第15話 弾いて、引かれて、吹き飛んで
木々に囲まれた大きなアスレチックがあるエリア。アスレチックエリア。ここで二人が対峙することになった。互いによく知る間柄、共に長い時間を過ごした仲。血は繋がっていなくとも、二人の関係はまるで本当の双子の兄妹のよう。
ここに至るまでの道中、何回も喧嘩した。勝負は五分五分、互いに手は知り尽くしている。
だからこそ、本気になる。
ガマは革手袋を着け、拾い上げた無数の小石持つ。キリエは太ももに巻くように十本のナイフを備え付け、左腕には籠手のようなものを着けている。
「ほな始めるか…義兄姉喧嘩をなぁ!弾け飛ぶ衝撃:散弾空気銃ッ!」
小石を空中へと投げ、体の正面に来た辺りでガマは空気を殴る。弾け飛ぶ衝撃によって押し出された空気が小石たちをさらに押し出し野球選手が投げるボールのような速度でキリエへと一斉掃射される。
「グラントマグネ・SⅡ」
そう告げるとキリエは左手に砂鉄が集まり、籠手をまるで盾のような形状へと増設した。
キリエのZONEのことはよう分かっとる。あいつのZONE:魅かれ合う二極は、右手で触れたものにN極、左手で触れたものにS極の性質を付与することができる操作系ZONE。付与した磁力は自由にオンオフの切り替えと解除やし、そしてその効果を一部か全体かを選択することができる。例えば右手で相手の腹に触れてN極を付与した時にその触れた箇所だけか、相手全体にN極の性質を付与するか選択できる。
強力なZONEやが、弱点はある。それは磁力付与の回数制限。一度に付与できる数は両極合わせて10回まで。さらに、磁力の強さは自由に選択できるが、磁力を強力にすればするほど負担が大きくなる。
そして今、ワイはキリエに引っ張られとらん。つまり、オフの状態。接近しても支障は出えへん!
「どこに行った…?」
「弾け飛ぶ衝撃…」
「盾の真下!?」
ガマは盾となった籠手の死角を利用してキリエへと接近し
「二重衝撃!」
籠手に対して右ストレートを打ち込む。打ち込まれた拳は盾を籠手諸共破壊し、弾け飛ぶ衝撃による吹き飛ばしを真正面から受けたキリエは、ガマとの距離を大きく離される。
「二年生の時より強くなってない?」
「そうや、星谷はんに触発されてもうてな。アイツ見てると負けてられへん!と思うねん」
「ふーん。それが今の強さの秘訣?」
「せやけど?」
「だったら、こっちも負けてられないわね。」
弾け飛ぶ衝撃によって吹き飛ばされたキリエは胸に手を置き、深呼吸を行った後、陸上のクラウチングスタートのような姿勢を取り、地に手を付ける。
「グラントマグネ・NⅡ」
そして
「ブートマグネ・NⅠ」
一瞬、砂埃が舞う。ガマの隣を凄まじい速度の何かが通り過ぎる。
「…ぐはっ!?」
ガマの腹に打撃による鈍い痛みが走る。
「何やこれ…何が起こったんや…!?」
「何って反発よ。磁石は同じ極同士を近づけることで起きる反発。私にNⅠ、地面にNⅡを付与して私のNⅠをストップマグネでオフにして地面との反発力が一番大きくなるタイミングでブートマグネでオンにすることで、一時的な加速ができるってわけ。」
「そんなことできるようになっとったんか…」
「今回ばかりは負けたくないし。私も、アイツに触発されてムキになって練習しただけだし…」
「ワイの理由とは全然違ったな。ただの星谷へのカッコつけかいな。」
「えっ…ちょ…はぁ!?私があいつを?ばばばばば馬ッ鹿じゃないの???」
「その反応からして図星やんけ。」
「分かった殺す。完膚なきまで叩きのめす。」
「せやったら、やってみぃや!」
キリエはナイフを三本取り出し
「グラントマグネ・NⅢ、Ⅳ、Ⅴ、ブートマグネ・SⅠ」
「まさか…ワイの真似を!?」
「それ以上よ。ブートマグネNⅠナイフ一斉射出!」
三本のナイフがガマへと向かう。ガマはノックバックで空中へと回避を行うが、ナイフは軌道を変えながらガマへと迫る。
「まさか、こいつら自動追尾か!」
「そうよ、磁力の引かれ合う力。今のあんたはS極、ナイフは反対にN極。ナイフはあんたのことを永遠に追いかけるわよ!」
「せやったら、撃ち落とすまでや!弾け飛ぶ衝撃:空気砲!」
スッ
「クソが!」
押し出された空気がナイフへと当たるが、空気抵抗の少ないナイフではその影響を受けずにガマへと突き進む。
アカン!このままやとナイフで串刺し、ゲームオーバーや。どないすればええ?ただ空気を押し出しても意味があらへん…やってみるか?まで成功もしとらんが、ぶっつけ本番やってみるか!
「弾け飛ぶ衝撃:螺旋空気砲!」
ガマは空気を殴る。だが、それは今までのような直線的な殴り方とは違った。ガマは殴る直前に拳を捻った。弾け飛ぶ衝撃によって押し出された空気はその捻じれを引き継ぎながら反時計回りに渦を作る。作られた渦はナイフを取り込むとナイフは互いに反発し合いながらも、渦の中でぶつかり合い、ナイフはまるでミキサーに入れた野菜のように形を保てなくなり、粉々となる。
「どうやら、勝利の女神はんは、ワイの方に向いとるみたいや。行くでぇ!キリエ!」
空中から地面に着地すると同時に拳を捻りながら弾け飛ぶ衝撃を発動し地面を蹴る。弾け飛ぶ衝撃により加速した一撃。
「弾け飛ぶ衝撃:螺旋二重衝撃!!」
ガマが出せる最高火力がキリエへと迫る。
しかし
「拳が…届かへんやと!?」
ガマの拳はキリエの身体を直前として、何か大きな力に押し返される。それにより、攻撃先を失った弾け飛ぶ衝撃は発動せず、キリエに攻撃は通らない。
「これは…反発か!?」
「さっきのがあったから理解が早かったわね。そう、今の私はS極。正確に言えば、グラントマグネ・SⅢで自分の極をNからS極に上書きしたの。今、私とあんたの間には磁力の反発による絶対不可侵が成立してるの」
「その言い方やと、ワイもお前もお互いに攻撃はと届かへんちゅうことにならんか?」
「流石に種明かしをすれば理解は早いか。そうよ今の私たちは互いに直接の攻撃はできない。でも、互いに吹き飛ばしはできるわよ?」
「反発作用を利用したタイマン勝負か、ええでやったるわ!せいぜいすぐに倒れんよう気張るんやな!」
「吠え面をかかせてあげるわよ」
その後、弾け飛ぶ衝撃を持つガマが優勢で勝負は進み、キリエは敗北した。
ちなみに、不可侵の技を使った時点で、キリエは負けを認めていたんです。