17 カクリス魔法学校(一) ④
客車内は再び静寂に包まれていた。真夜中になり、外はもう真っ暗だった。アレックスがフィーレで前方を照らしているが、両サイドは森の中にいることもあってか、数メートル先に木が立っていることしか見えなかった。
ルーカスは目を開けていたが、ソフィアが少し前に寝てしまい、それに安堵したのか、アオイ、エマ、ベンも気が付けば寝ていた。ユーは起きているが、先ほどからずっと俯いたままだった。ルーカス自身も、しばらくずっと黙っていた。
沈黙を破ったのは、全く別の人物だった。
突然馬車が止まったかと思えば、アレックスが勢いよく扉を開いた。
「みなさん、急いで降りてください!」
アレックスの声に、全員が目を覚ました。
「突然どうしたんですか!?」
ルーカスは驚きを隠せず、その場に立ち上がった。
「いいから早く!」
次の瞬間、客車が大きく傾いたかと思えば、後ろ向きに転がり始めた。そして、そのままの勢いで立ち並ぶ木々に直撃し、客車は天井部分が外れ、中にいた6人は外に投げ出された。
「……一体、何?」
馬車馬は先に逃げ出したようで、姿は見られなかった。立ち上がったルーカスの他に立っていたのは、アレックスだけだった。
「今のは一体?」
「突然のことでした。手綱が燃え始めて、馬を急遽止めたのですが、その後すぐに軛が燃え落ちて、完全に馬と切り離されてしまいました。何者による仕業かは不明で、とにかく危険だと感じ皆様をお呼びしたのですが……」
「先に何者かに攻撃された、ということね」
ルーカスは辺りを見回した。いつの間にか、他の5人も立ち上がっていた。
「出てきなさい」
ソフィアがそう叫んだ直後、道の奥から1人が歩いてきた。
「もっとやっておけばよかったわ」
「その声は……!」
ルーカスは彼女に向かって走って行こうとしたが、ソフィアの魔法により時間が戻され、元いた場所に戻る羽目になった。
「どうしてここに? それに、この馬車には私たちも乗っていることはわかっていたんでしょ?」
「ごめんね、ルーカス。だけど、そちらの同乗者を捕らえるためには絶好のチャンスだったから。……死なない程度にと優しくして失敗しちゃったけど」
シーナはソフィアに視線を移した。
「おやおや、現代魔法研究所のシーナ・ダース指導官。そして、同時に、ダラン総合魔法学校のシーナ・ダラン校外調査員でもある。こんなところでお目にかかれて大変光栄なこと」
ソフィアは上から目線な口調だった。自分の方が実力的に上だと認識しているのだろう。
「久しぶりね、ソフィア・カクリス。カクリス魔法学校の一教員でありながら、学長の妻であり、マージの中でも最高レベルの魔法の使い手……」
「あなた程度が私に勝てるとでも? 見縊られたものね」
ソフィアは顔を顰めた。だが、シーナはすぐにフィーレの火柱をソフィアに向けて発生させた。
ソフィアはすぐさま後ろに飛んだが、それを見越してシーナは背後の空間を切り取ろうとした。しかし、ソフィアはその空間の時間を戻し、身の回りを安全なものにすると、今度はシーナに向かって1歩進み、自分の時間を進めることでシーナの目の前まで瞬時に移動すると、その勢いで首を鷲掴みにした。
「あらあら、貧弱ね」
「フォトン!」
ルーカスは客車をソフィアに向けて飛ばしたが、直後、ソフィアはシーナをルーカス側に持ち上げ、即座にフォトンを止めたものの台車はそのままの勢いでシーナに直撃した。
「お前バカだね。これだから実戦経験のない連中はダメなのよね」
ソフィアはシーナの首を掴み上げたまま、高らかに笑った。
「いい土産ができたもんだから、こいつも引き摺って帰ろうかな。アレックス、馬車は出せそうかい?」
「ダメです。馬がもう行ってしまいました。歩くか、誰かがここを通るのを待つしかありません」
「なら、こいつの魔法に頼るか」
ソフィアは、シーナの首筋に袖から出したナイフを突きつけた。アレックスの出しているフィーレの炎が生々しくその光景を映し出していた。
「おい、アープ使えるだろ。使え」
「8人分も無理よ!」
「無理なら死ねばいい」
ルーカスは後ろから叫んだが、ソフィアに一蹴された。シーナはすでにかなり傷を負っていたが、ソフィアは容赦なく彼女を使おうと考えていた。
「お前ら、全員ここに来い」
最初ルーカスたちは躊躇ったが、ソフィアがシーナの首筋にナイフをわずかに食い込ませたため、従わずにはいられなかった。
全員が周りに集まると、シーナが弱々しくアープを唱えた。8人は直後に姿を消したが、その場には大きな血溜まりができていた。
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