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85  不穏な秋  ミサ 黒幕を襲撃する。

ミサ―がくるー、きっとくるー。

 ファムアットの海を越えたさらに先、ルー大陸と呼ばれる場所の国に「5本指」と呼ばれる伝説の組織があった。

 曰く、どんな達人でも依頼があれば始末する。

 曰く、どんな英雄でも逃がすことなく始末する。

 曰く、どんな手段でもとらえるとこが叶わない。

 侯爵がその存在を知ったのは偶然だった。ファムアットの街を通して舶来の品を買い漁る趣味、そんな日々の中で船乗りからホラ話としてその話を聞き、取引相手にそれとなく聞いたりしていると、ある晩その男が目の前に現れた。

 臆病でかつ探られると痛い腹を持っている貴族だからこそ、警備はそれなりに厳重であった侯爵の屋敷に用意に忍び込み、侯爵の野心を赤裸々に語る男。そして背後にいる4人の存在。

 侯爵は、その場で5本指に依頼をした。

「ライオネル殿下の周辺にいる、マリアンヌと山猿、あとできればファムアットの色黒も。」

 侯爵は王城で働く自分に誇りを持っていた。開国当時までさかのぼれば傍流とはいえ、王家の血をひき祖父の代までは要職についていた。だが父の代で横領が発覚し閑職に追いやられ、その息子である自分も出世の道が絶たれている。断絶にならずに生かされていることが王家の温情であるのだが、侯爵はそれを理解せず、ただ自分よりも田舎に住みながら重鎮と呼ばれる「4家」に嫉妬していた。

「始末してほしい。」

 侯爵には年ごろの娘がおり、学園へ通っていた。だから殿下の周りでうろうろしている女どもを始末すれば娘が殿下と婚約できるかもしれない、そんなことを夢見ていた。

「おい、まだか、まだ始末できてないのか?」

 侯爵家の隠し持つ屋敷の一室で、侯爵はイライラとしながら何度目かわからない問を男にした。

「慌てるな、簡単な仕事でないことはわかっているだろう?」

 こらえ性のない依頼人には慣れているので、男の対応も慣れたものだった。

「小娘と侮るな、そういったのもお前だ。実際下見の段階で確認できたが、ターゲットはどれも手強い。策に策を重ね、確実に仕留めなければならん。」

「ふん、わかっている。田舎者でも、いや田舎者だからこそ暴れたらうるさいからな。」

 侯爵も貴族である、ソルベやファムアットの武勇も知っているし、ロムレスが管理する王家の警備も理解している。だからこそそれに悟られずに容易に侵入し、様々な工作によるデモンストレーションをしてきた「5本指」なる男たちの能力を恐れ、信頼して仕事を依頼したのである。

「簡単な仕事ではない。だが、最終的にターゲットは討ち取る。時間の問題だ。」

 自信と悪意に満ちた笑顔で男は侯爵に笑いかける。

「ならいい、ファムアットの色黒は相手がいるからいい。だがマリアンヌ、いやそれよりもあのふざけた山猿の娘は確実に討ち取れよ。」

「安心しろ、ファムアットの娘は王都にいないが、この件が片付いたらいつでも始末できる。」

 計画のイレギュラーとしてターゲットの1人がファムアットへ帰っていることがあった。王都のガチガチの警備とは違い警備はゆるいがファムアットの港町で騒ぎを起こせば「5本指」が国から出るときの手間が増える。だからこそ侯爵という隠れ蓑と拠点の提供者を男は求めていたのだ。

(矮小なくせにプライドだけは一人前、じつに使いやすい手駒だ)

 実のところ、侯爵の依頼内容は「5本指」にとってはどうでもよかった。依頼金はそれなりだが、国の重鎮を狙うという傲慢で無謀な野望。それを持っている愚かな依頼人を通して、「5本指」の実力をこの国でも広めて更なる活動の足掛かりにする。

 それだけ自分たちの組織、その実力に男は自負と自信があった。

 だが、その傲慢が己の幕引きへとつながることを知らない。

 そして、終わりを告げる声はあまりに可愛らしい物だった。

「こんばんわー。」

 ぬるっとした声が部屋に響き、侯爵以外の人間が一斉に声のした方、正面の扉を見る。

「悪い人がいるのはここですねー。」

 そんな声とともに扉が開き、どさどさと投げ込まれる5人の男、そして、

「ミサ・ソルベ。なぜここに。」

 扉の前に立っていたのは精鋭を差し向けたはずのターゲットであるミサであった。 


「5本指というわりには、人が多いんですね。」

 転ばせた5人をちらりと見てから私は奥にいる二人を改めて観察する。

 1人は国の侯爵だ。名前は憶えていないけどどこかの夜会で私のことを「山猿」と陰口していたと思う。わたしの登場に顔が青ざめている。

「ここを突きとめるとは、見事。」

 驚きつつもまだ余裕があるのは壮年のおじいさん。おじいさんと言っても立ち方はしっかりしているし隙がない。ゲストハウスの男のように黒い恰好をしているからきっとこの人が襲撃者の親玉だろう。

「わざわざ道案内を寄こしてくれおいて、謙虚なんですねー。」

 ゲストハウスから王城へ向かう道すがら、同じような襲撃が5回。それだけあればなんとなく方向も分かるし、ソルベや王城の優秀な人達なら黒幕の侯爵を突き止めることができる。

 まあ、私は襲撃者を追い回した結果、ここにたどり着いただけなんだけど。動機とかこの人たちの正体とかはほかの人に任せればいいだろう。

「お嬢さん、人間の指は全部で何本かわかるかな?」

 ゆっくりと油断なく近づくとおじいさんが拍手をしながらそんなことを聞いてきた?

「5本じゃないんですか?」

「それは手についてるものだろ、だが人間には手も足もあるじゃないか。」

 そういっておじいさんはすっと手を挙げてどこかに合図をする。

「おっと。」 

 わずかな風切り音とともに飛来する弓矢に足を止める。なかなかにするどいし攻撃の起こりがわからないいい攻撃だ。

「5本指は、あくまで仕事の単位でね、だけど今回は国盗りの大仕事だから20人全員できているんだよ。」

 ゆらり、陽炎のように闇から出てきたのは10人の男たちだった。 

「なるほど、だから7人切っても終わらなかったのか。」

 おじいさんさんと私が捉えた人数と合わせて18人。

「あと二人は?」

「ふん、それを知る必要はない。なぜなら。」

 言いながらおじいさんは、どこからともかく取り出した玉を地面にたたきつける。

「この煙が晴れる頃に、お前の命は終わっているんだからな。」

 黙々と立ちあがる煙とピリピリした感覚。どうやらまた魔封じという薬を巻かれたらしい。そう思ったときには攻撃が始まっていた。

 左右から投げられるひも付きの分銅は身を伏せてかわす。変幻自在と言っているけど曲線の軌道をとらなければならないから下への回避すると意外と簡単に避けれる。

 時間差で迫ってくる槍はしゃがんだ勢いのまま前に飛んで躱す、追って迫ってくるゆったりしたナイフは毒が塗ってあるはずなので片方だけ剣ではじいて距離を詰めてこん棒は手元を狙って殴りつける。それらを捌いたうえで巨体が2人がかりで抑え込もうとしてくるけど、回し蹴りで顎を砕く。そして動きがとまった襲撃者を盾にすれば最後に飛んでくる大量の弓が勝手に始末をつけてくれた。

 5種、10人がかりの波状攻撃はなかなかにスリリングだったけど、倒れてくる大男を蹴り飛ばせば残っているのは弓を構えて、驚きの声を上げている二人とおじさんだけだった。

「なっ、なぜだ。この攻撃を受けて無傷なんだ。」

 10人がかりの波状攻撃。確かに冷や汗をかくほどの鋭さと殺意を持った攻撃だった。でも

「まだまだ甘いんですよ。」

 父様の攻撃と比べたら全然遅い。兵士長たちの容赦ない攻撃に比べたら全然組み合わせが甘い。何より。

「一度見せていただきましたから。」

 5本指という5種類の武器との闘いは、ギルトハウスからここに来るまでに遭遇して各個撃破している。だからこそそれぞれの攻撃の特徴はわかっていた。

「ばかな、たった一度戦っただけで、我らの奥義を見抜いたというのか。」

 奥義、奥義ねー。

「奥義とか秘術とかいうなら、もっと必殺にしてもらわないと。」

 拍子抜けもいいところだ。味方の犠牲を前提としているならもっと弓は凶悪にすべきだし、ひも付き分銅はもっと後出しにすべきだ。

「さあ、続きをしましょうか。」

 おじいさんの戦意はほとんどない。

 まあないなら引き出せばいいか?

 

バトルばかりの章となりましたが、ミサちゃんは大満足


次回は正史での襲撃編を語ります。

次章は事件の前後と後始末

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