まだトリックも思いついていないのにとりあえずインタビューを受けるミステリー作家
「それでは『完全密室の殺人』の作者、手越光先生にインタビューしていこうと思います。先生、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さて先生。この号が出る頃には、ちょうど物語も佳境に入り、いよいよ解決編が載っていると思われるんですが……」
「そうですね。今現在絶賛執筆中です笑」
「それは楽しみです! 読者の反応も大きいんじゃないですか?」
「えぇ。中には犯人はコイツだろと予想してくる読者も多いのですが……ざっと見たところ、まぁ見事に全部外れてますね」
「えぇっ!? 全部!?」
「はい。全員外れです。まだこのトリックは、誰も思いついてないんじゃないかなあ」
「となると……最終回、解決編は読者も予測不可能な、あっ!? と驚くトリックが待ち受けているということですね!」
「えぇ、えぇ」
「これは期待も高まって参りました。私も色々と考えを巡らせていたのですが……作中では何度も、主人公が定期的に『この館には非常口がない』と言及していますね」
「えっ? そうですか?」
「はい。ほら……8頁目のここ……それに31頁に、54頁も」
「本当だ……全然気づかなかった……」
「えっ? 何か言いましたか?」
「いやいや! 本当だね。非常口、非常口ね」
「ネット等でも散々考察されていますが……これは何かの伏線なのでは?」
「は?」
「え?」
「ですから……この非常口が無いというのがトリックに関わってくるのではないのか……と」
「……どんな風に?」
「え?」
「いや、たとえばだよ! たとえば一般的な読者は、どんな風に考えるのかなあって。今度の作品の参考にね」
「なるほど。そうですねえ……たとえば、被害者の1人が暗闇の中咄嗟に非常口を探してしまい、でもそれが犯人の仕掛けた罠だった……それで転落死してしまう、とか?」
「それだ!」
「先生? 突然立ち上がって、どうされました?」
「いやいや、何も! それで、ネット上では他にどんな考察がされているんだね? 参考までに聞いておきたいんだが」
「他には……一番多いのは、解答編でどんでん返しが待っている、というものですね」
「どんでん返し……たとえば?」
「たとえば?」
「いや、なんていうのかな……やっぱり被りたくないじゃないですか! 後からパクリだって言われたくないし……念には念を入れて、素人の意見も聞いておこうと思って!」
「そうですね、実は今までの問題編が如何にもありがちで退屈だったのは、全部フリだったのだとか」
「そう! そうなんだよ! 良いところに気がつくねえ!」
「登場人物のセリフが如何にも作り物っぽいのも何かの伏線に違いない、とか」
「あぁ〜! やっぱり見ている人は見ているんだなぁ〜ッ!」
「他にも、さすがにプロがこんな見え見えの伏線を貼るわけがない、作者は裏の裏の裏をかいてくるのだとか、主人公のキャラがブレブレで内面描写など何だか小学生が書いた作文みたいなのは、読者に人物を誤認させるトリックなんだとか、後半になって急に死人が多くなるのは、あれは物語を盛り上げるためじゃなくって、ちゃんと意味があるのだ……とか」
「もう! もうそれ以上は!」
「先生、大丈夫ですか?」
「ふふん。何故だか心がチクチクと痛むが……中々良いセン行ってるね。全部採用だ」
「え?」
「なんでもないよ。私の小説は最初から最後まで、全部伏線だからね」
「じゃあどこで回収するんですか?」
「そんなことより。犯人は誰にしようか?」
「誰にしようか?」
「誰にしようか……当ててごらんなさいよ! どうせハズレだから!」
「えぇ……?」
「とりあえず言ってみなさいってば。私の中ではもう決まっているんだが、もう脱稿済みなんだが、今度の参考までに!」
「じゃあ……この人ですか?」
「……どうして?」
「どうして?」
「だって……怪しすぎじゃないですか。名前が犯人死蔵だし……肝心な時にいつもいないし……」
「まぁ、その人物だけは絶対にないと断言しておきましょう」
「えぇっ!? 先生……まさか、当てられたからって急遽変えたんじゃないでしょうね?」
「そんなわけないだろう!」
「そんなわけないだろう! 図星だったからって……私は最初から考えてました! 全部計画通り、全部計算済みでしたぁ〜! ハァーハッハッハァ! 残念でした〜! 読者の思うようにはいきまっせぇ〜ん! ……ッ痛え! 何で急に殴るんだ!?」
「これはますます解答編が楽しみですね。先生、ありがとうございました」
「ありがとうございました」