第125話 強化はだいたい弱体化
身体同士が引き寄せられるように歪み、幾数のスカイラン・スクワールがまるで粘土のように重なり、押しつぶされ溶けるように一つの個体へと収束されていく。骨格が軋む音、肉が擦れる感触、毛並みが絡まり合う不快な光景。そしてその場に残ったのは、全身が筋肉質で盛り上がった毛並みと肉体を持つ巨大なスカイラン・スクワールの姿だった。
『スカイラン・スクワールの統合を確認。』
「石田のゴーレム状態と同等のデカさ。こりゃ、骨が折れるぞ。いや、骨を叩き割る勢いでやつに攻撃しねえと通用しないかもな……」
そう独り言を言った直後、巨体が一歩踏み出す。その踏み出し一歩で地面は抉れ、衝撃波と共に巨大な砂埃が舞う。AIが即座にブースターを点火させ、巨体との距離を離そうとするが、巨体はそれよりも先に一瞬で俺との間合いを詰め、長い爪で切り裂こうと俺の下腹部へと腕を伸ばす。
「ちぃッ!」
俺は咄嗟に機械剣の凹凸部分で爪を受け止めるが、その長い爪先がイェーガーの装甲を切り裂いて俺の体を翳めて血を流させていた。ブースターの出力をさらに上げて確実に距離を取る。
『被弾確認。出血量微量。統合後スカイラン・スクワールの速度、時速200キロを確認。』
「200キロ!?どうりで速いわけだ。それに、イェーガーの装甲を軽々と切り裂きやがった。」
『イェーガーの装甲は、速度重視の軽量化によってゼロよりも脆い。』
「そうだったのか。なら、今回の戦闘で防御側に回るのは不得手だな。」
あの被弾するだろう箇所のスカイラン・スクワールの統合を解除して回避する戦法をされると厄介だ。使ってこないことを祈るしかないが、あの巨体でそれを行ったら全体のバランスが崩れて転倒するリスクがある。それが理解できない脳みそはしてないはずだ……試してみるか。
「こっちからも一発叩き込んで様子を見てみるぞ。時速は200キロで頼む。」
『了解した。』
ブースターが点火し、俺は巨体へと近づいて行く。そして、もう一度体を捻り尻尾でやつの右拗ね辺りを攻撃する。
「食らえオラァ!!」
異様な感触。確かに一発やつに撃ち込んだ。ダメージが入っているんだろうが、まるで手ごたえが無い。受けたダメージを全個体に分散させて流し、実質的なダメージを半分以下にでも押さえてんのか?その証拠に野郎笑ってやがる。何かしたか?と言うように嘲笑うかのように俺のことを見ていやがる!
「こいつならどうだ!」
機械剣とマンティスガントレットを接続し、蟷螂モードへと切り替えやつの体をブースターを使って駆け回り、電気を流した機械剣で斬り付ける。だが、それでもやつは何も食らってはいないように平然と蚊でも追い払うように反撃して俺にダメージを与えてくる。
『新顔イェーガーのブースター内部に貯蔵されている燃料が底を突き始めている。一度、ゼロへの換装を推奨する。』
俺は攻撃を避けつつ、その言葉に耳を傾ける。
「まじか!?もうそんな時間経ってるのか!?」
イェーガーの燃料切れ問題。だいたい一時間ぐらいで燃料が切れると説明書に書いてあったが、運動場の時も合わせればそれくらい既に経っていたのか……
「ゼロに換装したとして、次にイェーガーを着装できるのはいつぐらいになる?」
『交換に時間はかからない。だが、現在ゼロのスペアは十着ほどあるが、イェーガーのスペアは三着しかない。それもデータのを読み取り、改修作業を終えた状態ではない。このサバイバルフォレスト中にスペアが増えることは無い。』
「つまり、回数制限があるってことか。ってことはこれ以上のイェーガーの使用は……」
『私に考えがある。そのためにもまずはゼロに換装して攻撃を行う。』
「何言ってやがる!今だって攻撃が通じないってのに!イェーガーの性能がなきゃやつは簡単に俺に追いついて」
『機動力という点において、確かにイェーガーは鎧亜アーマーの中では最速だ。だが、この樹海のような入り組んだ場所において、その速度は十全に発揮することはできない。簡単に言えば小回りにおいては最悪だ。そして、それはあの巨体も同じだ。全体的なスペックが上昇する一方、この樹海を飛び跳ねて走るには大きすぎる。君でも十分に対処できるはずだ。』
「……わかった。アーマーシステムコール:ゼロ。着装!」
『ビルドアップ。地形データは読み取っている。私がナビゲートする。君は後退を行いながらビームライフルで満遍なくやつの体を攻撃してほしい。』
「満遍なく?一箇所に重点的にとかじゃなく?」
『理由は後で説明する。今は指示に従ってほしい。』
言われるまま、樹々の間を縫うように後退する。AIが言うように統合後のスカイラン・スクワールは、デカい図体のせいか思うように動けないのか、滑空もせずに陸上選手ばりのフォームで地上を走る始末。スカイラン・スクワールの風上にも置けないような状態だ。お前の名前今からランニング・スクワールに改名しろ。
それにさっきまでと違うのは、スカイラン・スクワールだけじゃない。何故が体が軽い。ゼロに換装したからかとも思ったが違う。俺の脚力が明らかに良くなっている。尻尾の影響か?いや、今は考察する余裕はない。後退しながら銃口を向け、引き金を引き連射し続ける。
レーザーライフルの赤い光弾が、巨体の腕、胴、脚、背中へと散発的に突き刺さる。高温で自身の肉が焼けるのは殴打よりも痛いのか、やつは痛がる素振りを見せるが、致命傷には程遠い。だが、やつは確実に苛立っている。
連射をし続けて数分戦ったその時だった。
レーザーの一本が、たまたま巨体の脇腹、肋骨の下あたりを掠めた。
「……ん?」
直後、毛並みの隙間から、何かが三つほど吐き出されるように飛び出す。地面に転がったそれらは、焼け焦げた焼死体。原形こそとどめているが、これはスカイラン・スクワール三体分の焼死体だった。
「今の……中から出てきた?」
視線を戻す。さっき撃ち抜いた箇所。そこだけ、周囲と明らかに違っていた。毛並みが艶やかで、泥も血も絡んでおらず整っている。
俺が唖然としていると。艶のあった毛並みが、曇った。代わりに、別の場所。今度は肩口の奥が、同じように不自然な艶を帯びる。
「あれ!?見間違いか?」
『新顔。君は見間違いなどしていない。あそこが本体群れのリーダーのいる場所だ。群れのリーダーが箇所のみ毛並みの質感が他とは違う。そこを重点的に狙えば、徐々にあの巨体を構成する個体数は減少し、リーダーだけ残る。』
「なるほど、質感の違うとこを見極めて攻撃すればいいんだな!」
俺は早速、肩口へと銃口を向けて発砲する。だが、そこに当たる寸前に毛並みの色が変化した。
「うっそだろ!?まさか、攻撃を見てから場所を移動させたのか!?」
俺はやつの周りの木々に飛び移りながらレザーライフルを発射して牽制しながら弱点個所が現れるのを待ち、弱点個所を視認するや否やそこへと攻撃を仕掛けるが、最初の一回以降、弱点個所に命中して焼死体が出てきたのは二回だけだった。
『あの移り変わりの速度は今の新顔の攻撃よりも早い速度で行われている。やみくもに攻撃しても、命中する可能性は極めて低いぞ。』
「今の俺じゃ対処できないならどうすりゃいいんだよ。」
『君がやみくもに攻撃している間、移り変わるパターンと時間を計測した。結果、こちらが時速300キロで移動しながら弱点個所を追い、攻撃を行えばいい。』
「時速300キロ!?おいおい、イェーガーの性能じゃ小回りが効かないんじゃなかったのか?」
『確かに今の君の操縦技術では不可能だ。だが、私のサポートと君の尻尾による姿勢制御を駆使すれば実現できる可能性は極めて高い。』
「つまり、お前を信じろってことか。」
『その通りだ。』
「……アーマーシステムコール:イェーガー!着装!さあ、上げてくぞイェーガー!」
本来ならもっと恐ろしく惨たらしい感じで360度から一斉に獲物に飛びかかって肉を引き千切ってムシャムシャするような戦法するのに、ZONEなんか待たせちゃったが故にこんな戦い方するように学習しちゃったんですよねえ……




