夜中に目が覚めると背中に翼が生えていた
背中に違和感を感じた俺は、夜中に目を覚ました。
「背中が、重い」
何かが背中にある、そう感じた俺はすぐに洗面所の鏡へと向かう。
鏡の向こうの自分を見て、思わず唾を飲み込んだ。
「......何だよ、これ!? 救急車っ、いや警察か!?」
背中に黒い翼が生えていた。鳥の翼というよりは、蝙蝠の翼のようなものだ。
突如俺の背中に生えたそれは、不気味な輝きを帯びていた。俺は背中に意識を集中させる。
「翼の感覚はある。つまり、既に俺の体の一部になってしまっているって事だ」
俺は少し悩んだ末に、スマホを取り出して『119』と言う数字を打つ。病院へ行こうにも、この姿で出歩く訳にはいかなかったからだ。
「背中に翼が生えた」と伝えると当然困惑されたが、何とか状況を伝えて救急車を呼んでもらえることになった。救急車を迎えに行く為、俺はマンションの外に出る事にした。
上着を羽織ろうと思ったが、翼が大きすぎて隠しきれない事と救急隊員が来た時に理解して貰えやすい事を踏まえて、翼は出した状態で部屋を出た。今は夜中だし人も出歩いていないだろう、そう思ったのも理由の一つだ。
だが、甘い判断だった。まだ俺は、翼が生えたことの異常性を理解していなかったのだ。
「ば、化け物っ!?」
マンションの廊下で、住民の男性と鉢合わせてしまった。彼は俺の背中に生えた翼を見た瞬間、顔を青ざめて必死の形相で叫んだ。
彼の瞳には、翼の生えた化け物の姿が映っていた。
「違うんです、話を聞いて」
「や、やめろ!! こ、こっちに来るなぁ!!」
俺の言葉に一切耳を傾けることなく、男性はその場から逃げ去るように走り出す。追いかける事はしなかった。
今はただ、救急車を待つ。それが最善だと思った。
マンションの外に出て、救急車を待つ。
たった数分が、異様に長く感じられた。
「早く来い、早く来い」
そんな俺の願いが通じたのか、遠くからサイレンの音が近づいてくるのが分かった。
助かった、そう思えたのは一瞬だった。
「......救急車のサイレンじゃない」
聞こえたのは、パトカーのサイレンだった。後に思えば、全く関係のない事件で駆けつけたパトカーだったのかもしれない。
だが。さっきの住民が通報したに違いない、この時の俺にはそうとしか思えなかったのだ。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ捕まる」
逃げると言ってもどこに? その疑問に答えるように、背中に生えた翼が強く震えた。
上から下へと凄まじい風が吹く。その風に逆らうように、俺は高く空へと飛び上がった。
「飛んだ......!?」
みるみるうちに足と地面の距離が離れていく。落ちないように、全神経を背中に集中させる。
風が気持ちいい、全身がそう言っている。地上はこんなにもちっぽけだったのか、こんな自由な世界を俺は今まで知らなかったのか。
「最高だ、最高じゃないか!!」
俺に怯える男の声も、俺を追いかけるパトカーのサイレンも。この広い空には、決して届かない。
俺は人類が辿り着くその先にいる、そう思った。




