12 ミサ 8歳 王家を語る。
世界観をざっくりと説明する回となります。
王国の最大権力は4つ存在する。
一つは東のファムアット家、海上交通を主とする侯爵家で、東の海で闊歩する海賊や海魔から国を守る武門と商才で繁栄を誇る海の貴族。
一つは中央のロムレス家 中央の祭りごとから流通、王都の治安維持などを一手に引き受ける公爵家であり、貴族たちの長。
一つは、北のソルベ家、山脈を超えて国を侵す他国や魔物をせん滅し、国防を一手に引き受ける伯爵家にして辺境伯。
貴族としての階級は領土や家の規模によって便宜上区分けされているが、国の礎を担うという点において、これら3家の立場は平等であり、その関係は良好である。というのは建前で、ファムアットとロムレスが基本的に領地に引きこもっている。
ゆえに最後の一つ。この3家を統括し、その上に君臨するのが、クラウン家、つまり王族である。
「王家と、この3家は開国に関る一族の末裔でその結束も高く、誇りあれ。」
ラグに言い聞かせるようにざっと王家とそこに関る3家の説明をしながら、私は庭を歩く。
「王太子というのは、そのクラウン家の王子さまってこと?」
「そうね、私も勉強でしか聞いたことはないのだけれど。」
ソルベの娘として私も地理や歴史などについても勉強している。ラグはまだ本格的な勉強はしていない。そのため私から簡単に説明をする必要があるのだ。
「王子さまってのはよくわからないけど、なんでまた王子様がここに来るの?ソルベは田舎、辺境なんでしょ。」
ラグの疑問はもっともなものだ。
「うん、これは父様の話なんだけど、王家は友好と信頼の証として、定期的にそれぞれの家を外遊しているんですって。ただ私が生まれてここまでは、お互い忙しくて時間が取れなかったんですって。そして、ラグ、アナタにもわかりやすくいえば、お母さまは現王の妹、つまり私たちにとっては叔父にあたる人なよ。」
「えっ、ほんと。」
うん、ラグにはもっとソルベのことを教えるべきかもしれない。でも訓練を怠るのもなあ。
「ね、姉さん。もっと詳しく聞きたいなあ。教えて。」
「あら、ラグが興味を持つなんて珍しいわね。」
訓練も大事だけど、姉として弟の疑問に答えることも大事だ。
「ベガ・ソルベ、私たちの父様は、王様と幼馴染で学園でご一緒だったのよ。その縁があって妹である母様と知り合ったんだって。」
「なるほど、それで。」
「まあ、そんなに簡単なことじゃないわ。ソルベは辺境だし、王妹である母様が降家するとなるといろいろあったらしいわ。」
そのあたりは詳しく教えてもらったことはないけど、母様はきれいなので、いろんな人からモテモテだったのだろう。数あるライバルを黙らせて父様が娶ったということらしい。
「ラグも聞いたことはあるんじゃない。魔狼の大量発生や王都での魔物の違法取引の殲滅戦とかは割と有名な話よ。そのあたりでぐうの音もでないほど実力を示したって自慢してたわ。」
「ああ、父ちゃん、ボスピンから聞いたことがあります。」
「父ちゃんでいいわよ、」
思わず漏れた父ちゃんという言葉に私は微笑む。ラグの本当の父親、ボスピンは、兵士長の一人として父様の信を得ていた優秀な強い人だった。
「うん、父ちゃんが昔、何度も聞かせてくれました。王都が滅ぶんじゃないかって大量の魔物を相手に真っ先に飛び込んでいったべ、父様が切り込み、その背中を守っていたのが母様だったと。なんでもその姿にほれ込んで、父ちゃんはソルベの家に仕えることになったって。」
「そうなんだ。ボスピンに認められたなんて、当時から父様たちって強かったのね。」
ボスピンとの思いでは、ラグと私にとっても大事なものだ。時折寂しそうな顔をするけど、最近になってうれしそうに話してくれるのがうれしい。
「まあ、その時に先陣を切ったのが父様たち、そしてそれを後方から指揮して、王都を守り切ったのが王様なのよ。だから、代々のつながり以上に、父様たちは王家の人たちを慕っているのよ。」
「そうなんだ。なんというか想像がむずかしい。」
それは私も同感だ、聞けば視界を埋め尽くすほどの大量の魔物が迫ってくる。スタンピードと言われるその現象を私たちは見たことがない。
「その話は、かなり盛られているな。魔狼は10頭程度の群れだし、違法取引のときは、魔物よりも不埒ものほうが多かった。」
唐突に声かけられて、私たちは思わず飛び上がって距離をとる。驚いて動くことしかできなかったラグをかばうように立ち木刀を抜刀する。
「おお、とっさに距離をとり、弟をかばうか。さすがだな。」
感心したように手をたたく相手は、立派な身なりの大人だった。ゆったりとした質のよい上着に高級そうな腕輪と装飾品、なのに足元だけは山歩き用の頑丈そうな靴と足当てがついている。使い込まれているそれをみればかなり動ける人がいることがわかる。
この人、強い。うん、声を掛けられるまで、私たちが気づかないなんて、母様ぐらいだ。つまり母様と
「あっ、もしかして。」
帽子の隙間から漏れる金髪の輝き、そして母様と同じ色の瞳。でも、この格好って。
「そうだな、ソルベの姫よ。今はまだ名乗っていないので不敬にはならん。だが可愛い姪っ子に剣を向けけられるのは心臓に悪いので下げてくれるとうれしい。」
私は慌てて剣を戻して、膝をつく。
「失礼いたしました。」
「えっ姉さん。」
ラグは非常に驚いた様子だったが、私の視線に何も言わずにそれにならう。
「許す、8歳にして、その動きと思慮深さ、大儀である。」
そういって陛下は、にやりと笑った。なるほどこれがクラウン家の長にしてこの国の王。
「お初にお目にかかります。叔父様。このミサ・ソルベ自分の未熟を恥じ入るとともに、話に聞く、叔父様の強さに感銘いたしました。」
立ち上がり、カーテシーを決める。
「ふふふ、叔父として歓迎するか、うれしいぞ、ミサ。生まれてばかりのころに会って以来だが立派に育っているようで何よりだ。」
楽しそうに笑う叔父様に、私もつられて笑う。なるほど父様の言っていた通りなんというか奔放な人だ。
「そちらの子はラグか。」
「はい、ボスピンの息子にして、今はソルベの子であり、私の自慢の弟です。」
視線を向られてフリーズしているラグの代わりに私が答える。
「そうか、ボスピンの訃報を聞いたときは嘆いたものだが、こうして受け継がれようとしているのだな。どちらも親の良きところを受け継いでいようだ。」
満足げにうなづき叔父様は背を向ける。
「ふふふ、挨拶は改めてな。ミサ、ラグ、またあとでゆっくりと話そう。」
言って指をパチンと鳴らす。
「はっ?」
そして音に気を取られた次の瞬間には叔父様は消えていた。
「姉さん、今のって。」
「そうね、母様から聞いたとおりの腕前ね。この目で見て寒気がしたわ。」
そりゃ、王太子が来るなら、王様が来ることもあるよね。
「ラグ、今私たちはだれにも会っていない。いいわね。」
「えっどういうこと。」
うん、ラグには難しい話だろう。ただ、あんなお忍びのような恰好で、お供の連れずにこの場に、ソルベの城内に現れたんだ。きっと意味がある。目的がある。ならば必要以上に言いふらしていいことじゃない。よくわからないけど。
「とりあえず、母様たちに報告よ。」
わからないことは大人に任せる。うん、そうしよう。
「姉さん、正直な話、ちょっと怖くなってきたんだけど。」
「うん、私もそう思うわ。でも大丈夫。」
未知の存在、得体の知らない大人というものを怖がるのは子どもなので当然だ。でもラグと違う点があるとしたら、
願わくば、叔父様とも戦ってみたいと思う。武者震いに近い何を私は感じていたのだった。
謎の大人の正体と目的は、まあバレバレですよね。




