26 儚くも哀れな歴史 ③
前世はこのように大変な生活を強いられていたのであった。そうして、前世の人々は後世に戻りたいという強い望みを持っていくこととなる。
しかし、その希望とは裏腹に、後世では安定した生活を送れているわけではなかった。人々はさまざまなものを失い、家や大切な人を失った者もいた。
人々は世界皇帝を責めるようになった。自分たちを苦しめているのはマージであり、彼らの魔法の意味付けを行なっているのが世界皇帝だからだ。無論、世界皇帝自身は何も行なっていないのであるが、彼は魔法の管理責任という観点から反感を買うようになった。
前世の人々が知りもしない間に、後世での世界皇帝下ろしの運動は活発化し、第五代世界皇帝のシャルル・ルードビッヒは世界皇帝御所から亡命し、行方をくらますこととなった。それがロマンス時代22年のことだった。すなわち、ロマンス時代23年に15歳だったルーカスたちが前世への旅を始める頃には、すでにシャルル・ルードビッヒは世界皇帝御所に存在しなかったのである。
何も知らぬままルーカスたちは後世に到着したが、見た光景は希望に満ち溢れた街並みではなく、荒れ果てた廃墟の連続だった。人々は魔法の管理者がいなくなったことに、このとき初めて後悔することとなった。それまである程度保たれていた秩序が、突然権力の欠落とともに崩壊したのである。
それでもなお、なんとか生活していた人々だったが、その努力は現代魔法研究所に吸い取られつつあった。食料問題に想起されるように、世界皇帝がいなくなった世界では現代魔法研究所が新たな統治者となったのだ。それも、恐怖の統治者として。
現代魔法研究所の研究員たちは後世であらゆる地方を回り、あちこちから金になるものや食料、時には人まで奪っていった。それらを研究員たちで分けていたのである。魔法を管理する人がいなくなったために怖いものがなくなり、縦横無尽に活動できるようになったわけだ。
人々は現代魔法研究所に対し恐れ、時には反抗するようになった。しかし、オームが研究員たちに勝てるわけもなく、街は崩壊していったのだった。そうして、ルーカスたちが後世に来たときには、人々は前世より前世のような生活を送っていたのだった。
この時点で、カクリス魔法学校の画策は失敗だったとも言えるだろう。もともとはルードビッヒ家が世界皇帝となったことに憤りを感じていた彼らであったが、ルードビッヒ家を退けたところで次に誰を世界皇帝にするかは考えていなかった。むしろ、あえて考えないことで、現実的にカクリス魔法学校学長または現代魔法研究所所長が世界皇帝的存在になるという考えだったのかもしれない。
いずれにせよ、現代魔法研究所は自分たちが支配している後世を守るため、誰も前世から後世への移動をしないようグラン・ドールを守っていたのだった。研究員には、「ダラン寄りの人間が後世に戻れば、再び世界が混乱の歴史を繰り返すだろう。それを我々は守っていく」との口実を言い聞かせていたようだが。
◇◆◇
ルーカスたちは一件の黒幕だったカクリス魔法学校学長と現代魔法研究所副所長を打ち破り、晴れて人々を恐怖の数年間から救うことができた。さらに、コントロール系魔術でグレート・トレンブルを逆向きに起こすことができることを知った彼女は、魔法を発動し世界を戻すことを決心する。
このとき、彼女の心には、この問題を解決するためには彼女自身がその手で世界を戻すために魔法を発動する必要があると感じていた。
ルーカスは当初、果たしてうまくいくのかと不安の渦中にあり、魔法の発動を躊躇っていたが、ベンの言葉を信じ、ようやく行うことができた。
しかし、もう二度と同じ魔法を使うことはできないだろうと思えるほどの大量の血液を消費したのと引き換えに、すべてが前世に落ちていくという現実だけが彼女の目の前に残った。
彼女は絶望し、一方で、自分たちが歩んできた道を、きっと誰かが通って来るだろうことを祈りながら、この手帳にすべてを綴ったのであった。次の世代の人々には失敗してほしくない、自分自身が体験したことを絶対に繰り返してほしくない、という思いが胸の中で騒いでいた。
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あと少しで「二つの世界」は終わりますが、最後までどうぞお付き合いください(^ ^)
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