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二つの世界  作者: Meeka
第三章 後世
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12 エザール砂漠 ①

 ルーカスたち一行がアープで飛んだ先で、まず最初に見えたのは砂の丘だった。つまり、その場所からはまだ世界皇帝御陵は見えなかったのだ。


「もう1回飛ぶか?」とベン。


 だが、毎度のことながら、4人分のアープは結構な重労働だ。ルーカスは顔色が悪かった。


「ごめん、ここからは歩くことにしよう……」


 声からもわかるようにルーカスは辛そうだった。そのため、今回はベンが先頭を歩くことにした。


 しばらく4人は黙って歩いていたが、歩き続けても砂の丘が続くだけの現状に飽きつつあった。


「なあ、ユー。砂漠を歩くのにいい方法はないのか?」

「うーん、そもそも砂漠を歩き続けることはあまりないからね。頻繁に歩く人だったら、ラクダを連れていたりするけど、なかなか僕たちはそうすることがないから、辛いだけだね」

「なるほど。つまり、最初の準備が悪かったということか」

「……そういうことになるね」

「でも、前世でヒールフル砂漠を歩いたときは、なんとか歩き切ることができたよね」


 アオイが前世の思い出を話した。


「ヒールフル砂漠は砂だけじゃなくて、どちらかというと石が多く含まれているからね。向こうのほうがずっと歩きやすかったんだよ、きっと」


 ユーの答えを聞いてアオイはため息をつくと、ルーカスの背中を摩り元気付けることに努めた。


「それにしては、まだ出てこないのかよ」


 ベンはかなり退屈していたが、直後、突然砂の丘が動き始めた。


「なんだ? 地震か?」


 しかし、その揺れは地震でもグレート・トレンブルにも似つかないものだった。


 次第に揺れは大きくなり、思わず立っていられないかと思ったとき、突然目の前に巨大な穴が広がった。砂が見るみるうちにその穴に吸い込まれていく。


「ここも危ないかも!」


 アオイがそう言ったのは虚しく、4人も穴に吸い込まれるように砂と共に落下していった。




 頭上からは陽の光が差し込むが、驚くことに、穴の中にはフィーレの炎が灯されていた。


「ここには誰かが出入りしている、ということか……」


 ベンが独り言のように呟いた。フィーレの炎が灯されているということは、誰かが近くにいると考えてもよいだろう。


「随分と落ちてきたのね……」


 ルーカスはゆっくりと見上げた。


「だな。だが、ここは後世だ。よかった」


 ベンの言葉には誰も反応しなかった。


 一行は奥に続く薄暗いトンネルを進んだ。しかし、すぐにルーカスは立ち止まった。


「この先、少し危険な気がする」

「どういうこと?」と前を歩くユーが振り返った。

「だって、たまたま落ちた穴があって、その穴は何かのトンネルに繋がっていて、そこにはフィーレの炎が灯されている。誘導されているように見えない?」


「確かに……」とベンは立ち止まった。


「とすれば、一旦引き返したほうが賢明か?」

「……だけど、引き返しても意味がないわ。注意してこのまま進みましょう」


 さらに奥に進むにつれ、次第にトンネルの幅は広くなっていった。


「一体どこに繋がるんだろう」


 アオイはルーカスに横で呟いていた。


 が、その答えはすぐに判明することとなった。フィーレが壁から天井まで照らし出す、ドーム型の空間に出てきた。


「まるで、ヘルロンの洞窟のときのようだな……」とベン。

「確かにそうね。けど、ここは少し違うみたい」


 ルーカスは空間の中央部の床を指差した。


「あそこに書いている文字。セリウス家って書いているわ」


 彼女の言葉に合わせるように、他の3人は視線を移した。確かにセリウス家という文字が石に掘られている。その下に、さらに「安らかにここに眠る」と書かれていた。


「つまり、もし私たちが地表を歩いていたら、永遠に辿り着かないところに世界皇帝御陵はあった、ということね」


 そう言うと、ルーカスはユーを見た。


「ユーは、世界皇帝御陵が地下にあることは知らなかったの?」

「知らなかった。ルーカスちゃんもわかると思うけど、地図では場所しか描かれないし、教科書とかにはここの絵は載っていないから。それに、来たことも初めてだよ」

「確かにそうね。エザール地方に住んでいるユーも知らないなら、ここに辿り着いたのは運が良かったというところかしら」


 ルーカスは石を飛び越えて向こう側に行った。


「ここがセリウス家の墓、ということは、この下に3人が埋まっているということかしら」


 ルーカスは石の向こう側からアオイ、ベン、ユーに向かって問いを投げかけた。だが、誰も知る由はない。


「そうだと思う。けど、ルウ、まさか、掘り起こすなんて言わないよね?」

「もちろんそんなことしないわ」


 ルーカスはさらに奥に続くトンネルを指差した。


「向こうに行けば、何があると思う?」

「ルードビッヒ家の墓じゃないか?」とベン。

「私も、もちろんそう思う」


 ルーカスは頷きながらトンネルに入っていった。残る3人も急いでその後を追った。


 進んだ先には、先ほどとは打って変わり、立方体の形の空間が現れた。先ほどよりも少しばかり狭いようだ。中央には周りより一段高くなっている正方形状の部分がある。


「ユー、あの文字を読んでほしい」


 ルーカスは天井の中央部に記された文字を指差した。大きめに書かれているが、そもそも文字自体が読み取れなかった。


「オリアークの言葉だね。神聖なる魂はここに帰る、と書かれているよ」

「つまり、ルードビッヒ家の墓はまだ先ってことね」

「ルーカス、知っていたのか?」


 ベンは不審そうな顔をした。もしルーカスが知っていたとすれば、先ほどからの彼女の様子は矛盾している。


「いいえ、知らなかった」


 ルーカスはベンを見た。


「なら、なぜそんな知っているような顔をしている? そう装っているだけか?」

「ベン、あなたがそう思うのは無理ないわ」

「そ、そうだな……」


 ベンは眉を顰めた。しかし、ルーカスはそんな彼にお構いなしに、さらに奥へと進んでいった。


 さらに奥のトンネルを抜けると、次はセリウス家の墓があったときと同じようなドーム状の空間が現れた。


「ここがルードビッヒ家の墓か……」


 ベンは見上げたが、ここの天井には何も書かれていなかった。その後ろにいるアオイも彼と同じようにしたが、それを認識すると、前を歩くルーカスに目をやった。


「ここに来て、世界皇帝の墓が確かにあることしかわからなかったね」


 アオイはルーカスにそう言ったが、ルーカスは彼女に振り返ると首を横に振った。


「まだわからない」

「まだわからない?」


 アオイは眉を顰めた。


「シーナが教えてくれたの」

「何を?」


 アオイはさらにルーカスに問いただしたが、ルーカスはそれに応えることなく、さらに奥のトンネルへと入っていった。


「ルーカス、何を考えている?」


 ベンがルーカスを止めようとしたが、アオイは彼を止めた。


「ベンくん、待って。ルウなりに何か考えがあると思うわ。私たちの知っていること以上に、何か知っているの」

「でも、仲間なんだから、ちゃんと言ってくれないと困る」


 ベンはアオイの目を見つめたが、アオイは首を横に振った。


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