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二つの世界  作者: Meeka
第二章 前世
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5 ヘルベルト・ルイスの書斎 ⑤

 ベンは座り込んでいた。ルーカスがそこに現れると、彼はすぐに彼女に気が付いた。


「大丈夫だったか? 何かあったか?」

「大丈夫。それと、中には人がいた」


 ベンは怪訝な顔をした。


「人? こんなところに? 観光客か?」

「違うわ。ここに住んでいるみたい」

「な、なるほど……」

「現代魔法研究所の人たちは私たちよりずっと強いから、もし行こうと思うなら、まずはヘルロンの洞窟の大蛇に勝て、って言ってたわ。それと、ここは現代魔法研究所に調査され尽くしているから、何もないぞって」

「ヘルロンの洞窟の大蛇? ……全く聞いたことないな」

「私もわからない……」


 ルーカスはベンの左隣に座った。そして、右手で彼の左手をそっと握った。彼女は無意識のうちにそうした様子だった。


「私たち、この先どうなるのかな……」


 深いため息をついた後、ルーカスが声を出した。


「どう、って?」

「私たちは後世を目指している。けど、本当に行けるのか……。それに、もし行けたとしても、その後どうすればいいのかわからない」

「そうだな。でも今更考えても仕方がないだろ。もしそう思うなら、ここで死んじまうようなもんだ」

「……確かにそうね」


 ルーカスは、ベンの手がいつの間にか自分の手を包み込んでいることに気が付いた。そうして、やっと、自分が誰かに支えられて生きていること、また、誰かと共に生きていることを強く認識した。


「アオイとユーはどうかしら。うまくいっているかな……」

「なんにも音がしないからわからない……。でも、きっとなんとかしてるだろ。とりあえず、ここから早く出よう。ルーカス、もう一度フォトンを使えるか?」


 ルーカスは自分の手をしばらく見つめてから言った。


「うん、大丈夫。やってみる」


 ルーカスは再びフォトンを使い、ベンの下にある蓋をゆっくりと持ち上げてみた。それは本当にゆっくりではあったが、見る見るうちに高く上っていった。


「いけるじゃん! 大丈夫だよ、これだったら。上に戻ろう」


 ベンはルーカスに声をかけた。


 少し上がったところで、2人はある人の声を聞いた。


「ベンくん!」

「おう、ユーか。大丈夫ならもう出よう。ところで、ルーカスがこの井戸の底に住んでいる人と話したようだ」


 その続きはルーカスが引き受けた。


「この井戸に住んでいる人が言ってたわ。ここは以前、現代魔法研究所によって調査され、そのほとんどの書籍などは持ち出されたらしいの。だから、今はほとんど何もないみたいなの。だから、早く出ることにしましょう」

「待ってよ。そうかもしれないけど、僕たちは収穫がなかったわけじゃないんだ」


 ユーはまず手に持っていた本を掲げた。


「この井戸にヘルベルト・ルイスが住んでいたことはほぼ間違いないんだけど、彼を支援するマージがいたと考えられる。彼はオームだったからね」

「どういうこと? ここはヘルベルト・ルイスが暮らしていたんじゃないの?」

「そう。でも、たぶんもう一人ここを出入りする人がいたの。そもそも、オーム一人じゃここから出入りできない」ユーに代わりアオイが答えた。


 そして、部屋の数のこと、ヘルベルト・ルイスの文字のことなどを伝えた。


「なるほど。そういえば、あの人はいつからここにいたんだろう……」


 しばらくして、4人は井戸から出た。そして、井戸の蓋を閉ざし、近くの木の下に身を寄せ合った。


 ルーカスはその間、井戸のそこで出会ったヘッセルのことを考えていた。


 ある程度年は取っていそうな声だった。顔はよく見えなかったが。一体何者だったのか。信用してもよかったのだろうか。


 いずれにせよ、現代魔法研究所に行くことは必須だろう。したがって、彼の助言どおり、ヘルロンの洞窟の大蛇と戦うことになるだろう。


 彼らは情報を共有し合い、そして本を詳しく読んだ。




    ◇◆◇




 ここに来てわかったことがある。ユーの持ってきた本が多くを教えてくれた。


 まず、ヘルベルト・ルイスが確かにオームだったということ。そして、彼はハワード・セリウスの行動がおかしいことに気付き、密かにその後を追っていた。すると、彼はハワード・セリウスがオームであることを知る。アイザック教会群遺跡であの男とのやりとりを見たのだろう。


 ハワード・セリウスは度々そこを訪れていたようだ。そして、ある男に不死の力を求めたという。詳細にどのような人物なのかは記されていないが、その男は「不死の力」を手に入れていたということだ。その男とは、きっと、あの男のことで間違いないだろう。


 また、アオイたちが行った部屋にあった文字は、やはり現代魔法研究所の仕業なのだろうと結論づけた。調査のために書斎側の入り口を封鎖したのだろうと。そのため、「ヘルベルト」の文字は本人なのだろうが、「立ち入り禁止」は現代魔法研究所が書いたということだ。




 一行はしばらくその場で休んでいたが、大きな一歩を果たしたことで彼らはいつまでも座っておく気分ではなかった。一刻も早く次へ進みたかったのだ。


 彼女らはヘッセルの助言どおり、ヘルロンの洞窟に行くことにした。そこで、その後に起こりうるであろう戦いのため経験を積んでおくのだ。彼らはまだ戦闘においては未熟者だった。だからこそ、現代魔法研究所に行く前に、そこで実力を測る必要があった。


 しかし、彼女らはヘルロンの洞窟に行く道中、ヒールフル地方のヒールフル砂漠を通らなければならないことを把握していなかった。したがって、彼らは砂漠を横切るための準備を何もせずに、ヘルベルト・ルイスの書斎を出て東に向かったのだった。


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