84 ライオネル 襲撃される。
襲撃者たちの正体とは、殿下たちの運命は?
王城の一室に案内されたラグは、マリアンヌとライオネルの二人と一緒にくつろいでいた。
「落ち着け、ラグ。ここは安全だ。」
「そうよ、座ってお茶でも飲んで。」
いな、くつろぐことを強いられていた。
忘れ物を取りに行くといってミサが城を出てからまだそんな時間が経っていない。姉の実力を疑う気はないが、どこかでとんでもないトラブルを引き起こしているのではないか、そういった不安からラグはなかなか落ち着けなかった。
「わ、わかってるんだけど。」
そして、謎の襲撃者の存在。そういった要素がラグの年相応のあどけなさを引き出している。それを微笑ましく思いつつ、ライオネルもマリアンヌもあえて指摘はしなかった。
王城とは、権威と平和の象徴である。豪華な装飾や調度品は国力や文化の高さを象徴し、幾重にも貼られている防衛線は国の強さを。城が盤石であるからこそ、国民は日々心穏やかに過ごすことができる。
そして、絶対防衛線でもある。王や貴族、国の重鎮たちを守る絶対の結界であるべき城。そこが攻め込まれるというのはよほの緊急事態だ。
「だから、安心しろ。ミサもそのうち戻ってくる。」
「は、はい。」
ライオネルの言葉にラグは再びソファーに座る。どんなに強くとも彼らはまだ子どもであり、同時に次代を担う人材だ。だからこそ矢面に立つことは許されず、こうして籠っている。
もっとも、ライオネルはそれで済むとは思っていなかった。
「それで、お前は一体、どこのどちら様だ。」
お茶を飲み終えてふと気が抜けるそんなタイミング。その侵入者に最初に気づいたのはライオネルだった。
「えっ?」「ライ兄さん?」「くく、なるほどな。」
その言葉に反応するように部屋の一角が陽炎のように歪み、現れたのは大きく、丸い男だった。
黒づくめの恰好なのだろうが、横にも縦にも大きな身体はラグたち3人を合わせたものよりも大きい。こんな巨体がどのように王城に忍び込んだのか、疑問は浮かんだだが、ライオネルは動じなかった。びっくり箱は幼馴染たちで十分すぎる経験値があったからだ。
「どうやってここまで来たかは知らないが、帰り道はもうふさがっていると思え、数分もしないでお前は囲まれる。」
虚勢や自信ではなく、事実としてライオネルはそう告げる。すでに緊急の信号は発信している。それに。
「うん?」
言葉で意識を引いてから、轟音で相手を気絶させる音魔法。それを発動させようとして初めて違和感に気づく。
「どうした、ご自慢の手品はつかないのか。」
嘲るように笑って大男は一歩前にでる。
「我らの秘術が一つ魔封じだ。この部屋の中ではもう満足に魔法も使えない。」
いつのまにと思うが、暗殺者が不意打ちをするのはとうぜんだ。
「我ら5本指、その手に掛かれば最強と言われる国家もこの程度だ。」
ライオネルの顔に緊張が走る。魔法が使えないと異常、それに王城でもっとも安全な場所に侵入された事実。対処は不可能ではないが、情報を集める必要が。
「ふふふ、それに助けを呼んでも無駄だ。仮に音が漏れたとしても護衛どもが駆けつける前にお前たちの命を刈り取るぐらい、たやす。」
男の言葉をさえぎって動き出したのは、ラグだった。素早く立ち上がって手近にあった花瓶を投げつける。
「ぬるい。」
襲撃者はそれを軽く払う。それなりの重量をもった花瓶のはずなのにあっさりと壁まで飛んで、破片が舞う。
「なかなかの力だな、だが俺のほうが。」
余裕をもっていた大男の顔が歪む。花瓶に注意を向けた一瞬のスキ、その間に剣をもってラグは切りかかっていた。
「なんという速さ。魔法は使えないはず。」
ラグは答えない。返事をする余裕も容赦も頭から消えていたからだ。
「お、おおおおお。」
鋭い斬撃を襲撃者は腕につけた手甲で何とか防ぐ。格闘戦と侵入能力でこの現場を担当することになった大男だ。
だからこそ、緊張が抜ける瞬間をじっと待ち、魔封じを使って動揺をさそった。魔法が身近な存在ほど魔封じの効果は大きく、動揺する。その間に子供3人の首をへし折る。そんな簡単な仕事だった。
「な、なぜだ。」
問わずにはいられなかった。VIPといってもまだ10代の子ども。そう聞いていた。だがその精神力は一人前の兵士のそれである。大男はそこに動揺していた。
「せい。」
ラグの放つ会心の一撃に、大男は今度こそ弾かれて部屋の隅に追いやられる。
そして、
「よくやったわ。」
仕切り直しを図ろうとした大男が最後にみたのは、優雅に笑うマリアンヌの笑顔。感じたのは足元から這い上がる激痛だった。
「ぐは。」
ある程度鍛えている人間は痛みに耐性があるものだ。だがその激痛は大男の鍛えられた肉体や精神、覚悟を無視して、その意識を奪いさった。
黒焦げになって倒れる大男に慎重に近づいてラグは、その意識を確認する。
「お見事です、マリアンヌ様。」
意識を失ってぴくぴくと痙攣する大男から視線は外さずに、ラグはマリアンヌを称えた。対象を無力化しつつ、ギリギリ回復可能なレベル痛めつける絶妙な焼き加減。
(姉さんの言う通り、魔法を使われたらマリアンヌ様が最強だ)
話には聞いていたが、実際に目にすると勝てる気がしない。ミサが手放しで懐いている理由も納得だ。
「殿下、換気をしてもよろしいでしょうか、どうやら、魔素の感知を阻害する薬品がまかれているようです。」
「ああ、かまわん。俺が開けよう。しかし、そんなものがあるとはな。」
慎重に近づいて窓を開けるライオネル。まだ完全に安全が確保されたわけじゃなく警戒する必要があった。
「私も噂で聞いた程度です。なんでも海向こうの国で伝わる秘術だとか。」
「そうか、となると今回は海からの侵入者なのかもしれないな。」
そんな会話をする二人に驚きつつ、ラグは大男を縛って拘束しておくことにした。
「それにしてもマリアンヌ様、すごいですね、この嫌な空気の中であれだけの魔法を使えるなんて。」
「ええ、時間はかかったし、範囲も威力も加減ができそうになかったから不安はあったわ。ラグがそれを隅に追いやってくれたからなんとかなったけど。下手したら部屋が焦げていたわ。」
さらっと恐ろしい言葉に男たちはドン引きである。
「普通は試さんだろ。」
この場で何一つできなかったライオネル。一番最初に違和感に気づいたが魔法は使えないと判断し、距離も一番遠かったらラグに任せた。その判断は間違っていないが。
「なんとも情けない。」
「いえいえ、殿下が気づき、注意を引いてくれたからこそ、我々が対処できたんですのよ。それに矢面に立たれていい御身でないことをもっと自覚してください。」
そんな心も筒抜けなマリアンヌの言葉にライオネルは苦笑しかなかった。
「さて、ミサの方はどうなっているか?」
そして、自分たちよりももっと危険な選択をしているだろう幼馴染のことを心配するのであった。
もっとも、3人とも心配するのは相手のことであったけれど・・・、
殿下「出番がなかった。」
ラグ「魔法が使えないなら筋力で。」
マリアンヌ「魔法が使えないなら、魔法を使えばいい。」
黒幕「チートすぎるだろ。」




