第17話 吠えろオオカミ
今の状況を簡単に説明するなら混沌。これに尽きる。高笑いする松本妃奈を後ろに、二体の龍と石巨人。そして立ち向かうのは、俺、ガマ、ガロウ、キリコ。さながら映画のワンシーンのような状況ではある。こういったシーンはドキドキと絶望を与えてくれるものだが、今の俺には絶望しか与えない。
空中では、龍之介が変身した龍が炎のブレスを吐く。それに呼応するように、二重を行く者によって作られたもう一体の龍もブレスを吐く。あの時の爆発のようなレベルの火ではないにしろ、脅威であるのは変わりなかった。
「弾け飛ぶ衝撃:空気防壁!」
「レッドライザー、消化開始。」
ガマやキリコはそれぞれのZONEを使い、二体の龍を対処していた。ガマは弾け飛ぶ衝撃で押し出した空気で壁を作る。キリコは左腕の変形:レッドライザーによるレーザー放水でブレスと互角に渡り合いながら変形:ブラックダイバーとグリーンターボによる高速移動で距離を詰め、右腕の変形:ブルードリルで攻撃する。
「弾け飛ぶ衝撃:螺旋空気砲!……クッソ効いてへん!これワイいるか?」
「否定:無駄口を叩かないことを推奨します。」
「ありがとな……ぐはっ!?」
ガマは、龍の尾に吹き飛ばされるも空中の留まる。空中戦の機動力は圧倒的に龍之介の方が上。キリコも応戦はしているものの、小回りが効くのはそれでも龍之介であった。ガマは、なるべくキリコのサポートに回るよう心掛けながらも必死に龍之介に食らいつく。
「まだまだぁ!」
ガマは空中を走り、キリコにヘイトが向いている龍まで近づき、拳を捻る。
「弾け飛ぶ衝撃:螺旋二重衝撃!」
龍の長い胴体に二重の衝撃が走る。その強烈な衝撃によりガマヘとヘイトが向き、龍はキリコから視線を逸らす。
「ヘイト管理、感謝します。ターゲット・ロックオン」
キリコは龍之介に向かって接近し攻撃を仕掛ける。
「最終攻撃:ドリルブースト」
ブルードリルを高速回転させ、龍之介へと突撃する。じりじりと龍之介の頑丈な鱗を削っていく。しかし、龍之介は身体を蛇のように動かし受け流して脱出する。
「ちっ……」
「残念」
一方地上はというと、こちらも酷い有様だ。
結論からして石田学人。コイツマジヤバい。ガマから教えてもらった石田学人のZONE:刻む石の巨人は自身の肉体を岩のように固く強化する能力なんだが、このZONEの真骨頂は周囲の石などを取り込むことでの巨大化、つまりはゴーレムになること。凍結した大量の石でできたフロストゴーレム。今のなお燃え続ける溶岩を取り込んだラヴァゴーレム。どちらも耐久力、破壊力共に凄まじい。
「あぶねっ!?」
フロストゴーレムの指から放たれる巨大な雪玉を機械剣二本の柄の先端部分を刃の向きと逆向きで連結させることで双刃剣モードへと切り替え、手を中心にして円のように機械剣を回しながら防ぎ、合間合間に差し込まれるラヴァゴーレムのパンチを避け続け、フロストゴーレムとの間合いを詰める。
「炎燈す双刃の一撃ッ!」
燃える切っ先がフロストゴーレムの身体へと突き刺さるが、ダメージが入っている感じがしない。反撃が来る前にその場を離脱し、ラヴァゴーレムと戦っているガロウと背中合わせになる。
「星谷!付いて来れてるか!?」
「ちょっと厳しいかも!特にラヴァの方!」
「同感だ!」
俺とガロウはゴーレム二体同時に相手をしているが、うまくいっていると言えば言えない。特に、俺の方なんだが、正直なところ火力が足りない。熱的な火力は機械剣で何とかなってるが、ダメージ的な火力不足が否めない。
一方でガロウの方はというと
「餓える猛者の拳!!」
手に黒い炎のような何かを纏いながら、ものすごいラッシュを打ち込んでいる。しかも凄くフロストゴーレムに効いている。拳が出していいような威力ではないが、確かにその拳はフロストゴーレムの体表を削っている。
ラッシュをして無防備となっているガロウにラヴァゴーレムが拳を振り下ろす。
「ガロウ!ラヴァのパンチが来る!」
ドーン!!!
ラヴァのパンチが地面に当たり怒号が響く。ラヴァが拳を引き上げ、当たった箇所を見るがガロウの姿がない。
「ガロウー!」
ペシャンコになってしまったのか?そう思っていると肩に手が置かれる。咄嗟に後ろを振り向くとガロウがそこにいた。
「ガロウ!?さっきまでお前あそこに居たんじゃ?」
「瞬間影移動だ。目視できる範囲で影から影に移動ができる。」
「いくつ技持ってんだ?」
「親がまだ生きてた頃に叩き込まれてな。それよりも、コイツどうやって攻略する?」
「それは、俺も考えてた。まずあのデカさをタイマンでやるのにもキツいってのに、それが二体だ。俺はZONEもまだ発現してないから火力も低い。仮にも、今ZONEが発現したとしても火力増加できるZONEかも期待ができない。」
「だったら、お前には双葉三久の本体を叩いて欲しい。聞いた話だが、双葉三久の二重を行く者は能力者が倒されれば生み出されたドッペルゲンガーは消える。」
「それはわかったが、そのご本人様はどこに行きやがったんですか!」
「おそらく観覧車側の方に向かってるはずだ。」
「何でわかるんだよ」
「匂いでわかる」
「お前のZONEは、オオカミじゃなかったけ?それよりも、俺が行ったらお前一人になるけど、大丈夫なのかよ?」
「うるせぇ!いいからとっとと行きやがれ!」
「応!」
星谷はガロウのいう通り観覧車の方へと走っていく。
「させませんわ!行きなさい、お熱い方の下僕!」
星谷が辿り着くのを阻止しようとラヴァゴーレムが動く。
「させねぇ!影の落とし穴!」
ラヴァゴーレムが自身の生み出した影に足を取られる。
「いいのかしら?わざわざ二対一を引き入れるだなんて、無茶にもほどがありましてよ?」
「松本とか言ってたな、お前は俺がどれだけ強いか噂でしか知らない、箱入り娘のようだな。これを機に思い知らせてやる…………ウォーーーーン!!!!」
戦場にオオカミの咆哮がこだまする。そのプレッシャーはその場にいる全てを畏怖させた。
今、餓えた牙持つ狼が解き放たれる。
咆哮を放つ。それはまるでオオカミのよう。しかし、その姿はオオカミと呼ぶには余りにも大きい。体長約3m、体高約1.5mの巨大な黒い毛並みのオオカミがそこいる。
「ガルルルル」
唸り声を上げて巨人を睨みつける。そのプレッシャーに三倍近い大きさの二体の巨人は後退りする。
「何を怯んでおりますの!迎え討ちなさい!」
身体の一瞬を支配した恐怖は、松本からの命令が下ったことにより打ち消され、ラヴァゴーレムが指の先からオオカミに向かって溶岩弾を打つ。
煮え滾る溶岩が球体状にまとめられ、それをコンクリートで覆った溶岩弾は地面に当たると、内部から爆発するように溶岩とそれを覆っていたコンクリートを手榴弾のように撒き散らす
当たる直前、オオカミは影の中に姿を消す。
「ど、どこに行きましたの??」
周囲を見渡すがオオカミの姿はどこにも見当たらない。フロストゴーレムは逃げたと仮定し、龍之介の援護に回ろうとした次の瞬間。影からオオカミが飛び出し、左足を噛む。噛まれた足を軸に回転させられラヴァゴーレムへと放り投げられる。
「無茶苦茶やな……」
この数分の間で二体のゴーレムがダウンし、残るは空中に残る二体の龍だけとなった。
「下は片付いたようです。」