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二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
34/143

12 イレージュ村 ①

 ベールの市街地から離れるにつれて、辺りは一段と暗くなっていった。


「ここをそのまま北上すると、ケルン地方に抜ける。そこをさらに北上すると、ハルセロナ地方に到着する。そこで、ケアノス海峡を通って対岸のアイアン島に向かう。僕の調べでは、それが最短ルートなんだ」


 ユーが説明した。さらに彼は、ケルン地方のイレージュ村に一度訪れ、十分に休息をとるプランを提案した。


 全員、それに同意した。


 道中、ベンはふと疑問に思ったことをユーに尋ねた。


「そういえば、どうしてお前はベールの市街地であんなに普通に暮らしていたんだ?」

「簡単だよ。マージだとバレないようにしていたんだ」


 ユーは笑って答えた。


「最初からそうしていたのか? よくあそこのことをわかっていたな」

「マージを嫌いな地方は少なからず存在するが、オームを嫌いな地方はあまりない。それなら、オームだと装っておいた方が都合がいいんだよ」


 しばらく進むと、「ケルン地方はこちら」の看板が見えた。木製のその看板はかなり朽ちていた。


 その看板の指す方に進むと、次第に辺りが明るくなっていった。どうやら、この辺りはマージの管理が行き届いているらしい。


「ちょっと止まって!」


 突然のルーカスの言葉に、全員すぐに立ち止まって姿勢を低くした。


「あそこ、見える? きっとベールとケルンの境界よ。けど、何人か人の姿が見える。警備だと思うわ。境界に壁があるのは珍しいわね」


 ルーカスは声を殺したまま、さらに続けた。


「あそこを強行突破するのは乱暴。一体何があそこで求められているのか、ここから見ておきましょう」


 しばらく木に隠れて遠くから警備の様子を見ていると、数人の商人であろう人々がそこを通ろうとした。何か紙を見せた後、警備の人たちが彼らの押してきた手押し車の中身を確認した。しばらく確認が続いたが、ようやく終わると、1人ずつ境界の門を通過していったが、1人だけ止められた者がいた。その人は警備の人に説得していたが、とうとう断念したのか、来た道を引き返していった。


「ここからは詳しく見えないから推測だけど、必要なものは、立ち入りの目的を記した資料ね。あの返された人は、目的を逸脱したものを持って入ろうとしたに違いない。だから返されたのよ」

「だったら、俺たちはどうやってあそこを通る?」


 ベンだ。


「資料はもちろん何もない。だから、……仕方がないけど、変装と、静かな強行突破ね」


 4人は作戦を練った。


「いい? ローブを裏表逆に羽織って、どこの学校かわからないようにする。フードは深く被って、顔が見えないようにする。きっとあそこで、通行証か何かを提示するよう求められるわ。一度は旅人だから持っていないと言う。それで通してくれなかったら、あそこの3人をできるだけ音を立てずに仕留める。殺す必要はないわ。その後速やかにケルンに入って、イレージュ村まで直行する。それでいい?」

「他の場所から柵を乗り越えていくのは?」


 アオイが尋ねた。


「ダメ。きっと魔法で結界を張っている。唯一の穴があそこよ」




 4人は予定どおりローブを裏返しに羽織り、フードを深く被って、警備をしている人に近付いた。


「すみません、ケルンに入りたいんですが」


 ルーカスが言った。


「通行証は持っているか?」

「いえ、旅人ですので、持っていません。ただ、ここを通ってハルセロナの方に行くだけなので……」

「通行証を持っていないならここは通れない。役所で発行してもらうんだ」

「どうしてそんなに厳しいんですか。何も悪いことはしませんから」

「知らないよ。俺たちは雇われてここにいるだけなんだから。それより、通行証を持っていないなら早く帰ってくれ」

「それは困りますね……」


 ルーカスはそう言って、フードを外した。それを見て、他の3人もフードを外した。


「通行証はないけど、悪いことはしないから許してね」


 そう言うと、4人は一斉に3人の警備員に飛びかかった。


 オームだったようだ。誰も魔法を使うようなことはせず、あっさり通ることができた。


「もう少し聞かなくてよかったのか?」


 ベンがルーカスに言った。


「いいわ。彼らに聞いてもあまり知らなさそうだったし」

「ルウ、後ろから2人、私たちをつけてきている」


 アオイがいち早く追手の存在に気が付いた。


「私たちがあそこを通ったことはバレバレだったのね。……前の広場で迎え撃つ。少し早歩きで」


 一行は前方に見える広場まで行くことにした。


「それにしては、気付かれるのが早いな」ベンだ。

「あそこに立っていた3人の他に、見張りがいたんだと思う。私たちは魔法を使わなかったけど、今回みたいにマージが来たときに対処できるようにしているんでしょうね」


 話しているうちに、例の広場に到着した。


 一行は横に並び、一斉に振り返った。


 目線の先には、確かに2人が立っていた。2人ともローブを羽織り、フードを深く被っていて顔がよく見えない。


「誰? そのフード、外したら?」


 ルーカスが2人に向かって告げた。しかし、返事はない。


 ベンがルーカスに耳打ちした。


「おい、あのローブ、見たことないぞ。どこのだと思う?」

「わからない。けど、学校のローブではないような気がする……」

「あなたたちは、不正にケルンに立ち入ったという大きな罪を犯した。ここケルンは、今は現代魔法研究所の支配下にある。あなたたちは、今日から、現代魔法研究所の管理に基づく、ケルン地方刑務所にぶち込まれることになるのよ!」


 女の声だ。ルーカスの嫌いなタイプの声だった。


「無理にあそこを通行したことは認めるわ。けど、今はケルン地方が現代魔法研究所の支配下にあるって、どういう意味?」

「あなたはそんなこともわからないの? 可哀想なうさぎちゃん。言葉どおりの意味よ。私たち、偉大なる現代魔法研究所がケルン地方を支配した、ただそれだけの話」

「うさぎちゃん……。それで、あなたたちは私たちをどうするつもり?」

「簡単よ。今ここであなたたちをきっちり痛めつけた後で、刑務所にぶち込み、至極残念なラストライフをそこで送るまでの道筋を作ってあげるのよ」

「至極残念なラストライフ……。あなたは現代魔法研究所の研究員なのね」

「ただの研究員じゃないわ。ケルン地方の刑務所に悪人をぶち込むのが大好きな、とーっても華麗な戦闘員よ」

「おい、イザベル・モンテ。あまりアホらしいしゃべり方をするんじゃねえ」


 隣の男が言った。かなりかすれた声をしている。


「うるさいわね、ロン。あなたはもっとはっきりしゃべりなさいよ!」


 イザベルとロンが何やら揉め始めた。ルーカスは他の3人に合図して、その場を離れようとした。


 しかし、それは無意味だった。ロンの魔法で4人は瞬間的にイザベルの目の前まで飛ばされた。そして、それに気が付いたときには、イザベルの足が4人を順番に捕らえていた。そして、広場の奥にある建物にまとめて蹴り飛ばされた。


「ぐはっ、強い……。どんな足してるんだ、あいつ……」


 ベンがたった1発の蹴りで血を吐き出していた。他の3人もそうだった。


 これまで出会った中で最も強い、圧倒的なパワーがあった。


「みんな、聞いて……」


 ルーカスが話そうとしたが、すぐにまたロンが4人とイザベルの間の空間を切り取った。そして、再びイザベルの蹴りが激痛を与える。


「おい、ユー。お前、あの空間系魔術の奴をどうにかできないのか……?」

「できないよ……。こっちがどうにかする前に、奴らにやられる……」


 イザベルの声が聞こえてきた。


「ちょっと、もしかしてそんなに弱かったの? 先にそう言ってくれたらよかったのに。痛めつける前に刑務所に入れてあげたらよかったわね!」


 そう言いつつも、再びイザベルは凶器の足でルーカスたちを襲った。


 瓦礫に埋もれながら、4人だけに聞こえるようにルーカスが言った。


「聞いて。……あのイザベルっていう女の魔法は特殊魔法よ。きっと、力を集中させることができる魔法。……だからあんなに足に力を加えられるの……」

「それがわかっても、どうしようもないだろ……。もう俺は……動ける気がしねえ」ベンが弱々しい声を振り絞って出した。


 4人は再びロンによってイザベルの前まで来たが、今回はイザベルは4人を襲わなかった。


「もう十分ね。もう動けない! って顔しているわ」


 そう言うと、ルーカスの頭の近くにしゃがみ込んだ。


「それと、このうさぎちゃん、ずいぶん頭が冴えるそうね。こういう子は、焦って殺しちゃダメなの。じっくり拷問して、たくさん吐き出してもらわないと。この子たち、私たちのことを随分と嗅ぎ回っている」


 イザベルはそう言いながらルーカスの頬を撫でるものだから、ルーカスは腹の底からイザベルを殺したいと思っていた。


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