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二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
30/143

9 ウラノン城(二) ④

「ルウ!」


 アオイが暗闇に向かって叫んだ。


「アオイ? よかった、無事だったのね。……そちらは?」


 ルーカスはフィーレでわずかに見えるマリアの方を見て目を丸くした。


 4人は暗闇の中を少しずつ城から離れて歩いていった。


「リバースを使えるらしい。それと、金の燭台も手に入れた」


 ベンはそう言って、金の燭台を掲げた。


「そう……。ありがとう、2人とも」


 ルーカスはそう言って、涙をこぼしそうになったが、すぐにベンが彼女の元に歩み寄った。


「泣くなよ。それより、早くしよう」


 4人は少し離れたところで現れた途中の穴から地上に上がり、兵士たちで混乱している城門を駆け抜けると、ヘルロンの洞窟から続いていた洞窟に戻るため、丘を駆け下りていった。ベンに背負われたルーカスは振り返り、城を数秒間だけ眺めたが、アオイ、ベンは振り返ることはなかった。そして、マリアさえも――




    ◇◆◇




 最初にウラノン城に来たときの洞窟まで来た。左と右に行くことができるが、右側はヘルロンの洞窟に続いている。一行は左側に進むことにした。


「ここの洞窟は、きっと外にいるよりは安全だろうな。ここに来るまでも誰とも会わなかったし。だから、ここでルーカスの足も……」


 ベンは先導して3人に告げた。


「……本当にいいの、マリー?」

「ええ、あなたの仲間は私の仲間も同然。それに、私がやらなくても、いつかは誰かがしないといけない」


 マリアはそう言うと、金の燭台をルーカスの前に置いた。


「あなたの名前は?」


 ルーカスがマリアに問うた。


「私は、マリア・テレシア。あなたは?」

「私はルーカス・ダランよ」

「……もしかして、ダランの学長の娘さん?」

「そう。知ってるのね」

「私はダラン卒業だから」


 それから少しだけ談笑したが、マリアは気持ちを切り替えて真剣な表情になった。


「じゃあ、リバースをします……」


 マリアがそう言った直後、アオイはマリアのそばに行き、数秒間彼女の手を握った。そして、何も言わずにその場から離れた。


 マリアが金の燭台に手を伸ばすと、突然、辺りが青い光に照らされた。アオイもベンも、思わず手で目を隠した。


 事はほんの数秒間だった。光が消えたのがわかりアオイとベンは手を退けると、マリアがそこに倒れているのに気が付いた。


「マリー!」


 アオイは駆け寄った。


 他方、ベンはルーカスの方に駆け寄った。


「足はどうだ?」

「……戻ってる」


 ルーカスは驚いた表情で足を見せた。


「マリー! マリー!」


 後ろからアオイの必死の叫び声が聞こえ、2人ともそこに駆け寄った。


「大丈夫か?」

「目を閉じたまま……」

「やっぱり、ダメだったのか……」

「やっぱり、って?」


 ルーカスの問いに、ベンは詳細を説明した。


「……そうだったのね。私は一体……」

「いや、ルーカスは悪くないよ」


 ベンはそう励ましたが、ルーカスは顔を曇らせたままだった。


 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはマリアだった。


「んん……、あ、あ! ……生きてる!」

「マリー!」


 アオイは彼女の肩を揺すった。


「え、私、生きてる! 生きてるよ!」


 マリアはすぐにアオイを見て自らの無事を再認識した。


「ルーカスの足は完全に失われたわけではなかった。きっと空間系魔術でどこか異界に飛ばされていたようなものだったんだろう。それを取り戻すだけでよかったから、あまりエネルギーを使わなかった。だから代償は小さくて済んだ……というところなのかな」


 ベンが推測した。


 マリアの大量の血が金の燭台に溜まっていた。


「とにかくよかった。マリア、血を消費しすぎたんじゃないか? それに、これから行く場所もないだろう。遠いが、アールベストに戻るか?」

「いや、待って、ベン。あそこがウラノン城なら、私たちはもう少し東に行ったところで北上すれば、ベール地方に出られるはず。そこは安全な町として知られているわ。そこならここから近いし、マリアがゆっくり休めると思う」

「なるほどな。それならそうするか」


 マリアは、ルーカスが提案したベール地方に行く案に賛成した。


 ルーカスたちは、まずはこの洞窟を東方向に進み、途中で出られるところで外に出て、そこから北上するということで合意した。


 アオイはこの後、マリアが最初にリバースを使ったのはいつだったのかと確認した。曰く、まだダランに通っていた頃、父親がアールベストの町工場で働いているときに手首を切り落としてしまったらしく、それを復活させたのが最初だった。その際も今回と同じように、強大な魔力を必要としなかったため命を落とさずに済んだということなのだろう。


 だが、たとえそうであっても、彼女が死ぬ確率は着実に高まっているということに変わりなかった。


 ちなみに、マリアの家族がウラノン地方に戻る契機となったものは、その事故だったという。概して、マリアは両親に振り回され続けていたということだ。その両親は、ウラノン地方の中心部に住んでいるらしいが、長らく会っておらず、もちろん前世に落ちてきているのかどうかも不明なままだという。


 ほんのわずかな時間の休憩をとった後、新しい仲間と共に、一行は暗闇に消えていった。


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