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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
王太子編

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18/195

15 ミサ8歳 王太子に誓いを立てられる。

 やっとこさ、お互いの自己紹介

「この馬鹿娘――――。」

 目に見えないほど速く、反撃の意志を抱くこともかなわない拳骨が私の頭に堕ちる。

「いたああああ。」

 頭を抱えてゴロゴロと転がるが、それを見つめるラグや父様の目は冷たい。うん、わかっているよ、やりすぎました。

 ライオネル殿下から売られた喧嘩を買ったうえで、相手の心を折らんばかりの蛮行。父様が中庭に現れたのはそれがちょうど終わったタイミングだった。そして、その直後に私は地面に転がっている。

 さすが父様だ、陛下や王太子なんかよりもずっと速い。まだまだ修行が足りない。

「だ、大丈夫ですか殿下。」

 だが、弟よ。ここで姉よりも初対面のライオネル殿下の心配をするのはどうなんだろう。私のほうが確実にダメージが大きいよ。

「申し訳ありません、陛下、処分はいかようにも。」

「構わんって、子ども同士のじゃれあいだ。むしろ魔法まで使って遅れをとった愚息がわるい。」

 父様は父様で、鷹揚にうなづく国王陛下に頭を下げていた。だれか、少しは私の心配もして。

「お嬢様、お洋服が汚れますので、そのくらいにしてください。」

「マリーも冷たい。」

 私の味方はいないらしい、すねちゃうぞ、もう。

「まあ、そのあたりにしてやってくれ、ベガ、事の起こりから顛末まで見守っていた我々にも責任はある。なにより、次代の実力の高さを喜ぶべき場面だと思うぞ。」

 とりあえず不敬罪が問われることはなさそうだと思って私は居住まいを正す。

「これは国王陛下、寛大なご配慮ありがとうございます。改めまして、ベガ・ソルベが娘、ミサ・ソルベであります。」

 そう言ってカーテシーを決めると陛下は満足げにうなづき、父様も空気が柔らかくなった。

「ふふ、俺の正体を見抜き、愚息の正体も分かっていながら、あえて実力を確認する。ソルベの子というのは実に実践的だ。」

「恐縮です、最近はお転婆がすぎて親の私も手を焼いてます。」

「子の教育に手を焼いているのは私もだ。少々高くなった愚息の鼻を小気味よくへし折ってもらって私は感謝しているぞ。」

 なにやら物騒な会話をしながら陛下は、ライオネル殿下に近づきその襟首をつかんで立たせる。

「ライオネル、わかっただろう、己の矮小さを。」

 見下ろす視線は向けられていない私ですら身震いするほど冷たいものだった。

「ち、父上、申し訳ありません。」

「謝る相手が違うぞ、見ていれば女子に向かって高慢に挑みかかり、あげく魔法を使ってまで圧倒される。己が弱さを恥じ入る前に、礼儀知らずに剣をふるったことをまずは謝罪なさい。」

 たしかに、ライオネル殿下が一方的に絡んできたんだよねー、やっぱり私悪くないよね。

「お前の場合はやりすぎだからな、ミサ。」

「姉さんの実験台にするのはあんまりだと思うよ。」

「お嬢様はもっと慎みをですね。」

 だめだ、やっぱり味方がいない。

「くっ、ミサ嬢、突然の礼儀の欠いた言動、ここに謝罪する、許せ。」

「ええ、私のほうこそ、良き訓練となりました、ライオネル殿下の剣技、大変勉強になりました。」

 とりあえず、この場は互いに挨拶をするべきだろう。殿下は謝罪、私はお礼を。謝罪をした場合、殿下のメンツを潰すことにならないので、謝るのは心の中だけだ。

「父より、ソルベの人間は別格の強さと聞いていたが、同じ年ごろの相手にあそこまで追い込まれたのは初めてだ。世間は狭いな。」

「いえいえ、殿下の向上心と剣技は素晴らしかったです。同じ動きが通じず、冷や汗をかきました。」

「っち、むかつく女だ。」

 失礼な人だな、殿下。私ほど真剣に剣をふるう子どもはいないと思うよ。

「ふふふ、それでいい。己よりも強い相手も従える。それもまた王に求められる資質だぞ、愚息よ。そして、ミサよ、その強さを支えるこれまでの鍛錬大儀である。」

 陛下の言葉で一連のやり取りは一区切りとなった。まあ誰かが納めないと区切りがないからなーこういうの。

「姉さん、もうちょっと。」

「どうしたの、ラグ、そういえば木刀は返してもらえた?」

 何やらおどおどしているラグだが、安心してほしい。陛下はともかく殿下は私よりも弱いけど、今回の件を根に持つようなタイプじゃない。男らしくないしね。

「そうだったな、ラグといったか、木刀感謝だ。」

 ほら今も素直に木刀を返してくれる。一度、剣を交わらせれば相手のことはよくわかるのだ。

「だがな、ミサ嬢。」

 ラグに木刀に返し、まだ少しふらつく足元に力を入れてライオネル殿下は私をビシッと指をさした。

「今日は負けだ、お前は俺よりも強い。」

 そして右腕で胸をたたく。この国で兵士が誓いをたてるときのポーズ。

「お前は俺が倒す、どんな手を使ってもだ。それが王道、最強となってこの国を引き継ぐのだ。」

 だがでてきたのは、とんでもない言葉だ。私なんぞにはもったいない言葉だ。

 失礼ながら、ライオネル殿下は頭が残念なようだ。

「そうですか。」

 でも、ライオネル殿下には、殿下なりに思いがあるのだろう。私の強くなりたいという思いに近いなにかが。

「わかりました。」 

 だからこそ、私もまた、右腕で胸をたたく。

「そのことごとくを叩き潰して差し上げますわ。」

 きっとこの人と訓練するのは楽しいだろう。なにより負けるなんてことを私、ミサ・ソルベも許せないのだ。

 仕えるべき主君との出会い。それは実に私の心を踊らさせる、敵意バリバリなものだった。

 ライオネル殿下も男の子なので、女子に負けっぱなしではいられない。でもミサのほうが圧倒的に強いことができるくらい冷静な部分もある。どっちもノウキンな思考なことは共通している。

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