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二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
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19 現代魔法研究所(四) ①

 ダンスホール中央の扉をゆっくり開いたが、中は真っ暗だった。


「ベン、フィーレを頼める?」


 ルーカスの言葉にベンは応じた。ダンスホールの天井に数カ所フィーレを配置し、部屋全体がよく見渡せるようにした。


 内部を見回したが、あちらもこちらも食料が並んでいる。新しそうな魚もあり、その木製の箱の内部には氷が敷き詰められていた。


「本当に食糧庫だったのね」


 6人は散らばって部屋の内部を歩き回っていた。ルーカスの言葉を聞いて、少し離れたところを歩いていたレベッカが答えた。


「そう。でも、基本的にここに来るのは係の者のみだったと思うわ。私が入るのはこれが初めて」


 そう言いながら、並んでいたリンゴを手に取りかじっていた。


「それにしては、現代魔法研究所は畑を持っているのか?」

「違うわ。詳しくは知らないけど、現代魔法研究所で畑やそれらしいものは何も持っていない」


 ベンに問いにレベッカが答えた。さらにアリアが続けた。


「ということは、一般人が作った食料を現代魔法研究所が買い上げている、ということ?」

「……本来であればね。けど、本当に買い上げているか、それは不明ってところかしら」


 レベッカより先にルーカスが答えた。レベッカは小さく首肯して何も続けなかった。


 アオイはまとめて置かれていた木の実類をつまんでいた。ルーカスはさらに部屋の奥も見て回った。アリアはルーカスに付いてきた。


「アリア、ここにある食べ物、ハルセロナの港でも見られるものがほとんど?」

「ほとんど見ることができたと思う」

「ということは、研究所内に、食料を前世のあちこちに配っていた人がいることは間違いないわね」

「そうなるね……。前世の誰かと内通していた、ということ?」

「かもしれない。その人が本当に慈善的な意味合いでそれをしていたか、何か取引があったのかは不明だけど、内通者のおかげで前世の人々は生きながらえていることも確か。現に、私たちだって今を生きているのはその人のおかげとも言えるだろうし。……まあ、本当に内通者がいたのか、あるいは他のなんらかの理由があったのかはわからないけどね」


 しばらく歩いた先に、ルーカスはダンスホールの控え室Aの入り口を見つけた。


「こうなっているのね……」


 ルーカスは控え室Aの扉を開いたが、そこはもぬけの殻だった。埃が舞い咳が出たため、「汚い……」と思わず口からこぼし、すぐに扉を閉めた。


 その後ダンスホールの中央部を振り向いて、全員に聞こえるように言った。


「食べたいものは食べて、みんな準備がよかったら研究室1-Aに行くわ。少しの間休憩時間よ」


 そう言いながらフルーツが置かれているテーブルに歩み寄り、レベッカと同じようにリンゴをかじった。




 6人全員の準備が整うと、ダンスホールを後にし、研究室1-Aの前に集まった。


 ルーカスはゆっくりとドアを開いたが、まだ倒れているジュード・ブラウン以外に誰かがいる様子はない。そのまま部屋に入り、フィーレで部屋の内部を照らした。


 図書室と言われても理解できるように本が並んでいる。ただ、本が並んでいるのは手前側の本棚のみで、奥の本棚は空っぽだった。


「ここにある本は?」

「いろいろな本があるけど、特殊魔法とコントロール系魔術に関する本が中心。私はほとんど読んだことがないけど」


 なるほど、確かにコントロール系魔術が多い。古い文字で書かれている本もあり、何が書かれているのか不明なものも多かった。


「どうしてコントロール系魔術が多いの?」とルーカス。

「わからない。けど、コントロール系魔術といえば、現代魔法研究所所長は、コントロール系魔術を使う、と噂で聞いたことがあるわ。ただ、本当かどうかはわからない」

「なるほど……。所長の名前は?」

「モーリス・シュタインバーズ」

「シュタインバーズ?」


 ルーカスは隣にいたアオイと顔を見合わせた。「シュタインバーズ」といえば、ダラン総合魔法学校のベル・シュタインバーズが思い浮かぶ。


「モーリス・シュタインバーズ、……所長は、アールベストの人間?」

「いや、知らない。私たちのレベルじゃ、顔を見たことすらないから。名前だけ口伝えで広がっていた」


 レベッカが嘘をついているようには見えない。しかし、もしモーリス・シュタインバーズがアールベストの人間で、ベル・シュタインバーズと繋がりがあるなら、話は素直に収まらない可能性がある。


 ベル・シュタインバーズは総合指揮官、つまり、地位としてはかなり上だ。他人より少し魔法を使えるという程度ではなれない役職だ。


 そして、モーリス・シュタインバーズも現代魔法研究所所長となり、こちらもまたかなりの役職だ。両者揃って両極端な組織のトップ的地位に就いている。単に名字が同じだけだったという偶然の可能性もあるが、いずれにせよあまり楽観視できない可能性が高いだろう。


 ルーカスはいくつか本を手に取ってみたが、それほど真新しいことを書いている様子はなかった。


「隣に行きましょう」


 ルーカスの声に合わせ、一行は研究室1-Aから出て、隣の研究室1-Bへ向かった。


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