EX6 ライナー・ジャネットの源泉
ローちゃんこと、ローズさんの正史です。
学園には1000人近い生徒と教員や職員などたくさんの人がいる。だがほとんどは校舎や訓練場などで過ごしているため、学園内を散策しているときは意外と人に会わない。
「そうではなく、皆さまは乗合馬車などを利用しているんですよ、お嬢様。」
呆れてついてくるラグ曰く、放課後に目的もなく校内をふらふらと歩いている物好きは私ぐらいで、多くの生徒は授業が行われる学び舎と寮を往復している馬車を利用しているか、個人所有の馬車を使っているという。
「もったいないじゃない、こんなにきれいな場所なんだよ、自分の足で歩いて、においを感じないと。」
ソルベと違って王都には自然が少ない。だからこそだろうか、学園の限られた自然も感じたいと思うのは、少しだけホームシックにかかっているのかもしれない。
【 〇 まだ寄り道をする。 ゲストハウスに戻る。】
と歩いているうちに私はきれいな温室を見つけた。
丁寧に管理されているであろう透き通ったガラスの建物と周囲を囲っている色とりどりの植物たち。ちらっと見ただけでもかなり珍しいものだ。
「アロエに、ハトムギ。こっちの花はシャクヤクかしら。」
「お嬢様、中にはレモンにオレンジもありますよ。」
それなりに大きなスペースには所狭しと様々な植物が育てられていた。すごいのは目に入ったものが美容に良いとされるものばかりということだ。ここの持ち主はそれなりにセンスがある。
「これかなり質がいいですよ、できたら幾つか譲っていただきたいです。」
気づけばラグは真剣な眼差しで一つ一つの植物を検分し始めていた。相変わらず仕事熱心である。
「ラグ、勝手に採っちゃだめだからね。」
「わかっています、それよりもお嬢様、くれぐれも拾い食いなどしないでくださいよ。」
「ちょっ、それは6歳の時の話でしょ。」
気になった木の実を食べてお腹を壊した、そんな昔のことを掘り返さないでもらいたい。
「あらーーん、これまた美人さんが来てくれるなんて、うれしいわー。」
「ふえ。」
不意撃ち気味に声をかけれ、私は猫のようにその場で飛び上がってしまった。
「あらあら、驚かせてごめんなさい。あんまりにも熱心に見てくれるから声をかけるタイミングを忘れてしまったのよー。」
声かけてきた相手は謝罪するが、反省よりもからかいの様子が強い。ただそれ以上にインパクトのある人だった。
「す、すみません。あまりに素敵だったので。」
「うれしいわ。外の植物は地味なのが多いからわからない子には雑草にしか見えないみたいなのよ。」
中世的な低めの声、植物の世話をしていたのかやや土に汚れた上下のつなぎを着ているが、姿勢がいいのでかなりかっこいい。
ただその顔は恐ろしく整っていた。きっちりと形を整えられた眉毛に目元には薄いピンクのアイシャドウ、口には真っ赤なルージュが塗られ、長い髪は作業の邪魔にならない程度の大きさの花柄のヘヤピンが止められていた。こんなにもきれいな男性というのは初めて会った。
「こちらの管理はあなたが?」
「そうよー、個人的な趣味と研究も兼ねているの。」
ただ黙っているのも失礼なので私は興味を優先させることにした。ソルベの城にもこれほど見事な温室はきっとない。この機会を逃すなんてとんでもないのだ。
「すごいですね、ハーブもそうですが、あの植物、気温の管理がとても難しいと聞きます。それにこの薬草は、日が当たり過ぎると薬効が消えてしまうのに、」
「あらー、うれしいわー、地味な植物ばかりだからなかなかわかってもらえないのよ。この子、やけどにもいいけど、化粧品にもなるのよ。」
「そうなんですか、我が家では肉の臭み消しに使っていますよ。」
「そうなの、料理に使う発想はなかった。」
私の突飛な反応にその人の口調が少し大人しくなったが私は気にしなかった。
「そうです、私の住んでいるソルベでは、塩が貴重です。だから薬草やハーブなどを使って様々な味付けが模索されているんです。例えば、このベリーを使ったソースなんかも美味しんですよ。」
我ながら食事に関してはうるさいほうだと思う。王都はそういう意味だと塩味主体でシンプルなものが多いので、なつかしい。
「よかったら持って行くかい?ちょうど熟しているよ。」
そんな思いに気づいたのか、男子生徒はそのきれいな顔をクスクスと歪ませながら手早くベリーを収穫して、籠にいれてくれた。
「いいんですか、ありがとうございます。」
「ミサ様、おもちいたします。」
「だーめ、私がもらったんだから、私がもつの。」
ラグには申し訳ないけれど久しぶりに感じる新鮮なベリーの香りを渡したくなかった。
「ああ、そうだ、私、ミサ・ソルベと言います。今年から入った新入生です。こっちはラグ・ソルベ。弟もともどもよろしくお願いします。」
「へえ。姉弟なんだ、仲良しなんだね。」
「そうなんです。まあ、最近はちょっと反抗期みたいなんですけど。」
なぜだろうか、この人とは自然に話せる気がした。
殿下のように威圧的でもなければ、マリアンヌ様のようにネチネチと嫌味を言うわけでもない。きっといい人なんだろう。
「ああ、そうだ、僕はライナー・ジャネット。三年生だ。」
「そうなんですか、じゃあ、ジャネット先輩。ベリーありがとうございます。」
作業の邪魔をするのも悪いと思い、私はその場を後にしようと立ち上がった。ラグもなにやら興味がありそうな顔をしていたけど、私についてくる。
「あっ、僕のことは、ライナーでいいよ。ジャネットは他にもいるからね。それに植物に詳しい君なら、いつでも歓迎だ。」
ひらひらと手を振りながらライナー先輩は私たちを見送った。
「ふふ、今日はベリーソースのお肉とチーズケーキかしら。」
「いいですね、チーズもお肉もストックがあったはずです。」
久しぶりの故郷の味に、ラグもどこかうれしそうで、目を細めてこちらを見ていた。
「余るようなら、ライナー先輩にもおすそ分けしましょう。お口にあうといいのだけれど。」
「この量だと、食べきってしまうと思いますよ。」
慌てたようにラグがベリーを見る。大丈夫、ラグとマリーと私の3人分でも充分に余ると思う。
その後、ライナー先輩が、あの有名なジャネット商会の後継ぎであると知らされて驚いたのはまた後の話。
今回の改変ポイント
ライナー・ジャネット
植物と美容の研究をしているお姉系でミサとの出会いにより植物への興味とミサに異性として見てもらいたくなる。
⇒ ミサの「可愛い」発言により、コンプレックスを払拭、美容とオネエが加速する。
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