第1話 七区の少年は夢を語る
眼前には広大な自然が広がっている。ここは自然界と人間界の境界線。俺はその境に立って、黄色い瞳で自然界を覗き込んだ。
黒髪に少し青みがかったウルフヘア。長く伸ばした襟足をゴムでまとめ、頭には青いハチマキを巻いている。服は多少ボロいが、それが逆に俺のワイルドさを引き立てていた。
今、俺が立っている場所は人間界で一般人がギリギリ入ることができるラインの真上だ。自然界というのはおっかない場所ってのは理解はしている。一般人が入ったら良くて生存できるのは1日と言われるほどの危険地帯というか、立入禁止区域になっている。
数年前から、こそこそと削ってようやく穴が空いた外の世界への入り口。ここを超えれば立派な犯罪者だが気にする事はない。探究心に身を任せて、ほんの数十メートルの梯子を降りていくだけだ。今回はそれだけでいい。
死ぬのは真っ平ごめん、試験の前の視察と資金集め。それだけだ。
バイト代で稼いだ金で買った、1日分ほどの水と食料を入れたカバンと一本の槍を背負って梯子を降りて樹海へと足を踏み入れた。元は市街地であったであろう建築物たちが自然に覆われている、いや飲み込まれていると言った方が正しい。樹海から上を見上げてみたが、七区がとてつもなく遠く見えた。
「ここが、樹海。まるで迷路だなこりゃあ。一度迷ったら確かに抜け出せそうにもない。数十分したら家に帰ろう。」
そう決めて、樹海と化した市街地を探索し始めた。梯子から少し離れた場所に、草木に覆われた二階建ての民家を見つけた。それを目標に定める。
扉まで根がガッチリ張った民家だ。まだ根が伸びきっていないところを見ると、ここは誰も漁っていない可能性が高い。七区のすぐ近くでこんな場所があるなんて、ラッキーだ。
ツタを掴んで2階のベランダまで登り、槍の矛先で窓ガラスを割ると、簡単に中に入れた。部屋の中は緑が茂っているが、4Kテレビや漫画らしきものが並ぶ本棚、テレビの下にはレトロなゲーム機が置かれている。元住民の持ち物はほとんどそのまま残っていた。
「うっひよー!まるで宝の山だなこりゃ!」
今じゃ貴重なコミック漫画は状態が良く、プレミア付きの持ち運べるレトロゲーム機まで揃っている。売れば本来の目的にプラスして、1ヶ月は楽に生活できるだろう。
目を輝かせて、袋を取り出し、慎重にそれらのお宝を詰めていると。ドンッ!と近くで音がした。身体に緊張が走り、思わず息を呑む。
まさか、こんなとこにいるのか!?いくら自然界といっても、ここは七区の近く。こんなとこで湧くはずがない!
恐る恐る、入ってきた苔まみれの割れた窓から外を覗く。すると、そこには湧くはずのないヤツがいた。自然界で生まれた動植物が一定の確率で突然変異を起こして生まれる超自然的存在、その名をクリーチャー。
そして、クリーチャーの視線がこちらに向く。次の瞬間、ヤツは俺がいる民家へと突進してきた。
「まずい!気付かれた!?」
思わず声に出てしまった。これで確実にいるとバレてしまった。急いでここから脱出しないと!
ベランダから飛び出して、全速力で急いで来た道を戻ろうと樹海の中を走る。
苔で覆われたような緑と茶の体表に、下顎の犬歯が発達して異様に肥大化し、半月型に曲がった二本の牙。その見た目から図鑑で見たおそらくイノシシがクリーチャー化したものだろう。このまま目的地に真っ直ぐ走っても、到底クリーチャー化したイノシシの速度を振り切れるわけがない。そう考えて市街地の中を回るようにやつとの距離を離そうと走り続ける。
見ず知らずの市街地の中、到底地形の把握が出来ているわけでもなく、ついに行き止まりを引いてしまった。目の前には高い塀がそびえ立っている。乗り越えるのは……不可能か。このままだと死ぬのを待つだけ。もし、少しでも生存できれば、救援が来るかもしれない。
そんな甘い考えをしながら、槍を構えて睨みつける。やつはそんな俺を見て弱者と気付いたのか猛突進を仕掛けてくる。
初めてのクリーチャーとの戦闘。槍で応戦しようと動きを注意深く観察しするも、見切れるはずがなく、突進を食らって壁へと叩き付けられた。衝撃で口から胃液があふれ、息が詰まる。
まるでバトル漫画のやられ役だ。そんな死にそうな自分に笑いが込み上げる。
「ははっ……ここで死ぬのかな、俺?」
せめて自分のZONEくらいは知りたかったな。壁に打ち付けられた俺にトドメを刺そうと近づいてくる。意識が薄れていく中、なぜかそんなくだらないことを考えちまう。
その時だった。
目の前に突然火柱が立ち上がり、クリーチャーを焼き払った。熱と衝撃が辺りを包み、次の瞬間、顔に水のようなものがぶっかけられる。
意識が戻り始めると、ほのかな麦茶のような香りが鼻をとおる。そして、ぼんやりと女性の声が聞こえてきた。
「おっ、目が開いてきたな。そこの坊主、お前、ハンターって感じもしないな。どこの区の出身だ?」
「……」
「答えは……沈黙か。詳しいことは後だ。今はクリーチャーをぶっ倒すから、そこでじっとしてな。」
うすい褐色肌で金茶髪、身長は大体185cm。へそ出しの赤色のショート丈トップスにダメージジーンズ。その上から両肩と両足に黒色の甲冑のようなものが付いており、包帯でぐるぐる巻きにした大剣を片手持ちでこちらに背を向けるその女性は、辛うじて生きながらえていたクリーチャーの突進を軽々と受け止めて、その巨体を大剣で真っ二つに切り裂いた。
「ははは、すげぇや……」
感動だった。初めて見た狩りにこんな状態の癖してワクワクしていた。
「坊主、立てるか?」
俺は立って女性の方を見る、すると。
バチンッ!
市街地にビンタの音が響く。それに続けて女性が怒鳴り声を上げた。
「お前!馬鹿なのか!?ハンターの資格も無しで自然界に降りてきやがって、私がいなかったら、死んでたんだぞ!とにかく、お前を今から区に戻す。親の名前と住所は?」
心配とか責任感から来るものであろうことがヒシヒシと伝わってくる。高校ニ、三年生くらいのガキである俺の将来を思ってビンタと説教をしてくれたのだろう。
「親なんかいねぇよ。家もねぇ。」
「もしかして、捨て子か?こんな時代だってのに……自分の名前はわかるのか?」
「……星谷世一」
「なるほど。じゃあ星谷、お前はなんでこんな事したんだ?」
「資格が欲しいんだよ。だから、自然界で良さげな骨董品を掻っ捌いて、試験の糧にしようとした。」
「資格っていうと、ハンター試験か?」
「そうだよ。ハンターになって金稼いで、アンタみたいなカッコいいハンターになりてぇんだ!」
「なんでハンターを選んだ?他の職業でもいいと思うが。」
「俺みたいなヤツは、社会に出たところで昇進なんかできやしねぇ。変に気遣いされても気持ち悪くなるだけだ。でも、ハンターは違う!クリーチャーから区を守って、自然界の恐怖から人間界を守る英雄だ。そこに必要なのは純粋な力。強いヤツがその名を名乗れる!」
俺は、意気揚々と話すが、女性はそれを止めるように言う。
「だが、そんなハンターはごく僅か。私のような無名ハンターがゴロゴロいる。お前もそんな無名に、落ちこぼれになりたいのか?」
俺は、その制止を跳ね除けて言う。
「いいや、俺は力ある名を名乗れるハンターになりたい!!だから、アンタみたいなカッコいいハンターの下で修行させてくれ!」
女性は、頭を抱え少し考えた後に俺に話しかけてきた。
「どうせ、私が放っといても。またお前は同じ事して死ぬだけだからな。いいだろう。星谷、今日からお前を私の弟子にする。それと、私の名前はそうだな、オルキスと呼んでくれ。」
「えっ!いいのか!?よっしゃー!!!ありがとう!オルキス!!!」
「ただし、私が許可するまで一人で自然界に入ることは許さない。お前の姿を見て真似する馬鹿が増えるといけないんでな。とりあえずは、私の家に行くからついて来い。」
Q.主人公の見た目イメージってどんな感じ?
A.イメージとしてはパズドラキャラのランペイドとFateシリーズのクーフーリンを足して割った感じだと思ってくだされば…
あと誤字報告とか好きなだけしてください。スマホ入力で書いたやつは誤入力が多いので助かる