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第11話 入学、そしてまた濃いメンツ

 桜が歩道を彩り、そこかしこで学校に登校する学生らが賑わっている。そう、まさに青春が始まるその瞬間を今か今かと待ち続けている男が一人いる。すなわち、俺である。


「目凄く輝いとるな、そんなに楽しみなんか?」


「そりゃそうだって!今まで見たり、読んだりしかしてない青春が今まさに始まるんだぞ!?俺にとっては一大イベントだぜ!」


「あんた、訓練しに来たんじゃないの?」


「それはそれ、これはこれってやつだよ。」


 ガマたちと歩道を浮かれ歩いていると道路側から物凄い突風が吹き荒れる。そして、何かが通った後のような赤い残像が道に数秒だけ残って消えていった。


「今のは何だ!?まるで赤い彗星みたいな…」


 目を丸くし驚いている一方、ガマたちは呆れたように言った。


「まーたアイツかいな」


「本当いい迷惑」


「あいつって?」


城ケ崎迅(じょうがさきじん)。狩人南高校の三年生、不良グループ「ブラックアウト」のNo.1。つまりは南高で一番強いやつや。入学と同時に南高のトップを歴代で最速の速度で落とした史上最速の男とも言われとるな。」


「不良グループってこの学校にもあるのか?」


「この狩高にはあらへんな。」


 よかったー!初日から絡まれたら碌なこと起きそうだったから、これで一安心…


 安堵に息を吐くと同時に、それを叩き落とすようにキリエが口を開く。


「いるじゃない、とっておきの戦闘狂が。」


「そうやったな、狩高にはガロウがおったな。」


「ガ…ロウ…?」


黒条牙狼(こくじょうがろう)。この狩高の戦闘狂、一匹オオカミで授業もこうへんのにイベントがある時は高得点を叩き出して留年回避しとる。」


「イベント?」


「学年行事とか、ハンターとの実践訓練とか」


「マジの戦闘狂じゃないですか」


「それに新入生なんて来たら、それこそ格好のエサでしょうね。それも同学年で編入生が来たと知ったら真っ先に…」


「あれ?これ狙われるパターンじゃ?」


「察しがいいじゃない。」


「今日一日気を付けるんやな」


「おいおい!助けてくれねえのか!?」


「「だって、めんどくさいし」」


「お二人さん、人の心とか無いんか?」


「まあまあ、そんなことより狩高着いたで。」


 話すことに夢中で気付かなかったが、既に正門前まで着いていた。三年生のくせして新入生のような心持ちのせいか、下見で来た時より緊張する。


「おはようございます」


 聞き馴染みある声が耳元に届き、声の発する方に目を向けると晶校長先生が正門前に立ち、生徒たちに挨拶を交わしていた。こういう時は先手必勝!


「「おはよ…」」


「おはようございます!!」


「いい挨拶ですね、星谷君。挨拶とは学生の基本、これからも心掛けてくださいね。」


「はい!」


 昇降口前に張り出された掲示板でクラスを確認する。名前が多すぎて自分の名前がどこにあるのかすぐに分からずアタフタしていると


「どうや?見つかったか?」


「えーっと…ちょ待ってて…」


 クラスをくまなく探すと3-A組の欄に自分の名前が書いてあることに気付いた。


「あった!3-A組!」


「マジか!お前も3-A組か!!」


 再び急いで3-A組の欄を確認すると、キリエとガマの名前が書いてあった。そして思いがけなかったというか、嫌な予感はしていたというか、的中していたというか、ガロウの名前もそこに書いてあった。


「オーマイグーネス!?!?」


 俺の初めての高校生活が一気に晴天から台風の暴風圏内へと突っ込んだ。


「あまりのショックで石みたいになっとる!?」


「ボケッとしてないで、さっさと行くよ。」


 教室へ行こうとすると颯爽と現れた火野に呼び止められた。


「星谷、ちょっと来てくれるか?」


「んあ?どったの?」


「編入生は投稿初日は朝のホームルームまで別室で待機するってことになっててな。」


「つまり、言い忘れていたと」


「そういうことだ」


「せんせー、そうのは早く言っておいてくださいよー」


「それじゃあ、ガマ、キリエまたホームルームでな」


「「担任が火野さんというトンデモネタバレされた!?」」






 時間は8時45分、火野に先導されながら教室へと移動する。火野が先に教室に入り、チャイムが鳴ると同時にホームルームが開始される。


「起立、気を付け、礼」


 生徒たちが一斉に席を立つ音が廊下まで響く。


「着席」


 着席が完了し、火野が話し始める。


「私は今日から担任を務めさせてもらう。火野魔利亜(ひのまりあ)だ。一年間よろしく。」


 教室中がざわざわとし始める。主に廊下から三から一番目の席に座る人物に注目が集まる。そこに座る赤色の天パのミディアムヘアの女子は火野巴(ひのともえ)。担任である火野先生と苗字が同じであり、ざわめきの原因は彼女自身、姉がハンターであることを隠していたからである。


 そして、このざわめきという火に油を注ぐように火野は新たな話題を出す。


「そしてうちのクラスに今日から編入生が来る。入ってきな」






 火野からの合図に緊張がマックスになる。俺は深呼吸をして教室の引き戸を開けて中へと入る。そこで目にした光景は俺にとってはメルヘンと呼べるような光景だった。


 体の周りに雲のようなものを浮かべた女に、霧のように体が溶けている男。物干し竿のように長い日本刀を机の横に立てかけているポニーテールの男、そいつと楽しそうに話をしている忍者というかクノイチのような仮面を身に着けた女。ロボットっぽい女子、馬に人間の胴体をつけたようなケンタウロス。


 もう訳が分からない。ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコめばいいのか分からない。


 とりあえず、火野の隣に立ち指示を仰ぐ


「自己紹介を頼む」


「はい!」


 ぎこちない足取りで教卓の隣に立ち、黒板に慣れないチョークで名前を書く、自分から見た時ちょっと形が変に見えたが気にしない。もう一度深く深呼吸をした後、少し笑顔を作り話し出す。


「今日からこの学校に編入生しました。星谷世一(ほしやよいち)です。ZONEは未だにありませんが、クラスのみんなには負けないよう、精一杯頑張らせていただきます。一年間よろしくお願いします!!!」


 少しの沈黙が教室を包み、一抹の不安が押し寄せる


 やっぱり、ZONE持ちじゃないのがダメだったか?ハンターである以上ZONE持ちであるのは必要十分条件、三年生で転校ではなく編入という点もこの沈黙に拍車をかけているのか?俺じゃ、このクラスに馴染めないのか…


 しかし、この沈黙を取り払うように火野が話す。


「確かにこいつはZONEは持ってないが、狩人育成機構の取締役と戦えるほどには強いからな。ZONE持ってないからって除け者とかにしないように。」


 その言葉を聞いたガマ、キリエを除くクラス一同の目が丸くなり


「「えーー!?!?」」


 驚きの声がクラスの中を駆け回る。


 ガマは「まあ、そういう反応になるわな」といった反応をし、キリエは呆れた表情をしていた。火野に空いてる席へと座るように言われ、ホームルームが再び始まった。課題回収や連絡事項を済ませホームルームが終わり、1限の授業前になると、俺は俺の座席周囲に座っているクラスメイトのみんなに囲まれていた。


「疑問:どのような方法で、このクラスに編入をしたのですか?」


 真っ先に質問を投げかけたのは、隣の席に座る如何にもロボットのような、水色の縦ロールでツインテール女子?だった。


「えーっと、まだ来たばっかで名前とか分からないから、教えてもらうと助かるんだけど。」


「了解:当気体の個体名は高橋機凛子(たかはしきりこ)。ご友人からはキリコと呼ばれています。高橋、キリコ、あなたが呼びやすい呼び方でお呼びください。」


「キリコでいいか?」


「承諾:重ねて再び疑問:どのような方法で、このクラスに編入をしたのですか?」


「自然界でクリーチャー倒したり、元部範行(もとべのりゆき)っていう七区の狩人育成機構の取締役と五分間一対一(サシ)で十発貰わずに勝利、新型クリーチャーの発見とかか?」


 自分でもまとめてみたが、やっぱり、ZONE無しの功績じゃないよな。図書館で読んだなろう系という小説群の主人公に似ていると思う。ORETUEEEE!!!!!!!みたいな無双とは程遠いが、自分でもよくやっている方だと思う。


「考察:それは星谷さんの乱数が良かっただけでは?」


「お?中々にエビデンスが足らない考察だな。元部さんにも同じこと言われたが、俺はそれを実力で証明したが?」


 キリコとの話し合いがいつの間にか謎の煽り合いになった頃、もう一人、俺に質問を投げかける声がした。煽り合いをしていたからか、質問の内容までは聞き取ることができず耳に入らなかったが、とりあえず、声のした俺の席から左斜め後ろの方向を確認すると、そこには馬がいた。


「ヒヒン!私は、あの有名な中国の三国志時代に名高い武将・呂布奉先であ…」


「否定:あなたは呂布ではなく、馬場戦(ばばいくさ)ではありませんか。提案:あなたは呂布よりも赤兎馬の方がお似合いだと、当機体は考えますが。」


 キレッキレの鋭すぎるツッコミに噴き出すのを堪えつつ、再び行われる自己紹介を聞く。


「先ほどは失敬。では、改めて自己紹介を。私の名前は馬場戦(ばばいくさ)。好きなことは、草原を駆け回る事とニンジンを食すこと。以後お見知りおきを。ヒヒーン!!」


 無駄なイケメンボイスと紳士的な態度の後に繰り出される自己紹介の最後に放った強烈な馬顔の歯茎丸出しスマイルが間違いなく俺の笑い袋を鷲掴みにした。笑うのを失礼かと思ったが、アレはこっちを笑わせに来ている、そういったタチだ。このクラスのネタ枠が今決まったような気もする。笑いながら再度質問の内容を確認する。


「ヒヒン。そちらの武器なのですが」


 そう言って机の横に掛けてある機械剣(アダプター)を指さす。


「見たところ双剣だと思うのですが、一体どのような性能をしているのですか?星谷殿の戦績を支えているとなると、相当な業物だと思っているのですが……」


「これか?こいつは機械剣(アダプター)って言ってな、簡単に言えばマルチウェポンって感じかな。それにこれ、本多さんに作ってもらってからまだ一回しか実戦で使ってないんだよな。だから、俺自身の熟練度が足りてないんだよな……」


「本多とは……もしや、あの鍛冶屋本多の作品ですか?」


「そうだけど」


「ヒヒーン!?」


 その後、集会を行い、課題テストをしてから家に帰ることになった。キリコや馬場といった面白いやつらとも話すことができて、個人的には満足が行く一日だった。


「どうやった?初めての学校は?」


「たのしかったです」


「一気にIQが下がるやん。でも、楽しかったならええ事や。それに、今日はガロウおらんかったな。一体どこを食い漁ってんのか知らんけど、よかったな星谷はん。」


「それにしても実践テストって何やるんだ?明日体操服持ってこいって」


「近くの総グラでも使うんかいな?」


「だったら武器持ち込み可ってなんだよ。あそこ一応は運動公園だろ?あんな一般人がいる中で武器振り回したら危ないだろ」


「まだ総グラって決まった訳じゃないでしょ。それに武器を使うなら模擬戦闘もありえるわよ。」


「それってもしや…」


「アイツが来るやろうなあ」


「俺、食べられちゃうのかな?」


「「たぶん」」


「いやだー!!!」

席の配置はこのようになっております。

1 6 11 16 21 25

2 7 12 17 22 26

3 8 13 18 23 24

4 9 14 19 24 28

5 10 15 20

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― 新着の感想 ―
細かな設定に、感情移入してしまいました。さすがです。
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