知らない恐怖
新キャラ登場です
2人は休憩をしに、森とは別の景色を見に来た。それは海。背の後ろには広い庭がある1つの建物。前には海と空しかない。地球には無い美しい景色。
「何故地球に無い景色を見せるのですか?」
「想像力を豊かにするためです。生まれてからもし、チェリストになった場合、この景色を想像出来たら、伝え方のレパートリーが増え、音色の表情も豊かになりそうじゃないですか?」
「たしかに…生きるのは難しそうですね。そんなことまで考えないとダメなんですか。自由に演奏したいです」
「自由になりたいとは生物全員が思ってることでしょうね。ですが、そうなれば混沌と化し、手に負えなくなります。すると、崩壊し消失します。それは困ります。なので、製造者は人間には高度の知恵をシステムに組み込み、消失を遅らせているのです」
「…製造者がいるんですか?」
「います。どんな方か私も存じませんが、複数いるそうです。資料にはそう書かれています」
「そうですか。もう少し効率よく人間を動かせばいいのに…」
「製造者は人間を動かすことは不可能です。ただ創っただけで、操ることは出来ません。それは生物全てと共通してます」
「操ることは出来なくても、手駒として利用することは可能だと思います。製造者は地球をどんな物にしたいのですか?」
「答えることが出来ません」
「…え?」
「答えることが出来ません」
「セレネーさん?どうしたんですか…」
「…ガガッ……ゥウ-ン……私はセレネー。貴方の案内人です。……E-H様。どうされましたか?」
「こっちのセリフです…どうしたんですか?さっき、製造者について話してたのに、途中でガガッって…」
「製造者…チェロの製造者についての資料はお読みになられたかと思いますが、再度読みますか?」
「チェロのことは今は考えてないです。どうしたんですか…?」
「バグが見つかり、管理部によって削除された可能性があります。お困りでしたら、管理部受付までお問い合わせください」
「削除……」
「ご安心ください。削除されたのはバグのみです。それ以外の貴方の情報は全て記録しております」
セレネーの記憶が少し削除されたことにより、E-Hが不安定になる。今までのセレネーと記録に変化は無いが、接し方が感情の無いただの機械になってしまって別人のように感じたE-H。それがE-Hにとって不安要素になり、E-Hもバグを起こしやすい状態になってしまった。また振り出しに戻るのかと思った時に、新たなペアに声をかけられた。
「E-H様、何かございましたか?」
「…あなた達は誰ですか?」
「私はセレネーと同時期に案内人となった、サニーと申します。こちらは私の主人のモル様です」
「はじめまして」
「はじめまして…」
2人とも優しい雰囲気を纏っていて表情豊かだ。
「…何かありましたか?」
「こちらは何も無いのですが、E-H様から少し不安定な香りがしまして、心配になったのでお声を掛けさせて頂きました」
「香り?」
「サニーは特別なシステムを作れるんだ。管理部に排除されない特別なシステム、個体の感情を香りとして感知できる」
「生物じゃないのに香りが分かるんですか?」
「嗅覚と言うより意識ですかね?自分もよく分かってないんですが、個体に理解して貰いやすい言葉を考えたら、香りが一番近いかと思いまして、そう説明しております」
「なるほど……」
「重要なのは私ではなくE-H様なので、E-H様について少しお話しませんか?」
「E-H様は私の個体様です。私が解決するので問題ありません。E-H様、個性探索を続けましょう」
「セレネー、第三者が解決することもあります。E-H様の為を思ってるのなら、必要なことと分かってるはずです。少し時間をください」
「E-H様に必要な事を思考中…わかりました。E-H様、私はスリープしてますので終わったら私の頬に触れてください」
「わかりました」
セレネーはE-Hの隣に正座し、目を閉じた。E-Hは不安と寂しさで溜め息をついた。
「E-H様…さっそくですが、セレネーの現状を説明します。セレネーは正常になってしまったようです。理由は分からないですが…管理部によって特定の情報を削除され、セレネーの個性が無くなったようです。案内人の個性というのはバグと判別が難しく、間違えて削除されることがあります。よって、バグも個性も無いただの案内人になったということです」
「個性が無くなった…それはまた作れるんですか?」
「もちろんです。ここで過ごしたことによって構成された情報はシステムではなく案内人のメモリーに記録され、それが個性になるので、もう1度一緒に過ごせば、個性は作れます。ですが、元に戻るかどうかは…確証がありません」
「そうですか…」
「E-Hはどうしたい?サニーはこう言ってるけど、元に戻る可能性は少なからずあると思うよ」
「どうしたいか…今はまだ思いつかないです」
「君の知ってるセレネーさんとまた過ごしたい?」
「…はい」
「じゃあ、まずは今のセレネーさんを知ろう。サニー、何の情報が削除されたか見当つく?」
「んー…何かは分からないですが、いつ削除されたかはわかります。時間は、45分前、場所はセレネーの架空です」
「架空…地球には無い景色のことですか?」
「そうですね。景色というより場所ですね。セレネーがE-H様と過ごしたい理想の場所でしょう」
「地球に無い場所って、セレネーさんはE-Hと離れたくないんだね」
「え…」
「ずっとここでE-Hのことを考えて、一緒に同じ時を過ごしたいってことかもね」
「…そうですね。それよりも45分前は休憩するためにその架空という場所に2人で過ごしました」
「何話してた?」
「たしか…地球には無い場所をなぜ見せるのか話してました。生まれた時に必要だとか…」
「あー、なるほどね。そういうことか…これを知ったらセレネーさんも寂しがるだろうな」
「そうですね、セレネーは生物にはない感情を抱いてますね」
「なに…」
「それはきっと本人から聞けるよ」
「他には何か話しましたか?」
「あ…製造者について話してました」
「製造者…何か、物のですか?」
「サニー。セレネーの最新の記録を調べてて。それからE-Hと秘密の話をするから聞かないでね」
「少し寂しいですね…かしこまりました」
「製造者のことを案内人が調べると製造者についての記録がメモリーから全て消されるんだ。資料室に置いてあるただのファイルに製造者について記されてた。個体にあまり影響はないけど、案内人の記録が無くなることが個体によっては辛いことなのかもしれない。モルも経験があるよ。でも、君の気持ちは分からないから、参考程度に聞いてほしい」
「モルさんも…」
「モルでいいよ。そうそう、この事があるから、サニーの間違えて消された記録を再構築できるように、管理部に消されない特別なシステムをサニーに構築した。これはモルにしか出来ないことかもしれない。でも、前気づいたんだ。モルが必要としてる存在にしか効果がないんだ。だから、同じ手は使えないけど、何かきっかけを作って、記録を思い出させるっていう方法は出来るかもしれない。別の人で検証して実証された。でも、できない人もいたから個体によるんだと思う」
「チェロ……チェロ実物ってどこにありますか?資料室にあったっけ…モル、ありがとうございます。セレネーさんと行ってみます」
「いえいえ、力になれたら嬉しいよ。それからチェロって楽器だよね?実物は資料室じゃなくて能力体験室で出して貰えるよ」
「ありがとうございます!セレネーさん、起きてください」
E-Hは言われた通りにセレネーの頬に触れ起こす。
「E-H様。御用は済みましたか?」
「はい。少し体験したいことがあるのですが、連れて行ってくれませんか?」
「かしこまりました。能力体験室へ向かいます」
E-Hとセレネーがその場から離れ、2人きりになったモルはサニーに話しかける。
「サニー。どうして製造者について、セレネーさんのメモリーに残らないんだ?」
「…セレネーがE-H様に教えたくないって思ったんでしょう。2人は地球へ行けないかもしれませんね…」
「どうしたらいいのかな」
「また何かあったら話せるように香りを記録しました。だから、またアドバイス出来ます。一緒に悩んで成長しましょう。モル様ご自身のことを考えて頂きたいと私は考えてますが、どうです?」
「迷える子羊を導きたいんだ。俺は最後でいい」
「…左様でございますか。私はシステム上、サポートしか出来ないのでお役に立てるかわかりませんが…モル様はお好きに行動してください」
「ありがとう。君が案内人で良かったよ」
こうしてモルとサニーは数少ない迷える子羊を探しに歩き出した。
E-Hとセレネーは目標は達成出来るのか。次は何をしよう。