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ZONE無しでもハンターになれますか?→可もなく不可もなし!~地球曰ク<生命ハ、奇妙デ、新シイ、進化ヲスルモノ>ラシイ~  作者: 葉分
サバイバルフォレスト

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第105話 甘い匂いには毒がある

 ゴリパン黒石のパンチで左腕以外の上半身に着装していた鎧亜アーマーが全壊か。あの馬鹿火力がこれ以上いないことを願うしかないな。ここにどれだけの南高生徒が派遣されているかわからないが、あの監獄真面目と破道獄堂を捕まえない限り、青旗入手とここからの脱出は見込めない。ガマは帰ってこないしで、俺は屋上をただ目指して廊下を歩く。


 そして、廊下を歩いていると、何やら甘く良い匂いがする。ケーキなどの砂糖じみた甘い匂いではなく、まるで花と蜂蜜のような心地いい匂いが香っている。気もなんだか緩まって、気分がぽあぽあと浮かぶような感覚に襲われる。ガマが言っていた、南高の匂い使い。いるとしたら、あの閉まり切った教室の中……このまま吸い続けるのは良くない、むしろマズい。ならば、一気に距離を詰めて、一瞬で片をつける。


「一人、被検体が来たようだね。」


 教室の中、そこにいたのは黒いガスマスクを付けた黄色ロングヘアーの女子がいた。何とも珍妙な見た目だが、ガマの情報通りだ。俺は機械剣(アダプター)を引き抜いて、切っ先を向ける。


「被検体?俺のこと言ってんなら、お前は科学者かなんかか?」


「まあ、そうだ。私の名前は屋薬香里(やぐすりかおり)。私は実戦で扱うガスを研究したいがために南高に入ったからな。今は城ヶ崎君のために日々研究に励んでいる。」


「なるほど、お前もブラックアウトってわけか。南高狩人科にはブラックアウトしかいねえのか?」


「私は後天的にブラックアウトに入った人間だ。創立当時からいるわけではないが、彼に対する思いは彼らとは然程変わらない。」


 創立メンバーとか後天的に入ったやつとかいるのか、ブラックアウトはただの暴走族と認識してたが、一枚岩じゃなさそうだな。こいつ自身、戦闘能力は低そうだし放置でも構わないが、倒しておいたほうが都合はいいだろうな。


「おっと、戦闘行為なんかしようとするのなら、今すぐに君を気絶させてあげてもいいんだよ?」


「そりゃどういうこ、と……だ……?」


「匂っていいよね。良い匂いはリラックスできたり、食欲をそそったりできて日常が彩られる。そうは思わないか?」


「な、に言って……」


 ダメだ……思考がまとまらない。頭がクラクラする……


「知っているかい?家庭用などの市販されているガスのほとんどにはガス漏れに気づけるように匂いがつけられている。天然物には匂いはついていないから、そこで気づかず火花を散らそうものなら大爆発だ。私のガスも同じように基本的に匂いがついている。良い匂いだが、今この部屋に充満されているガスにはリラックス効果に加えて睡眠剤と同じ成分が含まれている。」


「だからか……意識がぼんやりするのは」


「そう、君がこの階層に足を踏み入れるその瞬間から、君の体内に私のガスは流れ込んでいたのさ。その腕の武器や剣を使おうとするなよ。それで火花が少しでも散ればこの教室ごと建物は崩壊する。」


 屋薬は、フラフラとなって倒れた俺に近づくとしゃがんで、俺の顔を覗き込む。


「いい表情(かお)だあ。自らの意思とは真逆に動く体に苛立ちながらも穏やかな寝顔に歪んでいくのすごくいい。ずっと眺めていたいねえ。美しい花には棘があると言うが、私で言えば甘い匂いには毒があるだな。」


「なるほど、俺すでに……敵の術中にハマってたってわけか……」


「おや、意外と耐えるね。いい実験結果が取れそうだ。限界まで試してみたいな……そうだ、君の気になることがあれば答えてあげよう。脳に刺激を与えることで、人は眠気を和らげることができる。」


 このままじゃ、まずい……ようやく痛みが引いてきたってのに……痛み、痛みか……


「なら、ブラックアウトについてだ……お前が後天的に入ったとか言ってたが、研究者脳のお前が、城ヶ崎が率いるブラックアウトに入るとするのなら……それほどまで強い印象を受けたってことだ……違うか?」


「思考力はまだ落ちてないか、なら答えてあげよう。簡単な話、あの組織の生い立ちと目標(ゴール)に心打たれた。」


「組織の生い立ち……?」


「そうだとも、あの組織は人情に溢れている。そして城ヶ崎と蒼樹の二人に惹かれて集まった組織だけあるよ。まあ、当の本人二人は、彼らがどんな気持ちでいるのか理解はすれど眼中には無い。レーサーとピットクルーの関係というより、スポンサー……いや脳を焼かれたファンとの距離感に近い。言うなれば、今のブラックアウトは一種のファングループだよ。」


「解せねえな。現状俺が持ち合わせる城ヶ崎の印象から、そこまで魅力は感じねえ。復讐に生きるとかほざいていたが、あんなやつがハンターになれるような資格なんてない。」


「そう言えば、君は城ヶ崎君と交戦して引き分けまで持ち込んだらしいね。彼はそうベラベラと喋るような性格じゃないから、復讐の詳細まで言っていなかったんだろう。組織としてのブラックアウトの生い立ちの一つが、その復讐の手助けだ。私個人としては、城ヶ崎君の「人間界、自然界すべてをぶち壊して、新たな世界を作る。」これほどまでに心躍るような目標(ゴール)は聞いたことが無いのもあって、ブラックアウトに入った。」


 そこから約30分ほど、問答は続く。外からは地響きのようなものが聞こえては来るものの、誰の音かはわからない。それに話すのも飽きて、鬱憤が貯まり始める。


「はぁ……頭EDENかよ……」


「何だが馬鹿にされたような気がするが、そんなにも負けを早めたいのかい?私は今、君のことを私の実験の非検体として扱っている。私の立場は、君より上なのだ。それが理解できないほど、思考力が無いわけではないのだろう?それとも、睡魔に抗えなくなって限界に近づいたのかな?」


「いいや、理解できてねえのはそっちだぜ……!」


 俺は一気に飛び起きて近くにいた屋薬の首を掴む。


「うっ……馬鹿な!?こんなに長時間ガスを吸ってるはずなのに、どうして君の体は動けるんだ!?」


「念入りに麻酔の効果も上乗せしておけば、俺は動けなかった。科学者気取りのやつは大抵すぐに決着をつけたがらないって今までの感が訴えてきた。それに、火花が散って爆発してダメージを食らうぐらいなら、電気は切っておこうと最初から思っていた。おかげで、激痛に耐えながら演技をする羽目になったがなあ!」


「黒石との戦闘で受けたか傷が、こんな形で足を引っ張るとは……だが、不利なのは君とてまだ同じ……私のZONE:香る気体の黙示録(アロマ・アポカリプス)は、体の穴という穴からガスを発生させることができる。喉は塞がれど、毛穴まではケアできないだろう!睡眠、麻酔配合……噴射!」


「それはまずい……!」


 俺は口元や鼻を右腕で多い隠し、屋薬から距離を取る。


「いい反応速度だ。だが、これで君は至近距離で麻酔入りのガスを浴びた。仮に全て吸引できなくとも、少量の麻酔で君の体の動きは鈍くなる。それに私との距離を離したのは正解であり不正解だ。」


 そう言って屋薬は両腕を大きく使って手を叩くような動作をすると、凄まじい勢いでガスが手を合わせた直線状に発射され、俺の体が教室の壁に叩きつけられる。


 うっ……衝撃波か、今のはガマの弾け飛ぶ衝撃(ノックバック)と同じ。ガスを勢いよく押し出して俺を吹き飛ばしたのか。ガマとは違い、このガスにもおそらく麻酔効果が乗ってるはず……体が慣れてきているとはいえ、これ以上の摂取は毒か。ここは一旦引くしか……


 その場から立ち去ろうと動こうとした瞬間だった。外の窓が一気に割れたかと思うと、巨大な氷の槍が窓から飛び出て、教室の天井を貫通し、屋上まで続く穴をこじ開ける。そして、その氷の槍に乗って、教室に一人は行って来るものがいた。


「星谷君、大丈夫!?」


「ええーー!?!?冰鞠!?」

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― 新着の感想 ―
冰鞠…が…駆けつけて…くる?なんかデジャ(( 毛穴のケアって言うとなんか…別の意味にしか聞こえない(デリカシー×) 30分痛みに耐えるまじか…足の小指ぶつけて悶絶する俺が馬鹿みたいじゃないか…
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