表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
39/143

13 ハルセロナの港(一) ③

 しばらくしてルーカスが目を覚ました。3人はすでに家を出る準備ができていた。


「あれ、もう9時なの? 早く朝ごはん食べないと」


 4人は1階のキッチンに向かった。アリアの手作りのベーコンエッグとワッフルが4人分用意されていた。


「美味しそう! アリアって料理できるんだね」


 ルーカスはそう言ってテーブルに歩み寄った。


 ここでも、ルーカスは何か寂しげな空気を感じ取っていた。ここの家の中ではどこにいても、寂しげで美しい色が肌に触れる。


 4人はアリアお手製のベーコンエッグとワッフルを食べながら談笑した。過去の自分たちの話をして、面白い失敗談や嬉しかったことなどを共有した。久しぶりのたわいもない会話は、本当に楽しいものだった。


 その後、出かける準備を急いで行い、4人は応接間に入った。応接間にはすでにアリアが座って待っていた。


「おはよう。昨日はよく眠れた?」

「久しぶりにあんなに気持ちのいいベッドに寝れて、本当によく眠れたわ。ありがとう。アリアは?」


 ルーカスが答えた。


「私もよく寝れた。じゃあ、行こっか。途中で、今日の流れを説明するわね」


 そう言って、アリアは4人を応接間から出し、玄関の扉を開いて外を眺めた。


 その動作が一瞬止まったかのように見えたことを、ルーカスは見逃さなかった。


 一行が家を出発してからしばらくして、アリアがルーカスに話しかけた。


「今日の貿易商人役は誰がするの?」

「……なんの話もしていなかった。とりあえず、私がするわ」

「わかった。今日は港にある市民ホールに行って、そこで会議が行われる。あなた以外の3人は舞台袖で見てて、あなたと私は舞台に出るわ。それで、私から貿易商人が変わったことを話し、あなたのことを紹介する。あなたは簡単に挨拶して、魔法をちょっとだけ使ってくれたら、それだけでいいからね。……それだけ。簡単でしょ?」

「聞く限りはね。まあ、私もそれほどいろいろしようなどとは思っていないし、のんびりとやらせていただくことにする」


 ルーカスは後ろから付いてくる3人を振り返った。


「みんなは舞台袖で見てるんだって。何か危険があったら助けてね」


 しばらくすると、5人の目前に大きな建物が現れた。


「ここが今日の会場よ」


 アリアが入り口の扉を開いたので、4人は中に入った。ホワイエを通り過ぎ、アリアが「大ホール」の扉を開いた。


「今日はここが会場。私たちはもうこっち側に来ることはないから、今のうちに目に焼き付けておいてね」


 4人はその美しい煌めきに見惚れていた。繊細な彫刻があちこちを飾り、天井からは美しいシャンデリアが吊り下げられている。


 その後、一行はホール舞台裏へと移った。アリアが4人を前に話し始めた。


「じゃあ、3人はこの辺で待っていてね。隙間からこちらが見えるから、見たかったらそっと見てていいからね。で、ルーカスはあの辺に座るの。今はまだ椅子が置かれていないけど、もうすぐ置かれると思う。入るときは私と一緒に入るからね」


 そう言い残すと、アリアは館内の従業員の元へ何やら話をしに行ってしまった。ルーカスはその隙に、他の3人にボソボソと話をした。


「ベン、ユー、あなたたちは来る人がどんな人たちか、きっちり見ておいて。アオイは、とにかく私の身の回りに何か起こらないか見ておいて。それと、アリアの表情にも気を付けておいて。私はどちらも見ておくけど、どちらかというとアリアに注目しておくわ。よろしくね」


 アリアが4人の元に戻ってきた。


「開始は11時30分。11時20分ごろにはここに集まってね。それまでは自由にしていて」


 現在は10時50分。4人はしばらくホールを見て回っていたが、15分ほど経ったところで舞台裏に戻り、キッチンで語り合った続きを始めた。


 この時間がたまらなく嬉しい。ストレスの発散にもなる。


 4人は本当にそのように感じていたが、楽しい時間はすぐに過ぎ去るものだ。気が付けばさらに15分経っていた。




 アリアがどこかから帰ってきたので、ルーカスは一緒に舞台へ進んだ。客席側にはちらほら人の姿があった。ざっと見て百人ぐらいだろうか。


 会議が始まると、アリアがルーカスを紹介し始めた。


「こちらにいるのは、ルーカス・ダラン。私に代わり貿易商人となり、皆様と貿易の発展に取り組んで参りますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 ルーカスは立ち上がり、一礼して演台に向かった。


「はい、ただいまご紹介預かりました、ルーカス・ダランです。本日はご足労いただきまして、誠にありがとうございます。心より感謝いたします。僭越ながら、アリア・グリーンに代わりまして、貿易商人となり、そして、ここ、ハルセロナの港の管理人としても、アリアの素晴らしい仕事振りを引き継いで参りたいと思っております。皆様、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます」


 ルーカスは1歩引くと一礼し、先ほどまで座っていた席に戻った。代わるようにアリアが演台に立った。


「それでは、彼女の就任に賛成の方は拍手をお願いします」


 アリアがそう言うと、小さな拍手が起こった。こんなものか、とルーカスは思ったが、次にアリアはルーカスの方を見て「魔法」と声に出さず言っていた。


 それを見て、手の平に小さなフィーレを作り出し、それをフォトンで客席の上部に移動させた。フィーレはそこで儚く消えた。


 しかし、それを見た人々は、先ほどまでは何だったのか、と思ってしまうほど大きな拍手を響かせた。


「ルーカス、これからは君の時代だ!」

「ぜひよろしく頼む!」

「時代が変わるぞ!」

「ルーカス様、だろう?」


 などと、いくらか叫び声まで聞こえてきた。ルーカスは立ち上がり一礼してから座ったが、より拍手が大きくなったので再び立ち上がり何度も礼をしていた。


 しばらくして本日の議題は終了したとのことで、会議は盛大な拍手と共に終了した。舞台袖に戻ってきた際、ルーカスはアリアに問うた。


「マージってだけで、どうしてあれほどまでに態度が違うの? おかしくない?」

「なんでだろうね」

「マージを崇拝しているオーム、ってところかしら」


 ルーカスはそう言うと、アリアは首を縦に振った。


「そういうところはある。だから、私は全然認められない」

「認められない、ってどういう意味?」

「……どこかで話すわ」


 アリアは暗い顔でそう答えたが、直後パッと笑顔を作ると、手を叩いて3人の方を向いた。


「みんな、お疲れ様でした! 特に何も問題は起こらず、無事終了することができました」


 アリアがそう言うと、みんな安心したかのようにホッとした顔をしていた。


 5人はホールから出ると、家に戻る前に港に寄ることにした。


「ここが港。海に水はないけど、人々はマージを雇って、宙に浮きながらここに来るの」


 アリアが指を差しながら説明した。その指の先に、遠くからやってくる浮いた船があった。


「私は明日からここに来ればいいの?」

「そう。そして、そのときにいる人たちだけでいいから、挨拶をするの。簡単でしょ? できれば朝、昼、夜の3回してほしわ」

「言っていたとおりね、わかった。それであなたは何をしてくれるの?」

「私はあなたの助手。好きなように遣ってくれたらいいから」


 そうなのね、と呟くと、アリアは港を背にして歩き出した。


「じゃあ私は戻るわ。時間が早いから、観光でもなんでも好きにしててね。晩御飯はまた作るから」


 アリアはルーカスたちに伝えると、家に向かって歩き出した。


 いや、私たちお金がないから観光も楽しめないんだけど……、とは言わなかった。


「今日は久しぶりに散歩でもしようかしら。久しぶりにゆっくりできるんだし」


 ルーカスはアオイに向かって手を伸ばした。


「昔みたいに、走ったりする?」


 笑顔のルーカスにアオイは笑顔で応えた。


「行く行く! じゃあ2人はまた夕方にね!」


 アオイはルーカスと並んで走っていった。一方で、ベンとユーは顔を見合わせていた。


「俺たちも散歩するか」

「そうだね」


 ため息が揃った2人はゆっくりと歩き始めた。


「お前は、両親ともマージなのか?」

「うん、そうだよ。ベンくんは違うって言ったよね?」

「ああ、そうだ。両親ともオームだったが、たまたまマージで生まれてきた。……ユーはさ、ヘルロンの洞窟であの蛇を倒さない、って言ってたじゃんか。俺はなんとなく気持ちはわかるよ。だって、あいつ自身に罪はないんだからな。ルーカスが傷付いたことは許さない、けど、お前の考え方は尊重したい」

「そっか……、ありがとう。僕自身も、本当にあのときは申し訳なかったと思っているんだ。でも、あのときは、僕の倫理に反することが、僕はできなかった。……きっと僕も3人も、想いは一緒だったんだよね。彼を助けたい、ただそれだけだった。たまたま、助けられない状況になっただけなんだよね」

「……そうだな。俺もアオイも、お前を憎んだりはしていない。それはきっとルーカスも一緒だ。ただ、仲間を傷付けるな、それだけ。お前に考えがあることは知っている。そして、それを尊重しきれていない俺たちにも問題はある。けど、まずは仲間を守ってほしい。そうでないと、他人を守ることも難しい」


 2人は広い交差点を曲がり、海岸に並行する道に沿って歩いた。


「本当にそう思う。一緒にいるということは、命を預け合っているということ。僕1人の考え方で誰かが傷付くことはあってはならない。そうだよね……」

「大丈夫。きっとみんなわかってる。そう暗い顔せず、一緒に後世に行こうぜ」


 2人は傍の店を端から入って楽しんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ