表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編

   

「こんにちは! 裕子さんもお出かけですか?」

 マンション五階の共用廊下で、エレベーターを待っている時だった。

 後ろから声をかけられて、阿川裕子は振り返る。

 聞き覚えのある声からも明らかなように、よく知っている相手だ。裕子の隣、502号室に住む山藤喜恵だった。


「こんにちは、喜恵さん。ちょっと近くの商店街まで買物よ。お出かけってほどじゃないけど、喜恵さんは違うみたいね」

 薄桃色のラフなブラウスの裕子とは異なり、清楚な白いシャツに爽やかな水色のスカートを合わせている。最近はリクルートスーツ姿の喜恵をよく見かけていたが、今日はおしゃれで可愛らしい雰囲気だ。

「はい、これからデートです。就職活動で知り合った人と付き合い始めて……。今日が初デートです!」

 彼女の顔には、いかにも幸せそうな笑みが浮かんでいた。

 心の中では「それじゃ就活じゃなくてまるで恋活みたいね」とツッコミを入れながら、裕子は微笑んでみせる。

「あらあら、初々しいわね。私も若い頃を思い出すわ」

「何オバサンみたいなこと言ってんですか。裕子さんもまだ若いのに……。それに新婚さんでしょう?」

「新婚といっても、そろそろ一年経つけどね」

「いいなあ、裕子さんは。大学卒業してすぐ結婚だから、就活の苦しみも経験せずに済んで……」

「確かに、その点は旦那に感謝してるわ。でも就活だって、大変な事ばかりじゃないのよね? ほら、素敵な出会いもあるじゃないの」

「えへへ……。そういえばそうでした」

 ニヤニヤ笑う喜恵を見ながら、裕子の心は少しだけ曇っていた。

 自分自身に対して問いかけていたのだ。「まさかこの子じゃないわよね? 私の旦那の浮気相手は」と。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ