表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
51/143

18 現代魔法研究所(三) ①

 扉の目の前に立った。


「レベッカ、ここには何があるの?」

「ここは確か、普通の研究室だったはず。小さい部屋だから、簡単な魔法を使ったりする部屋だった」

「なるほど。とりあえず入ってみましょう」


 ルーカスはドアノブを回し、扉を開こうとした。


 が、開かない。内側から鍵がかかっている。


「……閉まっている?」


 ルーカスはすぐさまドアノブから手を離し、扉から離れた。他の5人も扉から離れ、戦闘態勢となった。


「ごめん、私としたことが、安易にドアを開こうとしてしまった。中の誰かに気付かれたはず」


 ルーカスは先ほどアオイから借りたナイフを右手に握った。


 内側から鍵が開けられる様子はない。


「気付かれなかった……のか?」


 ベンも構えていたが、そう呟いて身体を楽にした。


 しかし、その直後、突然鍵の開く音がした。


「構えて」


 ルーカスは息だけで告げた。しかし、それ以上にドアが動く様子はない。


「……中で待たれているわね。開けるから攻撃に備えて」


 ルーカスはそう言って、ドアノブに手をかけた。中からは何の動きもない。ただ、鍵が開いたのは確実だろう。


 ルーカスは思い切ってドアを開いた。


 部屋の中は真っ暗だ。誰かがこの中にいるとは到底思えない。それに、中から誰かが出てくる様子もない。ドアの目の前に立っているユーが手にフィーレを作った。仄かに部屋の内部が照らし出される。


「見ろよ。誰もいないぞ」


 ベンがそう言って、自分の手にもフィーレを作り出し、部屋の中に入った。ルーカスはその様子をドアに隠れながらも目で追った。何かがおかしい、ルーカスはそう心の中で感じていた。


 すると突然、ベンが声をあげてその場に倒れた。どうやら、うなじを殴られたようだ。殺されたわけではなく、気絶状態にある。


「ベン! ……みんな気を付けて。ここは現代魔法研究所内。どんな敵がいるかはわからない」


 ルーカスはそう告げたが、すでに遅かった。アオイとアリアも何者かによってその場に倒れていた。幸い、誰も殺されてはいない。が、時間の問題だろう。今はとりあえず気絶させておいて、後で殺す、ということはあり得る。


 ルーカスは見えない敵を探した。レベッカ、ユーも周囲をしきりに見回していた。


「あ、もしかすると、やつかもしれない……」

「何? 誰?」


 ルーカスはすぐさまレベッカの呟きに飛びついた。


「現代魔法研究所で、ただ1人、透明になれる魔法を使う人がいた。名前は、ジュード・ブラウン」

「透明に? もしそうなら、私たちがどうやって戦えば……」


 そう言っているうちに、ユーも倒されてしまった。少しずつルーカスたちに近付いていることを示唆していた。


「レベッカ、戦う方法は?」

「私にもわからない。第一、その人を見たこともないのだから」


 ルーカスはナイフを振り回した。何にも当たらないが、とにかく防衛のために振り回した。


「……暗くて何も見えないのに、姿そのものが見えないなんて、どうしようもないじゃない」


 ルーカスはそう言いながら、扉から少しずつ離れた。少しずつ客間からの分岐に近付いてくる。レベッカもルーカスのそばに付いたままだ。


「弱点はないの?」

「わからない。けど、噂によると、長時間透明のままでいることはできないらしい」

「長時間って……どれくらい?」

「10分ぐらいだったと思う」

「じゃあ、あと5分ほどは、こうやってナイフを振り回す必要があるのね」


 ルーカスはそう言いながら、やはりナイフを振り回していた。


「……こうやっているうちは、相手からは何もしてこない。つまり、見えないだけで、実体はあるのね」


 彼女はレベッカと背中を合わせた。


「レベッカ、あなたの魔法は?」

「空間系魔術」

「……この辺の空間、全部消せる?」

「もちろん」


 レベッカはそう言うと、彼女たちの目の前から研究室1-Cに続く廊下の空間を切り取った。彼女の作り出す空間は薄い紫色だった。この色は人によってわずかに違う。ユーは薄い空色だ。


「ありがとう。これでどうだろう」


 ルーカスはナイフを振り回すのを止めた。


 その直後、レベッカがうめき声を上げるのが聞こえた。


「うっ……、離しなさいよ!」


 ルーカスが声のする方を振り向くと、そこには、レベッカの姿と、彼女を羽交い締めにする男の姿があった。しかし、暗くて詳しく顔までは見えない。


「俺たちを裏切ったのか。けしからん。お前もこの雑魚どもと一緒に死ねばいい」

「ジュード・ブラウン……。レベッカを離して」


 ルーカスはナイフの先をジュードに向けた。


「それは無理な要望だ。先にこいつを眠らせよう」


 ジュードはそう言うと、レベッカから手を解き、拳を掲げ、レベッカのうなじへ振り落とした。彼女は抵抗する間もなくその場に倒れた。


 ルーカスはジュードが彼女たちと研究室1-Cの間にいるものと思い込んでいたが、実際はジュードの移動速度は思っていたよりも早く、彼女たちの後ろに回り込んでいたようだ。


「仲間でしょ?」

「仲間だったな。たださっき再会したときには仲間ではなくなっていた。俺たちを裏切ったからな」


 ジュードはそう言うと、走り出す構えを見せた。ルーカスはそれに合わせてナイフを構えた。


 しかし、次の瞬間、ジュードの姿が全く見えなくなった。


「……! どこ!」


 ルーカスは周囲を見回したが、当然彼の姿はどこにも見えない。とにかく、ナイフを振り回すことに専念した。


「ハハハ! 全く雑魚だな。目で見えない敵にはクソ雑魚のようだな!」


 姿の見えないジュードはさらに続けた。


「何人かの仲間は呆気なくやられてしまったようだが、俺はあいつらとは違う。お前たち如きに殺されるタマじゃねえんだ」


 ジュードの声は廊下で反響して、四方八方から聞こえてくる。声を頼りにジュードを探すことはできなさそうだ。


「あなたたちが一体何を目指しているのか知らないけど、私たちのことを阻害する理由もないでしょ?」

「阻害する理由がなくても、そうすること自体に意味があるのさ。ここの所長は非常に立派な考えの持ち主だ。崩れた世界を立て直そうとしている。それを手助けするのが、俺たちの役目ってわけさ」

「あなたたちはいつも何か勘違いをしている。……というか、そう教えられている。現実の世界を見た方がいいわよ」


 ルーカスはそう告げたが、ジュードは一向に姿を見せようとしない。


 彼女がナイフを振り回していると、彼は襲ってはこない。しかし、それを永遠に続けるというのは無理がある。だからこそ、焦りがあった。


「とっとと姿を見せたらどう? 正面切って戦えないなんて、まだまだあなたも弱虫のようね」

「弱虫と言っていられるのは、自分が負けた気分になっていないからだな。あと少しすれば、すぐにそんなこと言っていられなくなる」


 ジュードの姿は見えないが、ルーカスは同時に彼の居場所をどうやって突き止めるかを考えていた。ジュードが逃げている間は彼女にとって負担になるが、考える時間を与えているという事実もあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ