26 グラン・ドール
5人はゆっくりと階段を登っていた。これまでになく静かな時間が流れると共に、足取りは軽く、先を見据える彼女らの顔には希望が満ち溢れていた。
「後世に行って、最初にしたいことは?」
アオイが突然4人に問いを投げかけた。
「そうだな、俺は綺麗な夕陽を眺めたいかな。ルーカスは?」
「え? あ、私? ……うーんと、うーん、……何か美味しいものを食べたいかな!」
ルーカスの頭の中では、先ほどの地下での状況が何度も繰り返されていて、完全に取り乱している様子だった。ところが、先頭を歩く彼女の顔が真っ赤なことを誰も知ることはなかった。
「美味しいもの? ルウ、かわいい」とアオイが笑うものだから、ルーカスは遇らうように笑った。
そんな調子で、5人はフロアCも通過し、かなり高いところまで登ってきた。見下ろせば、かなり高く、タワー館の入り口はかなり小さく見えた。
フロアDを過ぎると、とうとう階段は最後となり、階段の先には階段の幅ほどしかない狭い扉があった。
ルーカスは手をかけたが、扉を開く前に、もう一度見下ろした。
「私たち、ようやくここまで来たんだよね。とても長かった。嬉しい反面、不安や名残惜しい気持ちもある。でも、まだまだこれからだよね。私たちの人生は、私たちが作っていくんだから」
他の4人は何も言わなかった。前世に残す言葉は、他に何も必要ではなかった。
「行こう」
ルーカスはゆっくりと扉を押し開いた。
扉の奥から虹色の光が目に飛び込んできた。かなり明るく、部屋の内部を隅々まで照らし出している。
「これが、グラン・ドール……」
5人は呆気に取られていた。その開かれた美しい扉は、5人を迎えんとばかりに煌々と輝いている。それがそれであることは、誰かに説明されずとも容易に理解できた。
部屋の中は、グラン・ドールただ一つのみだった。他には何も置かれていないし、誰もいない。きっとここがタワー館の頂上なのだろう。
グラン・ドールの向かいの壁には、タワー館が建てられた意味が刻まれていた。それによると、現代魔法の研究のために実験体が死亡した場合、元々はアイアン島中心部の墓場に埋葬していたということだが、途中から彼らの転生を願い天に続く橋を作ったとのことだった。つまり、ここは第二の墓だったということである。
しかし、途中からここに死体を運ぶのが大変になったのか、本館内に遺棄するようになった。その遺体は研究室1-Dに運ばれ、適切に処理されることなく腐敗していったということだ。
皮肉にも、この天に続く橋は、今となっては元の世界に戻るための橋となっているのだ。前世に落ちて死んだと思われた者が、後世に舞い戻るための橋だ。
さらに室内を見回せば、数カ所、壁に穴が空いている場所があった。穴には布が被せられ、外から内部は見えなくなっている。
ルーカスはそのうちの1つをめくり、外を覗いてみた。ハルセロナの優雅な街並みが見えた。
「アリア、ここからあなたの故郷が見えるわ。これが、前世の故郷を眺められる最後の機会よ」
アリアがルーカスの言葉を聞いて近付いてきた。
「最後なのね。そう聞くと、なぜか懐かしく感じる」
ルーカスと変わり、アリアは穴を覗き込んだ。確かに、彼女の故郷が見える。
これまでになく、最高の眺めだった。多少うっすらとしているのは霧のせいだろうが、彼女にとってはこれで十分だった。
アリアが顔を離すと、ルーカスは彼女の手を握った。
「今までありがとう。これからもしばらくよろしくね」
ルーカスはそう言うと、アリアの手を離し、グラン・ドールの前に移動した。
「みんな、準備はいい?」
「もちろん」
ベンが最初に歩み寄ってきた。続いて、ユー、アリア、アオイと並んだ。
「それじゃあ、行こう。後世へ」
一同は虹色に輝くグラン・ドールに足を踏み入れた。その数秒後には、前世のグラン・ドールの前は、何もなかったかのように静まり返っていた。
いつもありがとうございます!
「二つの世界」の第2章「前世」は、ここまでとなります。次回からは第3章「後世」となります。
第3章「後世」からは、随時更新とさせていただきます。
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