げた。名前をつけるとしたらそうだな……図書館流ってやつさ。」
「つまりは、模倣でそこまで腕を磨いたのか。」
「まあ、お前のその、模倣するZONEに比べたら、俺の動きなんざ大したことないと思うが。」
「気付いていたのか。」
「ああ、初手首狙いの高速居合に飛ぶ斬撃、有名どころの漫画や小説の剣技によく似ていたからな。図書館で読んでた漫画とかが、ここで役に立つとは思わなかったぜ。」
「手の内がバレているのなら、明かして構わんか。拙者のZONE:剣の達人はありとあらゆる剣技を一目見ただけで模倣することができる。能力に頼ったものは模倣できないが、十分強力であろう?」
佐々木は話しながら階段を降り、俺と同じ段に立つ。
「頭上の有利を捨てんのか?」
「ああ、そうでなければ、やりずらいのでな。」
佐々木が構える。異様な空気が流れる。
「模倣剣……」
「この構え……まさかッ!?」
両手の機械剣に全神経を集中させる。あの技はマズい。何度も読む程度には好きな作品の技だったから、覚えている。あの構え、あの動作、既視感しかない。
「「燕返し」」
一本の日本刀から三方向、三つの斬撃が同時に行われる。それは比喩でもなく、妄想でもない。現実に起こった事象。
何をされたのか、それは分かっていた。一度に三回同じタイミングで日本刀の斬撃を食らった。それだけ。それだけと言うには言葉足りないが、それぐらいしか今は考えることができない。
通常の三倍の痛みが体を襲い、HPが尽きる。
「まだ完全な同時とまでは行かないか。拙者のZONEでも模倣には限界がある。いくら技量と言ってもそれがZONEをも超えていれば完全な模倣は不可能か……それに星谷殿はショックで気絶したか。無理もない。そこに座っている奴も連れて行くか」
佐々木以蔵のZONE:剣の達人はあくまで、剣術、剣技を模倣することができる能力のため、星谷が感じていた違和感は佐々木の技量によるものです。