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1 ミサちゃん 4歳 ぼくとうをねだる。

お転婆幼女に振り回されるメイドさんです。

 ソルベ辺境伯家、建国当初から王国北部の守り手を担う伝統ある名家であり、建国以来、何人もその領土を踏みにじることを許さなかった武門の家である。

 現当主であるベガ・ソルベは、開祖の血を引く直系であり、代々受け継がれる武勇の才と民と家族を愛する徳を持っている由緒ある貴族であり、武人と称され、王の覚えもめでたい。その実、奥方としてめとったのは、現王の妹妃であり女性でありながら文武両道と名高いローズ妃であり、美男美女であり圧倒的な武勇を誇る夫婦は、貴族たちからは羨望と嫉妬を、国民からは人気を、領民からは尊敬と忠誠をもって慕われている。代々の発展を超え、ベガ侯爵の代、ソルベ領は更なる発展を迎え、王都すら凌ぐではないかとも言われている。

 っと、そんな順風満帆なソルベ領であるが、ここ数年は更に賑やかであった。


「お嬢様、お嬢様、どこですか?」

 侯爵の居城であるソルベ城、その中庭、春を告げる花々と木々によって見る人の心を和ませるその場所で、一人のメイドが声を上げて慌てていた。城勤めの給仕服にあるまじき駆け足、よく見れば葉っぱやら泥などまでついているほどである。メイドはそれなりに見目の整った少女であったが、だがそれ以上に何かに怯えるように青ざめる顔のほうが目立つ。というか気の毒になるくらいだ。

「マリー、こっちだよー。」

 対してあまりに能天気で幼い声にメイドが顔を向ければ、今度こそ悲鳴があがった。

「お嬢様、なんでそんなところに!!」

 慌てて駆け寄ったのは庭に植えてある一つの木だった、春先らしく若い芽や若い枝が生え、これからの季節を感じさせるそれなりに風情を感じる木のはずが、メイドにはそんな余裕はなかった。

 なぜなら

「へへ、のぼれたのー。」

 彼女にとって主でもあり宝でものあるお嬢様がその木によじ登って、メイドに手を振っていたからであある。

「ああ、いけません手を離さないで、すぐに参りますから。」

 木の高さ事態は、2メートルもない、ただ4歳の幼子が落ちたらどうなるかわかったものではない。まして、万が一けがでもしたら、メイドは立場的にも精神的にもただではすまないだろう。おそらくメイドの人生でも1位が2位を争う俊敏さを発揮してメイドは、木に駆け寄る。

「わあ、マリ―はやーいー。」

 だが、それは悪手だった。興奮したお嬢様こと、ミサは両手を話、自分が木の枝という不安定な場所にいたことを忘れてしまっていたのだ。

「あっ。」

 つるりと滑る。登ることで体力をそれなりに使っていた4歳の身体はあっさりと重力に向かう。

「おっと。」

 ことはなく、横から駆け込んできた大きな男によって抱き留められる。

「あっとうさま。」

「ああ、父様だよ、このやんちゃさんめ。」

 そのままミサを片手で高い高いとあやす男、ミサの父であり、メイドの主でもあるベガ・ソルベその人である。

「旦那様、何をなさっているのですか。」

「えっ?」

 だが、メイドはそこにひるむこともなく、ずかずかと駆け寄り父親からミサを奪い取る。

「いくら力があるといっても、幼い子を片手で持ち上げるなんて何を考えているんですか、万が一落ちたり、首などを痛められたらどうするおつもりですか?」

「あっすまん。」

 ちなみにベガは一児の父であり、それなりの大人であり、メイドはまだ十代の少女である。

「すまんじゃありません、いいですか、お嬢様は旦那様と違ってまだ4歳、繊細なのです。そこらの盗賊や魔物と同じように扱われては困ります。」

「あっ、ええっとさすがにそんな風には。」

「加減がないなら、同じです、抱くときは必ず両手で、重心などを意識してです。」

 だが、この光景を見て、それを理解できる人は少ないだろう。マリーと呼ばれたメイドはそっとミサをおろし、その髪についている葉っぱなどを取りながら、ベガを再びにらむ。

「いいですか、旦那様。お嬢様はあなた様達、そしてこのソルベ領すべての民にとっての宝なのです。そこをもう少し理解してくださいまし。」

「ああ、、悪かった、気を付ける、いや改めるから。」

 使用人に対して、まるで叱られた子供のような対応をしながら、ベガはしゅんとなる。まあ、相手の貴賤を問わず意見を聞ける器の広さともいえるが、マリ―はこのような対応になっているという点において、今までの子育ての遍歴を疑うべきだろう。

「この件は奥様にもご報告いたしますからね。」

「それは、勘弁してくれ、ほら、今回はなんともなかったし。って、ミサ逃げるんじゃありません。」

 説教にうなだれつつもベガは素早く動き、こっそりその場から逃げようとしていたミサをそっとつかまえる。今度は無論両手で、わきの下に手を入れて高い高いをするようにだ。

「わーーー、たかーーい。」

「はは、そうだろう。父様はすごいんだぞ。」

 キャッキャッとはしゃぐ親子を前に、マリ―はそっとため息をつく。本来なら不敬を問われそうなものだが、奔放な親子に振り回されている周囲の視線はマリーに対して同情的であった。

「しかし、ミサ、なんで木に登っていたんだ。登り方云々に関しては今更驚かないかが、」

 しばしの戯れのあと、ベガは我が子に尋ねた。さすがにそれが危ないことだとは教える気があったのだ。

「うんとね、えだがいいかんじだったの。」

 満面の笑みで答えて、ミサは自分を登っていた木を指さした。

「「いい感じ?」」

 幼女の言葉の意味を図りかねてメイドと父親はそろって首をかしげる。

「うん、いいかんじ。」

 そういって手を伸ばすミサの意図に気づき、ベガはそっと木に近寄る。そしてミカは目を輝かせながらほどほどに伸びた木の枝をぎゅっとつかむ。

「いいかんじ、いいかんじ!」

「ああ、なるほど。」

 いまだに意味を理解しかねていたマリーに対して、ベガは娘の手と枝の感じを見比べてそれを理解した。

「なるほど、ミサの手のサイズに対してちょうどいい太さだ。これなら振り回しそう。」

「危ないですよ!!」

 子ども特有の長物へのあこがれ。それに気づいたらさすがにマリーも口を挟まずにはいられなかった。

「だがな、たしかに、ミサの手にあっているぞ、これ。」

 子供の戯れ、そういってしまえばそこまでだが、武人であるベガからすると、身の丈にあった武具というのは理解できる。そこにやや親ばかな要素も加味され、娘の言動の意図を理解したのだ。

「これくらいのサイズなら、ミサでも持てるかもしれん・・・。」

 だが、そこは父親である、まして初めての娘である。

「とうさま、とうさま、ミサ、これでぼくとうがほしい。」

 その先の言葉にはさすがに苦々しい顔を浮かべてしまうのだった。




 

 


 

4歳ぐらいの子って、体重と能力のバランスがいいから、予想外のところに行くんですよねー(白目)

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